異次元 【吸血王】 「感度はいいようだ」 「んっ、ぁ……や、め……」 「経験則からすると、耳が弱い女は多い。性感帯には個人差があるが……お前は随分敏感なようだな。この反応、演技というわけではあるまい?」 意地悪く明言し、賈充は名無しの耳朶を甘噛みした。 あの賈充の唇が、歯が、舌が、己の耳に触れていると思うと、思考からその感触を切り離せない。全身が溶けてしまいそうだ。 「酒に混ぜた薬だが、面白い代物だろう。先日交易で手に入れた品で、四肢の自由を奪う代わりに感覚は消さない。これは中々に興味深い効果だ。相手の抵抗力だけを失わせ、苦痛や快楽からは決して逃れられないのだからな」 ───つまり、投与された人間は薬の効果が消えるまでの間、持ち主の気が済むまで延々と拷問や凌辱を繰り返されるということ。 「あ、あっ……ん、やっ……」 肌が粟立つほどにおぞましい言葉。なのに、今の名無しにはそれを聞く余裕すらない。 執拗に耳を舐められたり、耳たぶをしゃぶられたりすると、それだけで頭がクラクラして何も考えられなくなるからだ。 「や、め……て。お願い、だから……」 残された僅かな理性を振り絞って、名無しは涙ながらに訴える。それなのに、男は彼女の願いを聞き届ける代わりに名無しの耳の穴の中に舌を差し込み、より深いところまで犯していく。 「あっ…、ああんっ…いやぁぁ……!」 弾力のある肉の塊が、耳の中を蹂躙する。 喩えるならば、それはまるで疑似性交。狭い女性器の中に太くて長い男性器が強引に押し入るみたいに、男の舌が好き放題に暴れ回る。 「や、ぁ……っ、だめ、だめ……、賈充……、もう……やめてぇぇ……」 「嫌だと言う割には随分気持ち良さそうじゃないか」 挿入の合間に、低く囁く声に背筋がぶるりと震える。違う。これは、決して気持ちいいわけじゃない。こんな屈辱的な行為で感じてしまうなんてありえないし、あるはずがないのだ。 それなのに、名無しの体は彼の言葉通りの反応を示している。我慢しなくてはと思うのに、下腹部が疼いてたまらない。 「……犯されているように感じるか?」 女の心を見透かすが如く、賈充が尋ねる。 「違…う…、違うの……」 「何が違う。お前は今、俺の舌で耳を犯されて感じているんだろう?」 淫猥な言葉で責められると、それだけで体の芯が熱くなる。そんな自分自身が信じられなくて、名無しは泣きながら悶える事しか出来なかった。 「こ……、こんなの、や、だ……」 言葉と動作で否定すればするほどに、体の疼きは増していく。 それどころかより一層激しくなるばかりで、名無しはもうどうしていいのか分からなくなる。自分が自分でなくなってしまうみたいで怖いのに、体の熱を発散させる方法が分からない。 「さっきも言っただろう。手荒なことはせん、と。他の男がお前の心の中に入る余地などなくなるくらい、たっぷり可愛がってやる」 「あんっ…、賈充…」 「お前はただ、俺の与える快楽に身を委ねていればいい」 「や…、それ、だめ…。耳…、もう、いや、ぁ…」 「目を閉じて、集中しろ。俺の声と舌と唇だけに意識を向けろ。……そうすれば、もっと良くなる」 「あ……っ、やぁ……、やぁぁ……」 「そうだ。そのまま素直に感じればいい」 ぬる、と熱い舌先が耳の穴に差し込まれる。それはまるで、脳を直接犯されているような、甘くて痺れるような快楽。 普段はひやりと冷たい金属か氷塊のような印象を与える男なのに、形良く薄い唇の中に隠された舌はこんなにも柔らかくて熱いだなんて、反則ではないか。 「んゃぁっ……賈充、だめ……舐めないで……」 グチュ、ヌプッ……といういやらしい音が脳内に直接響き渡り、理性を、思考を、何もかもを奪っていく。 それはもはや愛撫というよりは凌辱に近かったが、それが一層名無しの脳内を卑猥な想像で満たし、彼女をより深い快楽の底へと突き落とす。 「ふぁっ……、あぁん……や、ぁ……しちゃだめ……、そんなこと……」 「嫌なものか。こんなに悦んでいるくせに」 「だめ……っ、そこばっかり、やだぁ……。そこ……奥まで、入っちゃ、いやぁぁ……」 両目一杯に涙を滲ませ、名無しが身をくねらせながら悲鳴じみた声を上げた刹那、賈充はようやく名無しの耳から舌を引き抜く。 それと同時に男の人差し指が彼女の耳の中にねじ込まれ、指の腹で穴をほじるようにぐりっと回転されると、名無しの官能は最高潮に達した。 「あ、あぁぁっ……!やぁぁぁ───……!」 今までとは比べ物にならないほどの刺激に名無しは背を仰け反らせ、ビクンッ!と大きく痙攣しながら絶頂を迎える。 「ひっ……、ぅ……、は……、あぁぁ……っ」 言葉に出来ないくらい物凄い快感に、一瞬目の前の景色が吹き飛んだ。名無しは全身を痙攣させながら、はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す。 入ってきたのかと思った。膣内に、ズブリと。本当に、彼のモノが。 「ぁ……、あ……」 子宮の奥がキュンと収縮する。こんな感覚は初めてだった。賈充がしたことは、延々と名無しの片耳を弄ぶだけ。 女性器を直接触られたというわけでもないのに、たったそれだけのことで男の舌で下半身を舐め回されて、あまつさえ、勃起して大きく反り返った男性器を深々と挿入までされたような錯覚に陥り、イッてしまった。 「っ……、う、ぅ……」 その事実を認めるのが恥ずかしくてたまらなくて、泣きたいような思いが募る。自分があまりにも淫らで、汚らしい存在に思えたからだ。 それなのに、身体の疼きはまだ治まらない。それどころかますます強くなっていく一方で、そのことが余計に辛かった。 「ほう。大分乱れているなとは思ったが、まさか耳だけで達するとは」 実験動物を観察でもするかのような、冷静な声で賈充が呟く。 「……ぁ……」 羞恥と屈辱で真っ赤になった顔を見られたくなくて、名無しは顔を背ける。男は名無しの耳に差し入れた指を自らの口元へ近付けて、その指の付け根をこれ見よがしにベロリと舐めてみせた。 男の白い肌と唇から覗く赤い舌のコントラストがいたたまれない程に鮮やかで妖艶で、名無しは無意識に喉を鳴らす。 (……蛇の舌……) 不意に、そんな事を思った。 蛇の舌は先端で二股に分かれ、味覚器官のみではなく嗅覚器官としての働きを持ち、周りの状況を把握していると聞いたことがあるが、目の前の男はまさにそれだ。 賈充が自身の指を舐めた際、ほんの一瞬だけ見えたその舌先が自分よりも長く感じられて、それが余計に淫蕩なイメージを抱かせる。 「何を呆けている。そんなに良かったのか?」 動揺している隙に、賈充の手が再び名無しの耳たぶに触れる。先程よりも更に丁寧に、形を確かめるようになぞられて、名無しはたまらず『あっ…』と悶えた。 「なるほど。お前は情事の際、そういう反応を見せるのか」 「…え…」 「気付いていないのか?今、自分がどんな顔をしているか」 言われて初めて、自分がどんな顔をしているのかを意識する。けれども鏡があるわけではないので、名無しには自分の表情が分からない。 「恥ずかしさと、悔しさと、切なさと、快楽と……。そういう感情が入り混じった、何ともいえない顔をする。たまらんな。書庫で会った時にも思ったが、お前のその表情を見ていると、体の奥から何かがふつふつと湧き上がってくる」 それは、賈充自身も初めて経験する感覚だった。心がざわつくような、胸が締め付けられるような、それでいて妙に高揚している。 未知の感情が芽吹くかのようなその感覚に、彼は静かに目を細めた。 [TOP] ×
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