異次元 | ナノ


異次元 
【すんどめ:VS夏侯覇】
 




この世界での二人の関係がどこまで進んでいるのか単純に疑問に思っただけであって、それ以上の他意はない。

とはいえ、よく考えてみれば付き合っている設定なのにこんな質問を投げかけるのは変だ。

何でそれを相手に聞く?記憶喪失でもない限り、普通はそんなことなど彼氏の方から尋ねないだろう。

これはよくない質問だったかな。やっちまったか…?と夏侯覇が不安に思って返事を待っていると、やがて蚊の鳴くように小さな声が聞こえてきた。

「まだ……」
「えっ?」
「まだ、していません……」
「マジで!?」

半年も付き合っていて!?どんだけ紳士ぶってんだよ、俺!!

それとも、夢の中ですら名無しがあまりにも奥手すぎるのか。『イヤン、夏侯覇のエッチ。まだまだおあずけよ!』と延々焦らされているとか!?ここでの前提条件が全然分からん。

確かに名無しは内気だし、恥ずかしがり屋な性格だけど、いくらなんでもそれはないんじゃない?

夏侯覇は若干引き気味になりながらも、何気ない風を装って尋ねた。

「うーん…。じゃあさ、キスくらいは?」
「キスも、まだ、です……」
「……マジかよ……」

夏侯覇は思わず天を仰ぐ。

いや、待てよ。別に悪いことじゃないんじゃないか?むしろ実にいいことだ。俺の誠実さが遺憾なく発揮されている。

つまり、世間の飢えた男どもと違って付き合ったら速攻でヤろうとするワケでもなく、それだけ彼女を大事にする男だってことだ。

自画自賛だが感心するな!さすが俺! よし!ここはひとつ、俺からリードしてみようか! そうと決まれば話は早い。早速行動あるのみ!

なんたって二人は恋人同士なんだから。

夏侯覇はおもむろに名無しの方に向き直り、彼女の肩をガシッと掴む。

「なあ、名無し。そろそろ始めないか?」
「えっ。な、なにを?」
「俺たち、もう付き合って半年だ。いい加減次の段階に進んだ方がいいかな?なーんて…」

そう言いながら顔を近づけていくと、彼女は躊躇した様子で顔を逸らす。その仕草はまるで生娘のようだ。

普段の彼女からは想像もできない女の一面≠ノ、夏侯覇は強い興奮を覚えた。

「そ、そんなこと…いきなり言われても……。私、心の準備が……」

名無しは顔だけではなく耳まで赤らめている。よほど緊張しているのか、体全体が小刻みに震えているのが分かった。

そんな姿がまた可愛らしく思えて、彼女の服を脱がせてさっさと裸体を拝みたい衝動に駆られるが、ぐっと我慢する。ここで怖がらせてしまっては元も子もない。

「俺のために、恥ずかしいのを我慢してその恰好をしてくれたんだよな」
「…夏侯覇…」
「嬉しいぜ、名無し。俺が選んだ服を彼女に着て貰えるなんて最高じゃん。だから俺も勇気を出したいんだ」

男が真剣な表情で言うと、名無しはしばらく考え込んだ後、林檎のように赤面しながら小さく頷いてみせた。

あああ…、すげー可愛い。なんだこの恥じらい。下半身がムズムズする。こんな名無しの顔を見ているだけで射精しそう。

居ても立っても居られず、気が付いたら名無しに顔を寄せていた。すると彼女は睫毛を震わせ、黙って目を閉じる。

前回の罰ゲームの時とは違い、彼女は一切抵抗しない。完全に夏侯覇を受け入れる態勢だ。

心から愛する恋人に求められた時のように、素直で従順な態度で応じる姿を見ると、征服欲に似た感情が湧き上がる。

このまま押し倒してしまいたい気持ちを何とか封じ込め、そのまま唇を重ね合わせていく。

現実ではないのが惜しまれるが、祝・名無しとのファーストキスだ。

柔らかい感触を楽しむように何度も口づけを繰り返すと、彼女も男の動きに合わせ、たどたどしく唇を押しつけてくる。

(うおー!!これだよ、これ!これがしたかったんだよ俺はー!!!)

胸中で叫び声を上げ、夏侯覇はガッツポーズをした。

柔らかい感触と共に、バニラのような甘い香りが広がる。彼女がつけている紅の匂いだろうか。

実際の名無しの愛用品がどうなのかは知らないが、そんな細けえことはいいんだよ。

(はぁぁ…、超気持ちいい……っ)

夢とはいえ、顔見知りの女性とキスをしているんだと思うとさらに昂った。それが、前回はその直前で邪魔が入って望みが叶わなかった相手なのだから、余計に。

夏侯覇はもっと名無しとの口付けを深く味わいたいと思い、舌を出して唇の間をなぞってみると、名無しの肩がびくりと震えた。

奥ゆかしい名無し相手に最初からディープキスをかますのは飛ばしすぎかと一瞬悩んだが、構うことはない。

何せ自分たちはすでに恋人同士という設定があるのだし、どうせこれは夢なんだから。

そう己に言い聞かせ、今度は舌先でぺろりと相手の唇を舐めとる。名無しは微かに体を固くしたものの、それでも拒む気配はない。

小さく震えながらも瞳を閉じ、されるがままになっている彼女の姿にたまらなくなり、夏侯覇はその流れで舌を口内へと差し込む。

「んっ……」

彼女の舌が慌てたように引っ込んだが、逃がすまいと追いかけて絡め取る。

互いの唾液が混ざり合い、くちゅりと淫靡な水音が響く中、舌の表面同士を擦り合わせるようにして愛撫していく。

「ふっ……ん。むっ……っ……」

時折苦しそうな吐息を漏らすものの、それでも懸命に受け入れようとする健気な彼女を前にして、なおさら欲望が込み上げてくる。

夏侯覇はさらに強く抱き締めながら、夢中で貪るように口付けを続けた。

(柔らけえ…)

そうそう。女の口の中って、こういう感触だったよな。

舌を絡め取りながら歯列や口蓋を舐め上げると、何とも言えない快感が走る。

最初は強張っていた名無しの体から徐々に力が抜けていき、やがて自分からも求めるような素振りを見せるようになったところでようやく解放してやった。

「はぁ……はぁっ……」

解放されるや否や、彼女は大きく息を吸い込み、呼吸を整える。

その表情はすっかり蕩けきっており、潤んだ瞳でこちらを見上げていた。名無しの頬は熱がある時のように紅潮していて、口の端からはどちらのものとも分からない唾液が垂れ落ちている。

そんな乱れた姿が何とも言えず色っぽくて、夏侯覇は無意識に喉を鳴らす。


[TOP]
×