異次元 【吸血王】 賈充は名無しの手を取って、指先を軽く口に含む。そして舌先でペロリと舐めてから離し、今度はそこに自らの指を絡めた。 名無しの意思をどこまでも無視した強引で身勝手な行為には変わりがないのに、突然恋人同士がするみたいに親密な仕草で触れられて、名無しの心臓は痛いくらいにドキンドキンと鼓動を刻む。 「どうだ名無し。妙な男共に付け狙われるのはもう飽きただろう。いっそ俺の女にでもなってみるか?」 「……っ!?」 言いながら、男は結合部を指先で緩くなぞった。 名無しの頬に、瞬く間に赤味が差す。男はいつも通りの冷血な笑みを浮かべてはいるが、その声音には珍しく、冗談の色が滲んでいない。 発言の意図が全くと言っていいほどに読めず、名無しは絶句する。 「どうでもいい縁談を一蹴するのに効果的な別の手段は『特定の相手がいる』と伝える事だ。そうすれば、虫除けになって俺の面倒が一つ減る」 「……。」 「厄介事を抱えているというならお前も同様。ならば、お前にも決まった男がいる事にすればいい。この俺が」 賈充は、何を言っているのだ。突拍子もない提案に名無しは呆然とする。しかし彼は平然としたままで、むしろ名無しの反応を面白がっているようにさえ見える。 「無論、お前にとっても利がある話だ。考えてもみろ。俺の所有物となれば、今も、今後も、悪い虫は消え失せる。俺を敵に回してまでお前にちょっかいを出そうとする馬鹿はそういない」 「そ、それは……」 男の言葉を頭の中で咀嚼するが、いまいち理解できない。 確かに、賈充の言う事は一理あるかもしれない。だけど、それはあくまでも表面上だけの話だ。 まず第一に、たとえ賈充と恋仲になったとしても、彼が名無しに飽きればすぐに捨てられてしまう。この提案だって、彼の気まぐれと予定変更で突然始まったものなのだから。 そして第二に、これが一番重要であるが、賈充の交際相手になるということが名無しの人生においてどれほどの苦難をもたらすのかということだ。 図らずも、賈充自身が名無しに告げたではないか。狙った男の妻になるためならば、どれほど鬼畜な手段をも辞さない者達が世の中には大勢存在していると。 つまり、彼の恋人になれば名無しも例に漏れず、その『酷い目』に遭う可能性が高い。賈充との縁談話を邪魔する、何よりも鬱陶しく許し難い存在として、彼女が次のターゲットに切り替わる。 それは賈充だけではない。曹丕、司馬懿、司馬師、司馬昭、鍾会、夏侯覇も全員そう。彼らの相手に選ばれたら、そういった女性達やその身内からの激しい嫉妬や憎しみが自分一人に集中するということだ。 名無しは決して馬鹿な女ではない。 だからこそ、名無しは今までの生活において常に自分の中で一線を引いていた。もしそうなったら 『曹丕様の御后に選ばれるなんて嬉しい!』 『鍾会様と交際出来るなんて幸せ』 などと、何も事情を知らない無邪気な女性達と同じく純粋に喜んでいる場合などではないという事は、彼らを取り巻く恋愛事情を身近でいつも見ている名無し自身が一番よく承知しているのだから。 「案ずるな。お前が想像しているような事態にはならん。女一人の身くらい、己の手で守ってやれるつもりだ」 賈充は名無しの懸念を払拭するように語り、下から軽く突き上げる。緩やかな刺激に、名無しは『んっ……』と鼻にかかった吐息を漏らす。 「身の安全に加え、俺という後ろ盾が得られる。お互いにとっていい買い物だとは思わんか」 男は悪びれもせず、まるで商談を持ちかけるかのように言う。名無しはぎゅっと唇を噛み締め、頭を振った。 「……いいえ……」 急にそんな事を言われても、到底信じられない。 男の言葉を、決して信用してはならない。今の自分の有様を見ろ。自分はすでに一度、彼に騙されている身ではないか。 否定の返事が名無しの精一杯の抵抗であることは男にも分かっているだろう。その証拠に彼は目を尖らせると、一気に腰を引いた。 「ひいっ……!」 ズルリという感触に、非難の言葉を述べる暇もなく、再び勢いよく最奥まで突き上げられる。 「あぁぁ───」 容赦のない抽挿に、名無しは涙を流しながら喘いだ。子宮口の入り口に、ぐちゅり、と硬く充実した鬼頭の先端が食い込む感触。恐ろしいまでの快楽に、名無しは為す術もなく身悶える。 「あっ、あぁんっ……奥、だめぇぇ……、こんなのもう……もう……っ」 「この賈公閭が、寵愛してやると言っているんだ。これ以上の贅沢があるか」 賈充の口調には、有無を言わせぬものがあった。男は腰をグラインドさせて、亀頭でぐりぐりと肉壁を押し広げつつ、結合部の上で勃起している肉芽を指先で摘まみ上げる。 「ひいぃ……!あぁぁ───っ」 せっかく戻りかけていた思考が、またしても濁流の中に押し戻された。なんとか反論しなければ。 頭ではそう思っているはずなのに、口から出てくるのは情けない喘ぎ声ばかり。 「俺にここまで言わせておいてそれでもまだ拒むというつもりなら、こちらにも考えがあるぞ」 「……っ、いや……、お願いです、もう……」 「このまま、俺の子種を注いでやる。孕むまで何度でもな」 ゾッとするほど冷たい声音で紡がれる言葉に、名無しは震撼する。彼が本気であるということが、ひしひしと伝わってきたからだ。 「い、いや……いやぁ……」 その恐怖は、快楽と混ざり合って名無しの理性を粉々に打ち砕く。膣壁を何度も擦られながら愛液でヌルヌルした指で肉芽を扱かれると、抗わなくてはと分かっていても、男の精を求めて勝手に腰が動いてしまう。 「……子宮が下がってきたか?」 男は名無しの下腹部に手をやって、その感触を確かめるようにぐっと押し込む。ぐぷりと、凶悪な巨根の先端がより深く食い込んできて、名無しは意識を失いかける。 「ひぅ……っ、ん、んんっ……」 「子作りがしたくてたまらないようだな。お前の体は」 「……あぁんっ!ち、違……っ」 否定しようとした言葉は嬌声へと変わり、男の嘲笑を誘うだけだった。事実、彼の言う通りだ。子宮は子種を求めて、男の雄に媚びるようにちゅうっと吸い付いている。 「や、やめて……もう許して……」 「許す?何を許せばいいんだ」 「あぁーん……お願い、賈充……これ以上は、おかしくなるの……」 男の問いかけに、名無しは嗚咽交じりの声で答えた。 感じる部分を雁首と太い肉幹で幾度となく擦られ、その上、花芯までぐりぐりと押し潰されて。 強すぎる快楽は、拷問と紙一重だ。名無しは押し寄せる快楽の強大さに耐えようと、男の首にひしっとしがみついた。 「やぁっ……ぁ、あ……だめっ……!本当に、変になっちゃう……!」 気持ち良すぎて気が狂いそうだと訴える彼女に、男は不敵に笑って答える。 「構わん、狂え」 プツン。 その言葉で、名無しに残された最後の『何か』が崩れ去った気がした。 男が激しく腰を打ち付ける度にパンッ、パンッと肌同士がぶつかり合う音が響き渡り、名無しの視界にチカチカと星が飛ぶ。 [TOP] ×
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