異次元 | ナノ


異次元 
【茨の檻】
 




絶対に負け戦には参加したくない、勝ち馬にしか乗りたくないという者。日和見主義の者。世界平和などどうでもいい者。己に利益がある事しか興味がない者。etc。

こちらの要望に素直に従えば良し。

迷っている者、戸惑う者には説得を重ね、必要とあらば金を握らせた。将来の地位を約束した。

そして……。

『参ったな…法正殿。そなたほどの人物にこうも我が元へ足繁く通って貰い、そのように礼を尽くしたお招きを受けてはさすがの私もこれ以上断るのが苦しくなる』
『それでは文宋殿、お返事は如何に…』
『まあ待たれよ、法正殿。何も私は噂に聞く劉備殿のご人徳やそなたの才覚を疑っている訳ではない。だがこうも言うであろう、魚心あれば水心≠ニ』
『───!』
『いや、何も無理難題を言いつけると言う訳ではない。法正殿のお立場であればそれほど難しくはないはずだ』
『……。』
『何かを得るためには何かを差し出す。何かを犠牲にする。商売においても恋愛においても、果ては政治においても、それが世の習わしというもの』

侍女の注いだ酒を美味そうに飲み干し、悪魔が嗤う。

『…時に、法正殿。例えばそう…そなたの知り合いで、私のような年上の男に純潔を捧げたいと望む、なおかつ14から16の若く美しい処女…。そういう娘がいたりしたら、是非紹介してくれないか?』

他人の心を動かそうというのなら、それに見合った見返りの提供が必要だ。




「はぁぁぁっ…だめぇ…っ!やめちゃやだぁぁ…もっと奥!奥…、奥まで欲しいよぉ……っ」

望む物を得るために自ら足を目いっぱい開き、グリグリと腰を男の股間に押し付けて快楽を貪る。

もっともっとと言いたげに白い尻を上下に振りまくるその痴態は、雄に性交をねだる雌そのものだ。

「おお…、はしたない。お客人の前でなんというザマだ。ほら、ようくその目を開いて見るがいい。そなたが密かに憧れていた、カッコいいと言っていた法正殿だぞ?」

もう何度も少女たちの体内に精を放出しているのだろう。女性の愛液と男性の精液が入り混じった原始的で動物的な匂いが法正の鼻腔に届く。

これが若い男や射精前なら到底我慢できないレベルの若い美少女の強烈な締め付けといやらしいおねだりを前にして、余裕たっぷりに笑う文宋が女性の顎を手で掴んで法正の方へ向けた途端、彼女の体がビクンッと跳ねた。

「…あ…、う、そ…。ほう、せい、さま…?」

目の前に立つ男の正体を悟った瞬間、彼女の瞳が様々な感情を映す。

困惑、焦燥、羞恥、罪悪感、絶望感。

一瞬、女性が理性を取り戻したような気がした。

だがそれもやはりほんの一時だけのことで、次の瞬間には押し寄せる強烈な快楽の波が少女を襲う。

「あああ…、ひぃぃ…イク、イクぅ…っ」

ピンク色の唇から喜悦に染まった涎を垂らし、とめどなく涙を流す少女の瞳はもはや正気を失っていた。

美しい、男だ。

体内を駆け巡る媚薬に思考のほとんどを奪われてなお、少女は思う。

自分と比べて、法正はいくつくらい年齢が上なのだろうか。

くっきりと描かれた眉は男らしく、己の邪魔をする者は何者であろうと容赦しない意志の強さを感じさせる。

綺麗な二重だが、すっと流したような目尻はある種の酷薄さを感じさせ、皮肉に歪められた肉厚な唇は冷たい印象を抱く。

だが意外なことに、それらのパーツが全て揃うと、むせ返るほどに濃厚な男の色香が彼の顔には宿っていた。

こんなにセクシーで大人の男性の色気に満ちた美男子に抱かれることができるのだとしたら、どんなに素敵なことだろう。

あの瞳に自分だけを映して貰えたら、あの唇で、愛の言葉を囁いて貰えたら。

あの指で、敏感な部分をじっくりと愛撫して貰えたら。

あの服の下にある、法正様の逞しい男根を、体の奥の奥までぎっちり埋め込んで貰えたら───。

「あっ…あっ…、もうイク、イッちゃう…。お願い…中に出して…ほう…せい、さまぁぁ───…!!」

自分を犯すのは父親、もしくは祖父の場合も有り得る程に年上の男。

けれども唇から零れ落ちるのは、猛々しくも妖艶で美しい、恋い焦がれる男の名だ。

面前の男と自分を犯す男の区別すらつかず、混濁する思考が彼女の心を狂わせる。

断続的に全身を痙攣させ、のけぞる女性の背中に鼻梁をこすりつけながら、文宋が深い息を吐く。

「ふん、イッたか…。主の許しもなく勝手に達するとは浅ましい娘め。それにしても、このような若い乙女に中出しを請われながら絶頂されるとは、男冥利に尽きるというもの。少々妬けますなあ、法正殿?」
「…たまたま俺が目の前にいるから、というだけのことでしょう」

少し離れた位置から男女の情事を見下ろす法正の顔には、いつも通りのふてぶてしい笑みが浮かんでいる。

「相手など誰でもいい。それを言うなら、そのように前後不覚の状態に陥るまで少女を愉悦の海に溺れさせた文宋殿の閨の妙技と、逸物の素晴らしさの証明というやつですな」
「ははは…!これは上手いことを。相変わらず世辞というものを心得ているな、そなたは」

セックスが上手い。男根が太い、硬い、立派などと言われる事は、たとえお世辞だと分かっていても多くの男は嬉しいものだ。

文宋はもう一人の女性の膣内に挿入していた指を引き抜くと、自分の口元へ持っていき、法正に見せつけるかの如くゆっくりとした動作で指に絡みつく液体を舐め上げた。

「ああ旨い…。やはり若い女の体液は格別だ。特に15、16才辺りの処女の愛液はミルクのような味と匂いがする。これもみな、法正殿のおかげだ」
「……恐れ入ります」

そう。これは全部、自分が用立てたこと。

文宋という権力者の依頼に応えて、法正が設けた狂乱の場だ。

……言い訳は、ある。

少なくとも嫌がる女性達を無理やり拉致して連行したというような事実はなく、一切強制などしていないつもりだ。

美しい女性は普段から多くの異性の注目を集め、男たちの争奪戦の的になる。

そういった種類の女性たちの中から『決まった恋人がいない』『誰とも付き合ったことがない』というケースを探し出すのは難しく、身近な男たちが手を出さない理由はない。

男性人気が高いほど、美少女であればあるほどに性行為の経験は早い。それは自然の摂理だ。

『若く、美しく、なおかつ処女』。

だからこそ、そんな女性を探し出すのがどれほど困難か、他の男に食われる前にその貴重な資源を入手するのがどれだけ大変かということは法正とて十分承知の上ではあるが、それでも無理強いはしない≠ニいうのが己自身に残された僅かな良心だった。

幸い、法正が相手にするのは劉備軍にとって力になる人間───裕福で、それなりの地位につき、権力のある人間ばかり。

彼らの相手を務めれば、ごく一般的な市民の感覚からすれば、法外ともいえる程に高額な報酬が望める。


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