異次元 【吸血王】 「それに、さっきの台詞もいい。俺の舌で耳を犯されて発情したか?」 「なっ……」 「俺に耳の中を長い時間嬲られて、疑似交尾をさせられているような気分になったのだろう」 「ち、違います……、そんなこと……っ」 名無しは哀れな程に顔を紅潮させながら、慌てて首を横に振る。だが、賈充はその否定を黙殺し、淫らな笑みを浮かべた。 「一つ教えておいてやろう。女から『もっとして』とねだられるのもそれはそれでそそられるが、『お願い、やめて』『入れちゃイヤ』と抵抗されると、さらに追い込んでやりたくなるものだ。特に俺のような性格の男はな」 「!」 「ああ……、それだ。その顔だ。俺はその顔が心底好みだ」 今にも泣きだしそうな表情で、それでも気丈に唇を引き結ぶ名無しに、賈充はゾクゾクとした快感を覚えた。 「快楽に溺れているというのに、心は違いますという顔をする。私は決してあなたの思い通りなんかにはなりませんという顔をして、身体はもっと欲しいとねだる。その矛盾がどうしようもなく俺を昂らせる。そして、壊してしまいたくなる」 「そ、そんな…、私…そんなつもりじゃ……」 狂気が混在した男の欲望を垣間見た気がして、名無しは震える声で必死に言葉を紡ぐが、既に賈充の耳には届かない。 「そうやって怯えた目で見つめられると、更に嗜虐心が煽られる。俺の好みを分かってわざとやっているのか?だとすれば、お前は相当悪い女だな」 「違、い……ます……!」 「であれば、お前の本性が娼婦だということなのだろう」 「……違……」 「ならどうして俺を挑発する?誘っているとしか思えないが?」 「ひっ……!」 今にも気絶しそうな名無しの頬にそっと手を添えて、賈充が残酷で理不尽な問いを放つ。まるで催眠術のように、その声が彼女の脳や神経を侵食していく。 「大して期待できんと思っていたが、なかなかどうして男を惑わすのが上手い。これは案外掘り出し物かもしれんな」 「そ、そんなこと……ないです……」 「これ以上面倒事が増えたら煩わしいから俺以外にはするなよ。そんな姿を見せたら、他の男もお前を欲しがりだす」 「あ……」 耳を愛撫していた手がするりと首筋を伝い、鎖骨の辺りまで滑り落ちる。それだけで名無しの身体はさらに熱を帯び、心臓の鼓動が加速する。 「さあ名無し。この身体で、もっと俺を愉しませてみろ」 耳元で低く降らされる言葉。それは、表現のしようがないくらいに甘やかな誘惑だった。 頭の中で、ガンガンと鈍い音が鳴り響く。これは警鐘だ。目の前の男の眼差しが、鋭い針のように名無しに突き刺さる。 逃げろ、と。もう一人の自分がさっきから懸命に叫んでいるのに、抵抗できない。 男の唇が、再度名無しの耳朶に近づいてきた。軽く歯を立てられ、甘噛みされると、そこから走る甘美な電流に思考能力を奪われる。 「ぁ……、あぁぁ……」 唇の隙間から漏れる、媚びるような吐息。それは間違いなく発情した雌の鳴き声で、賈充の雄をこれ以上なく刺激する。 男は耳への愛撫を続けたまま、器用に右手を胸元へ滑らせると、下から持ち上げるように乳房を揉む。 「あっ……」 触れられた箇所が熱い。否応なく昂ぶっていく熱は留まることを知らず、じわじわと名無しの身体を蝕んでいく。 「やっ……、だめ……」 拒絶の言葉とは裏腹に、名無しの肉体は素直な反応を示していた。胸の頂は硬く立ち上がり、下半身の疼きはもう言い逃れが出来ないほどに強くなっている。 「名無し」 吐息混じりの、低く艶のある声。普段の数倍男性的で色っぽい声のトーンで、鼓膜に直接注ぎ込むように、賈充にそんな風に名前を呼ばれたら、もう……。 「ゃぁ…ぁ……。耳、も、胸、も、だめぇ……。変な声、でちゃうから……、お願い、やめて……」 「やめない」 「やっ……あぁんっ……!」 名無しの懇願は一蹴され、そのまま耳朶を甘噛みされる。男の骨ばった指が胸の先端を掠める度、甘い痺れが全身を貫いた。 「ひぅっ、ぁ……。だめ、それぇ……」 賈充の巧みな愛撫で一度絶頂を極めた体は敏感になっていて、ちょっとした刺激にも大袈裟なくらい反応してしまう。それなのに、耳と乳首を男の舌と指で同時に責められて、意識が少しずつ削り取られていくのを感じていた。 「あっ……、ぁ、やぁぁ……」 理性が、薄れていく。こんな場所で、こんなことをされているのに、何も考えられなくなっていく。 余計な事など一切気にせず、悩まず、何もかも手放してしまえたらどんなに楽になれるだろうか。そう心から願うほど、この行為に没頭していたいという衝動に支配される。 「もう蕩けた顔をしているな。お前は本当に快楽に弱い」 もっと見せろ、と賈充は声を落とし、今度は逆の耳を舐め始める。先程までと全く同じ手順だが、名無しにとってそれは既に拷問のような責め苦になっていた。 身体の中心が熱い。もっと強い刺激が欲しい。なのに、賈充はわざと焦らすように乳首の先端や側面を弱い力で撫でるだけで、決定的な刺激を与えようとはしない。 「ひぅ、ぁ……、やだぁ……」 こんなのは、嫌だ。早く楽になりたいという気持ちと、男の言うなりにはなりたくないと思う気持ちと、相反した思いがごちゃ混ぜになる。 「どうした?先程から腰が揺れているようだが」 賈充の言葉に、名無しはハッと我に返る。知らないうちに、彼の太腿辺りに下半身を擦り付けていたようだ。 恥ずかしくて、かあっと顔が熱くなるのを感じた。 けれども同時に、このまま身を委ねてしまいたいという欲求が湧き上がってくるのもまた事実であり、それに加え、これ以上されたら本当におかしくなるという怯えもあった。 「……また表情が変わったな。お前のその切なくて苦しくて葛藤しているような眼差しは、男の欲を駆り立てる」 「んっ…、賈、充…」 「もう、自分が何をしているか分からなくなってきただろう。そうやって淫らに腰を揺らして快楽に喘ぐ様は、少しでも多くの雄に自分の存在を知らせるために鳴き続ける発情期の雌猫とどこが違う?」 「や……ぁ……。そんなこと、言わないで……」 「ふ、まだ抵抗出来る理性が残っているのか。その強情さも、なかなかにそそられる」 「っ、あぁ……」 賈充の舌が耳の縁をなぞり、穴の中にくちゅっ、と差し入れられる。指先でトントン、と軽く叩くように乳首の先端をつつかれ、名無しはたまらず嬌声を上げた。 「ひぅ……っ!やぁっ、それ……」 「ほら、また腰が動いたぞ。どうしてだろうな」 「ぁ、ぁっ……、ゃ……」 吐息交じりに耳元で囁かれる言葉にすら感じてしまう。もっと、強くしてほしい。表面をそっとくすぐるだけでなく、もっと直接的な刺激が欲しい。 (……もうじき薬の効果が切れるな) 名無しの体を弄びつつ、賈充は冷静に状況を分析していた。おそらく薬の効果が切れるまであと少しだが、そうなるまでにもっと名無しの官能をグズグズにして、理性を完全に破壊する必要がある。 出来れば名無しの方から求めさせてから次の段階に移行したいので、念のためにもう一度くらいイカせておくべきか。 [TOP] ×
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