異次元 | ナノ


異次元 
【吸血王】
 




「んやぁぁっ…イッちゃう…、これだめぇぇ…イク…、イク…、イッちゃう……っ」
「いいぞ。好きなだけ達するがいい」
「あっ、あ…っ、賈充…本当にもう…もう……っ!」
「イけ」

男は短く、そして鋭く命じて、名無しの体をきつく抱き締めた。密着度が増したことで、より深いところに男根が埋め込まれる。

「子種が欲しいというならくれてやろう。一発で確実に孕むくらいに、一番奥の深いところで中出しをキメてやる」
「ひっ…ぅ…いや…イク…イクイクっ…いやぁぁ───…!」

射精寸前で最高の硬度になった肉棒で最奥まで突き上げられた瞬間、名無しは甲高い悲鳴を上げて達した。

子宮が切なげにビクビクッと連続で収縮して、男のものをきつく締め上げる。その反応に合わせるように、男は熱い飛沫を迸らせた。

「……っ、く……っ」

男は息を詰めると、目を閉じて射精の快楽に浸る。ビクビクと肉茎が震え、くぱっと開いた鈴口から勢いよく精液を吐き出す。

「あぁぁっ……、あ、あぁ……」

中に、出ている。子宮口に直接浴びせかけられるような濃厚な射精に、名無しは忘我の境地で身悶えた。

男の欲望の証を注がれる感触にすら感じ入り、目尻からは生理的な涙が溢れる。体の奥底からじわじわと迫り上がってくる快楽は多大で、全てを手放してしまいたくなるほどに凄まじい。

やがて長い吐精が終わると、男は黙って上体を起こす。男が腰を引いた瞬間、ずるりと性器が引き抜かれる。

「ふ……ぁ……っ」

栓を失った膣内からドロリと白濁液が溢れ出し、名無しの内腿とシーツを汚していく様子を殊更愉しげに見下ろした後、男は乱れた髪を掻き上げた。

「……名無し。もう一度問う。俺の女に、なるか?」

男の言葉に、名無しは荒い息を整えながら緩慢な動作で目線を上げた。その瞳には涙が浮かび、頬が上気している。

もし、万が一。

ここで再度拒否したら、またしても犯され、体内に幾度となく男の精を放出されるのだろうか。

手荒なことはせん∞閨事では優しい男≠セなんて大嘘だ。

この男は鬼か悪魔。己の手腕で淫らに悶える女を追い込んで、袋小路に追い詰めて、女が自分の求めに従い服従の誓いを立てるまで、絶対に逃がそうとしない。

「……っ、はい……、な、なり……ます……」

ついに名無しは陥落した。と、いうよりも、宣言するしかなかった。涙と共に。

男の魔手によって散々責め抜かれ、いたぶられ、嬲られ、辱められ、快楽地獄に落とされて、今となっては正気でいられるはずもない。逆にここまでよく耐え抜いたというべきだろう。

「では誓え。今宵からお前は俺の物だ。俺の意のままに、俺が求めればいつでもその身を捧ぐ」

夜の海を思わせる、深く静かな碧色の瞳が妖しい輝きを放ち、人ではない何者かへと変貌を遂げていくような幻想を名無しに抱かせる。

賈充の形良い唇からちらりと覗く犬歯が常人よりも尖っていると感じられたのは、気のせいだろうか。

「返事はどうした」

男の要求を、飲んでは駄目だ。そう思っていても、名無しに抗う術はない。

一刻も早くこの悪夢から解放されたかった。そう思い、彼の命令に従うことは、もはや名無しにとって唯一にして最大の選択肢なのだから。

「誓い…ます…。あなたの、ものに…」

誓いの言葉を呟く彼女の頬を、一筋の涙が伝う。しかしその表情は恍惚としていて、その涙の意味が悲しみによるものなのか悦びによるものなのかは定かでない。

名無しはただ賈充の言葉を反復し、繋いだままの手を弱々しく握り締めた。すると男はそれに応えるように握り返してきて、もう片方の手で彼女の髪を優しく撫でる。

「この髪も、その瞳も、唇も、肌も……何もかもが俺だけの物だ」
「……はい……」
「当然、この体もな。お前の膣は俺専用の雌穴だ。他の男が使うことは、金輪際許さない」
「はい……っ。賈充、の、ものです……」

情欲を含んだ賈充の声に、名無しはコクコクと頷き返す。瞬間、男の口元が傲慢な笑みの形に弧を描く。

「聞き分けのいい女だ。……くく、それでいい」

賈充は名無しの顔を引き寄せ、彼女の唇に自らの唇を重ねた。

互いの体液を混ぜ合い、片手の指を絡めた状態での、黒髪碧眼の若く美しい王子様からのキス。

これが童話の世界であれば、愛の囁きを受けながら王子様の腕に抱かれ、王子様からの求愛に応じ、主人公は『はい』と答えてめでたしめでたし。大団円のハッピーエンド。

それなのに、とめどなく涙が溢れてくるのはどうしてだろう。こんなにも、胸が張り裂けそうに苦しいのはどうしてだろう。

この先、自分を待つ現実はそんなに甘くはない。ロマンチックなどという言葉とは程遠い、陰惨で、残酷な結末。

それでありながら、震える程に魅力的で、どうしようもなく甘美な誘惑。


この悪魔の如く鮮烈で官能的な美男子に魂ごと喰らい尽くされ、魔王の寵姫として全てを支配される────バッドエンド。


「そうと決まれば、早速準備をせねばな」

行燈の灯りが生み出す影の中で、男が笑う。

彼が今、何を考えているのか。自分に対してどんな感情を抱いているのか、名無しには分からない。

氷で造られた薔薇のように冴え冴えと冷たく、ぞっとするほど妖艶な男の微笑が両目に映り、名無しはただ泣き笑いのような表情を浮かべて、その眼光を受け止めるしかなかった。


これから自分がこの悪魔の人形として、どのように飼い慣らされていくのか。


それは分からないけれど、もう決して後戻りはできないことだけを、漠然と感じながら。


「名無し。明日にでも子上達に俺とお前の関係を公表しよう。なるべく早い方がいい───」






───芳醇で、美味そうな血だ。


欲しい。どうしようもなく、あの女の血が欲しくなった。


無垢な女を蹂躙し、陵辱してやるのはいいものだ。真っ白な新雪を踏み荒らし、己の手で色をぶちまけていくような心地良さがあって癖になる。

己が運命を知らぬ名無し、どこまでも愚かで哀れな女。残念だがお前は捕らわれた。今宵からお前の居場所は、日の光が届かぬ冷たい土の下だ。

どれだけ泣き叫ぼうが、助けを求めて手を伸ばそうが、墓を掘り返す救世主など現れん。今後お前と交わる男は、この世に俺をおいて存在しないと知るがいい。

くく……、遠慮はいらない。ここは俺たち二人だけの世界だからな。血を啜った後は丹念に舐め上げ、存分に可愛がってやろう。

俺の舌が唇を這う感触に身悶えて、涙に濡れた睫毛を震わせながら、蕩けるような快楽に喘ぐ名無しの顔をじっくり観察してやるのもまた一興。闇と死に満ちた棺の中で、共に永い眠りを貪ろうではないか。


誓いの接吻により、血の契約は成された。もはやお前は俺と同じ闇の住人。


体液の一滴、細胞の一欠片から生殺与奪に至るまで、お前の全ては俺の物だ。その命尽きるまで、否、尽きたとしても離してやらん。


人間の女相手であれば言わずもがな、たとえお前が穢してはならぬ女神や天女の類いであったとしても、地の底に引きずり込んで逃しはせんぞ。



俺の許可がない限り、地上に出ることも、死ぬことも───狂うことすら許さない。





―END―
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