異次元 | ナノ


異次元 
【吸血王】
 




「あっ、ぁ……っ、だめ、だめ……もう……」

名無しの嬌声が一段と大きくなる。腰がゆらゆらと揺らめき、太腿が小刻みに痙攣している。

陥落するまでもう少しか。

賈充は名無しの表情を盗み見る。頬はすっかり紅潮し、潤んだ瞳は快楽に蕩けているように見えた。普段よりも幾分幼く見えるその表情が、妙に愛おしく、可愛らしく感じられる。

「お願い、賈充……。そこばっかり、いじめないで……」

普段の真面目な姿からは想像もつかないような淫らな表情で訴えかける名無し。そのギャップに劣情を刺激されつつ、賈充は内心でほくそ笑む。

「そこ、とはどこだ?」
「ん……っ、耳……と、胸……です……」
「なら、もっと愛でてやろう」

賈充は耳の上部をぺろりと舐めてから唇に挟んで吸い、指で乳首を軽く撫でて刺激を与える。すると名無しは体を仰け反らせながら声を張り上げた。

「やぁぁ……、そんなに……ずっと、されたらぁ……」
「嫌?本当に?」
「ぁ……、だめ、おかしくなる……」
「別におかしくなっても構わんが?」

耳の穴で舌を動かし、わざと水音を立てながら愛撫する。反対側の耳には指を突っ込んだり、柔らかい耳朶をふにふにと揉んでやる。

「あぁっ……だめぇ……、それ、だめなの……」
「だが、気持ちいいのだろう」
「や……やだぁ……。賈充のが……、入ってる、みたいに、なっちゃう……」

名無しの言葉に、賈充は口内に唾液が溜まるのを感じた。いつもは楚々とした佇まいで、性欲とは無縁そうな名無しが、今は快楽に溺れてその目は虚ろに潤んでいる。

こんな姿を他の男が見たらどう思うだろうか。まず間違いなく、誰もが劣情を催す。己の下に組み敷いて、白い両足を左右に大きく割り開き、淫らな蜜で濡れた秘部に己の欲望を突き入れたい衝動に駆られるだろう。

「あっ、ぁ……、賈充……、賈充……」

名無しの目尻から涙が一筋流れ落ちる。それを見た瞬間、賈充は股間に血が集まって下穿きがキツくなるのが自分でも分かった。

これは予想以上に、腰にくる。

司馬昭にくれてやるのは非常に惜しい。いや、そうではなく、他の男には指一本触れさせたくない。自分だけのものにしたいという独占欲にも似た感情が湧き上がる。

「我慢できないというのなら、意地を張らずに俺を求めればいい」
「ひ、ぅ……。でも……私……」
「とりあえず、もう一回イカせてやろう。何でイキたい。耳か、口内か、乳首か……もっと下か」
「ぁ、ぁ……。だめ…ぇ、そんなの……」
「言わないのならこちらで勝手に決めるぞ。手マンか、クンニか、中イキか、それとも中出しか?」
「ぁ、ぁぁ……っ、やだぁぁ……えっちなこと……言わないで……」

ゾクゾクする。頭がクラクラする。こんなにも美しい男の口から卑猥な言葉が紡がれるのは、いっそ倒錯的で官能的ですらある。

とても現実の世界での出来事だとは思えない。これは、自分が見ている淫夢ではないだろうか。夢ならば、無駄な抵抗などすることもなく、このまま溺れてしまってもいいのではないか。

早く楽になりたい。このまま狂ってしまいたいという願望が、名無しの思考をドロドロに溶かしていく。

「賈充……。もう、お願い……」

切なげに眉を寄せながら懇願する名無しの姿に、賈充の征服欲が満たされていく。舌舐めずりをしたくなる衝動を抑えつつ、あくまでも主人は自分であると知らしめるために、高圧的な態度で問い掛ける。

「俺に、どうされたい」
「んっ……、ぁ、ぁぁ……」

耳と乳首への愛撫を続けながら、徐々に名無しの退路を断つ。

本当はもっと淫らな言葉を言わせたいが、初回で虐めすぎるのも逆効果だ。むしろある程度は名無しの意思を尊重しながら、最後に一気に畳みかけて屈服させてやった方が旨味がある。

「……さ、触って……ください……」
「どこをだ?」
「ぁ……、わ、私の……乳首……です……。もっとちゃんと……触って、欲しい……」

名無しは消え入りそうな声でそう呟くと、恥ずかしそうに俯く。その仕草に、ますます腰がずくんと震え、精巣に精子が充填されるような感覚が生まれた。

完全に前が張り詰めていて、痛いくらいだ。今すぐ取り出して扱きたいところだが、それはもう少し後回しにして、今はこの光景を愉しみたい。

「いいだろう」

賈充はニヤリと笑い、名無しの乳房を鷲掴みにする。そして、彼女の望むままに乳首を摘み上げ、指で挟んで擦り合わせたり引っ張ったりした。

「あっ……あぁぁ───!それっ……」

強烈な快感が名無しを襲う。今まで散々焦らされた分、直接的な男の愛撫はより強い刺激となって彼女の身体を駆け巡る。

「んぁぁっ、だめぇぇ……」

賈充が手を少し動かすだけで名無しは甲高い声を上げて啼き、だらしなく開いた唇を唾液が濡らす。指の動きに合わせて揺れる乳房にむしゃぶりつきたい衝動に駆られるが、まだ早い。

「やっ、ぁ……、そんなに、しちゃ……だめ……」
「ならどうしろと?」
「ぁ、ん……。もっと優しく……してぇ……」
「無理だな」

即答し、賈充は名無しの首筋に舌を這わせる。そのまま鎖骨まで下りていき、強く吸い付いて痕を残す。

「んっ……、ぁ、やっ……」

名無しの体がぴくりと跳ねる。さっきも沢山キスマークを付けられたはずなのに、それでもまだ足りないというのか。

吸われる度に小さな痛みを感じるが、それすらも今の名無しには心地良い。

「だめ……そんなとこ……」
「何故拒む。見られたら困る相手でもいるのか」
「そ、それは……」

名無しの世話を任されている侍女たちや、この城で一緒に働く仲間達の顔が脳裏を過ぎる。何かの拍子で見えてしまったら、自分はどうしたらいいのか。上手く説明できる自信がない。

「誰に見られようが、俺は別に構わんが。むしろ……」
「んんっ!」

チクッ、と首筋に痛みが走り、名無しは悲鳴を零す。賈充が彼女の肌に歯を立てたのだ。

「この体に余すところなく、俺の痕を付けてやりたい」
「あ、ぁ……、やぁ……」

首筋に噛み跡を残すという男の行為が吸血鬼を彷彿とさせ、名無しは昔書物で読んだドラキュラ伯爵の話を思い出す。

吸血鬼は首筋に牙を突き立てる。それが何故『快楽』や『性的興奮』に結び付けられるのか不思議に思っていたのだが、思えば首筋は性感帯の一つだ。いわば性感帯に刺激を与えるわけで、それが転じて気持ち良さに結び付くのかもしれない。

小説や舞台といった創作の世界に登場する吸血鬼は恐ろしい化け物の姿をしている例もあるが、作品によっては若く美しい男女の姿で描かれることもある。

貴族のように洗練された衣装を身に纏い、夜の月を思わせる白い肌に、血液と同じ色をした赤い唇。髪は黄金の如き金髪や銀髪、もしくは烏の濡れ羽色で、妖艶な光を放つ瞳は宝石のように煌めいている。まるで賈充のことを体現したかのような姿ではないか。

もしそうだとしたら、普通の女がそんな相手に逆らえると思う事自体が間違っている。単なるマゾヒズムという言葉で言い表すには度が過ぎる程に強烈な快感をもたらす賈充の責め苦と支配力は、まさに吸血鬼としての能力を彷彿とさせる。


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