異次元 | ナノ


異次元 
【月下美人】
 




元々強い匂いがする物は苦手だが、中でも甘ったるい匂いは特に苦手だぜ。


砂糖菓子の匂い、蜜の匂い、花の匂い、香水の匂い、化粧の匂い。


好きな奴も多いだろうよ。だが俺は嫌いだ。戦の邪魔だ。緊張感と鋼の意思をぐらつかせる誘惑の権化だ。


毎年季節が来ると城の中庭で咲き誇る大輪の月下美人の花。


香りが強いので近くを通りかかるだけで気付く。気持ちが悪くて吐きそうだぜ。


暗闇の中で光る月下美人を見ていると、その純白の姿に反して何とも言えず淫靡で、蠱惑的で、誘うようで、魔性の生き物と対峙しているような錯覚を抱く。


この花の匂いを嗅いでいると、頭もクラクラして目眩がする。五感が鈍る。


理性が飛んで、正常な判断が出来なくなる。体の深い部分が刺激されて、ウズウズして、変な気分になってくる。獣みたいになるんだよ。


ああ、この匂い。甘すぎて気が狂っちまう。


段々俺が俺じゃなくなっていってしまいそうなんだ。




─────匂いがキツくて。




─清正夢・【月下美人】


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