異次元 | ナノ


異次元 
【すんどめ:VS司馬昭】
 




「名無し……、好きだ……」

司馬昭は何度も角度を変えながら、夢中でキスを繰り返す。やがて、名無しの唇がうっすらと開いたので、その隙間に自身の舌を滑り込ませた。

「は、ぁ……。子上、だめ……」

名無しの抗議の声が上がるが、司馬昭は全く意に介さない。むしろ余計に勢いづいていく。

「何で駄目なんだよ。俺はずっとこうしたかったんだぜ?」
「でも、でも……。ベッドじゃないから……」
「あー、そういやそうだな」

そういえば立ったままで彼女に襲い掛かっているから、背の高い男に抱き締められた名無しの踵が浮いている状態だ。

ようやくその事実に気付いた司馬昭は彼女の腰と膝裏に腕を回して抱きかかえ、寝室まで移動する。お姫様抱っこを軽々こなす彼氏の姿に名無しはますます惚れ直したのか、うっとりと瞳を潤ませた。

「子上、力持ちなんだね。すごい……」
「そうか?まあ、これでもそれなりに鍛えてるし」

寝室の扉を器用に足で開けながら、司馬昭はベッドまで歩く。

「ほら、これならいいだろ?」

名無しをそっと寝台に横たえ、すぐに自分も乗り上げる。そして彼女に覆い被さりそのまま体重をかけると、彼女の両手を押さえつけて身動きが取れないようにした。

「子上、手、痛いよ……」
「ああ、悪い」

名無しの訴えに従い彼女の手を拘束する腕の力を緩めたが、まだ開放するつもりはない。

このまま押し倒して服をひん剥いて、滅茶苦茶に犯してやりたい。

そう思うのは山々であるが、こんな美味しい状況で、一時の感情に任せて台無しにするわけにはいかないだろう?∞この夢の中をもっと堪能しないと勿体ない≠ニ訴えるもう一人の自分がいる。

名無しの言動に感激しまくるこの夢は、現実世界では決して得られない貴重な体験だ。それならば、この夢の設定とやらを最大限に活用しなくては。

「名無し。さっき俺に『今日はご主人様の日だから』って言ったよな」
「う、うん……」
「じゃあ、今日はずっと俺をご主人様扱いしてくれるのか?」
「!それは……」

男の質問に、名無しはオロオロする。そして、あからさまに視線を逸らして口ごもった。

「そう言ったのはお前だぜ。まさか、無理ですとか言わないよな」
「言ったけど……」
「じゃあ、ちゃんとご主人様扱いしてくれないと」

分かっている。名無しは嘘をつくような女ではない。単に人一倍恥ずかしがり屋なだけなのだ。

恋人の喜ぶ顔が見たいと願い、その思いを叶えるために行動しようとする彼女の気持ちは本心なのだが、今から自分がする役目を考えると、どうしても体の奥底から込み上げる羞恥心が上回る。

「なあ、お前は俺のメイドなんだろ」
「あ……、でも……」
「ご主人様の命令は絶対だよな?ちゃんと俺の言う通りにしないとダメじゃん」
「うぅ……。それは……子上……」
「子上じゃない。ご主人様」
「……っ」
「それとも何?ご主人様の言うことが聞けないのか?」

最愛の男性から命じられ、名無しは肩をビクッと震わせた。しばらく迷った末に覚悟を決めたように顔を上げると、彼の目を真っ直ぐに見つめて言う。

「……っ、ご、ご主人……様……」

その言葉には躊躇いや恥じらいが多く含まれていたが、それでも彼女は最後まで言い切った。

彼女なりに努力した結果だ。だから司馬昭もそれに応えなくてはならない。

「何だ。聞こえないぞ」

ご主人様ポジションに一度ついた以上、メイドに甘い顔をしてはならない。こういう場合、絶対に聞こえないフリをするものだ。

「……ご主人様。あの……その……私、やっぱり……」

か細い声で訴えかける名無しに、男は『駄目だ』と首を振る。

「使用人の分際でご主人様に逆らう気か?」
「ち、違います……。私はただ……」
「違わないだろ。今日一日お前はずっとメイドなんだから」
「……はいっ……ご主人様……」

司馬昭が語気を強めて命じれば、名無しは観念したように頷く。

何て健気なんだろう。こんなに可愛くていじらしい女をいじめるなんて、俺って酷い男だなと自嘲する。

しかしながら、同時に酷く興奮しているのも事実だった。普段は優しくて穏やかな彼女が自分のためにメイドになりきってくれるなんて最高じゃないか。

「じゃあ、まずはご主人様に挨拶だな」
「……?仰せの通りに……。ですが挨拶というのは、どういった……」
「自分で考えてみな。ご主人様への挨拶は何て言うんだ」
「ご、ご主人様……。私はあなただけのメイドです」
「それだけか?」
「……っ。どうか、私をお好きなようにお使いください。この身を、心を、すべて捧げます……」

名無しは恥じらいながらも、懸命に言葉を紡ぐ。そんないじらしくも淫らな姿に、司馬昭の下半身は一気に熱を帯びた。

ああ…、たまんねえな。ほんと、こんな可愛いメイドなら一日中どころか死ぬまで雇っておきたいくらいだ。

「はは、いい子だ」

司馬昭は満足そうに微笑み、名無しの唇のラインを確かめるみたいに人差し指の腹でやんわりとなぞる。

その指使いがとてもいやらしい動きに感じられ、名無しは背筋をゾクゾクっと震わせた。

「さーて。それじゃあ、早速命令しようかな」
「な、何なりと……お申し付け下さいませ」

緊張しているのか、それとも期待しているのか、名無しの声は震えている。そんな彼女の様子を見ていると、余計に司馬昭の中で雄の欲望がムクムクと膨らんでいく。

自分の望み通りのシチュエーションで好きな女を抱けるというのは、想像以上に興奮するものだということを初めて知った。

しかも相手は現実世界において、司馬昭が口説けば口説くほど、その腕の中から何とかして逃れようと藻掻く女。この状況で盛り上がらないはずがない。

「そうだなあ。まずは、俺の服を脱がせてくれよ」
「……え!?」

てっきり、最初から直接的な奉仕活動をさせられると思っていたのだろう。あいにくそういう気分ではない。というか、今日はとことんまで彼女を苛め抜きたい気分だったのだ。

普段の名無しに対する意趣返しと言えばいいのだろうか。名無しには悪いが、そう簡単には終わらせない。名無しが恥ずかしがりそうなことを次から次へと要求して、たっぷり時間をかけて意地悪をしてやるつもりだ。

散々振り回されている身としては、これくらいの仕返しは許されるだろうと思っている。


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