異次元 【茨の檻】 「あっあっ、いやっ…法正殿…やめて、やめて……!」 名無しは泣きながら首を振って、男の行為を止めようとした。 だがそんな名無しの可愛らしい哀願など、法正が聞くはずがない。 唾液をたっぷり絡めた男の舌先でピンピンッと何度も乳首を弾かれ、舐め回され、ぐっと舌を出して押し潰される。 法正が口の中で舌を動かし、少し強めに吸い上げると、ちゅっ、くちゅっ…と卑猥な水音が響く。 「あん…あっ…あああ…法正、殿ぉ…」 初めは我慢しようと頑張っていた名無しの努力も虚しく、堪えきれなくなった彼女の嬌声が赤い唇から零れ落ちた。 まるでダムが決壊して今まで溜めていた水が一気に放出されるみたいに、抑え込まれていた名無しの快感が彼女の全身からぶわっと解放される。 法正の舌と唇が動くたび、甘い喘ぎ声に引きずられる如く、名無しの妖艶な色気がどんどん増していく。 「そのように蕩けきった素敵なお顔をされて…。普段の真面目な仕事ぶりに似合わず、快楽に弱くて淫乱な姫君だ」 「んっ…、違い…違いますっ。はぁ…、ん…そんなぁぁ……」 心と体は裏腹だ。 名無しがどれだけ否定しても、法正によって彼女の体は次第に淫らな反応を示す。 丁寧な愛撫を受けて立ち上がった乳首は硬度を増し、もっと吸ってと言わんばかりにぷっくりと腫れ上がっている。 「あっ…あぁんっ…だめ…それ…だめぇぇ…!」 チュパチュパッと、わざと聞こえるように卑猥な音を立て、口内に含んだ乳首を丁寧に扱き上げると、名無しは今まで以上に妖艶で淫らな嬌声を零し始めた。 最も敏感な性感帯と言われている肉芽の部分や、膣内を責められるのとは種類が異なる刺激に、名無しは得体の知れない快楽の波が押し寄せてくるのを感じた。 弱火でじりじりと炙るような、抑圧された情欲を強制的に高めていくような残酷な口技。 「あん…だめ、法正殿…そんなにしたらっ…あああ───!」 ぴったり唇を密着させ、軽く歯を立てながら法正が乳首に吸い付いた瞬間、名無しの官能は最高潮に達した。 ビクビクッと何度も腰を痙攣させて、淫靡な喘ぎ声とともに名無しが果てる。 「は…ぁ……。ん…、あぁぁぁ……っ」 ぼんやりと絶頂感に浸りながら、途切れ途切れに息を吐く名無しの姿を目の当たりにして、法正は少々狼狽える。 (しまった…、少しキツかったか?) 感じやすい女だとは分かっていたが、胸への刺激だけで達するほどに敏感だとは思わなかった。 世の中には上には上がいて、直接触れられなくても淫語で責められるだけで感極まってイケる、見られるだけでイケるという人間もいると聞いた事があるが、それでも名無しの感度の良さは十分上位に該当するのは間違いない。 こんな状態で、ビキビキに硬度と質量を増した男のモノを深々と突き刺したら、どんな反応をするのだろう。 法正は想像するだけでますます下半身が熱くなり、思わずゴクリと喉が鳴る。 「……辛いですか?」 表面上だけは涼しい顔で、法正が問う。 同意すればもう止めてもらえる、この責め苦から解放されるのだと勘違いした名無しは涙目でコクコクと何回も頷いた。 「では、俺のこの行為をお許し下さいますね。双方合意の上での行為だとお認めになりますね?」 「そ、そんな…!?な…なんで…っ」 「優しくして差し上げたいからですよ。名無し殿が俺を受け入れて下されば、もっともっと気持ちよくしてあげられますが、無駄な抵抗を続けるのであれば少々手荒で乱暴な扱いをせざるを得ません」 「や、ぁっ…!」 男の無慈悲な台詞に、気が遠くなる。 兎や子鹿といった獲物を前にした時に唸り声を上げる獅子や虎のように、油断なくギラリと輝く法正の瞳に、名無しは心底震え上がった。 法正は、本気だ。 「どうしますか」 抵抗すれば生きたまま両手足をもぎ取って多大な苦痛を与える。 抵抗しなければ余計な苦しみは与えず楽に殺してやる、と狼に言われた兎の気持ちはこのようなものだろうか。 これが普段の状況であれば、名無しとてもっと冷静な判断が出来たはずだ。 けれども、信頼していた同僚の急な変貌、予想外の展開、理解出来ない発言、己の意思に反して体内で渦巻く強烈な快楽が入り混じり、名無しの思考は切断寸前の状態だった。 「うっ…うぅっ……。は…、はい……っ」 何故自分はこんな条件を受け入れているのか。 どうして頷いているのか全く分からないまま素直に従う名無しの姿は、強制的に催眠状態に陥って、自ら生贄台に上る人身御供のようだ。 名無しの口から同意の言葉を引き出した法正は嬉しそうに微笑み、ほんの少しだけ、名無しが良く知るいつもの彼に戻ったように思えた。 ……だけど。 「はは…、これは感動ものです。俺の思いを受け入れて下さいますか…。では、今後俺は名無し殿を助平な目で見てもいいということですよね」 「…えっ。えええ…!?」 何故そうなる!? 飛んでいた意識が一瞬戻り、名無しは素っ頓狂な声を出す。 「な……。ど…、どうしてっ!?」 「俺に身を委ねて下さるということは、俺のことを男として見て下さるということで、すなわち俺があなたを女として見ることもお許し頂けるという意味でしょう」 「そ、そんなっ」 そもそも、法正に身を委ねる事に自分は同意した訳ではない。 いや、さっきは同意してしまったのだが、それは法正の迫力と勢いに負けてしまったというか、単なる言葉のあやというか、なんというか……。 神様でも仏様でも誰でもいいから、どうか数分前に時間を巻き戻してほしい。 もっというなら法正の部屋を訪れる前、むしろ彼と出会ったばかりの状態に戻りたい。切実に。 「だ、だめですっ!法正殿にそんな言葉は似合いませんっ。法正殿は、そんなこと絶対に言わな…」 「いや、言いますよ。普通に」 「で…、ですが…私が聞いたのは初めてですよね?それに、今まで一度もそんなこと仰らなかったじゃないですかっ。法正殿が私の前で男…と言いますか、男性の一面を出すなんて…」 ブルブルと頭を振って否定する名無しの目元に法正の指が触れ、指先でそっと涙の滴を掬い取る。 「それは勘違いです。俺は生まれた時から立派なオスですよ。ずっと」 「…っ、ぁ…」 ペロリと、舌舐めずりをする男の姿に、ゾクゾクする。 悪党という呼び名に相応しく不敵な笑みを浮かべる美しい男に、ゾクゾクする。 法正のこの妖艶な魅力の前ではどんな悪事であろうが、どんなに頑なな女性の貞操であろうが、無意味。 美形悪役とはこういうものだ。 [TOP] ×
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