異次元 【茨の檻】 「んんっ…んーっ…!ひぃぃぃ…!!」 ヌルヌルした愛液で濡れた指先で執拗に肉豆を刺激され、若い女性は陸に上がった魚の如く全身を痙攣させた。 「あっあっ…だめっ…そこだめえぇ!」 我慢できずに漏れてしまう声を恥じているのか、女性が慌てて口元を押さえる。 だがそんな事など、何の抵抗にもならない。 「いくっ…、イク…、イクイク、イッちゃう─────…!」 男の愛撫で達してしまったのだろうか。 ビクビクビクビクッ!と何度も腰を跳ねさせて、女性は大きく仰け反った。 「あぁぁ…これやだぁぁ…大きいよぉぉ…!!」 文宋に下から突き上げられている女性も限界が近いのか、髪を振り乱しながら喘いでいる。 男の突きに合わせて上下に揺れる胸の動きは、いつ見ても扇情的で淫らな光景だ。 しかも犯されているのが若く美しい童顔の女性だというのだから、もしこの現場に居合わせたのだとしたら、ほとんどの男性は興奮と勃起を抑えられないに違いない。 「ああーん…だめ…おちんちん抜いてぇぇ…。中がおかしくなっちゃう…壊れちゃう…!」 逞しい男の左腕で体を支えられ、奥の奥までピストンをキメられる快楽に耐えきれず、女性は喘ぎながら泣きじゃくる。 両手に花とはこのことだ。 若く美しい少女二人の肉体を思いのままに味わいつつ、男が女性の項をベロリと舐める。 「まったく、嘆かわしいことだ。つい二時間前まで処女だった乙女たちが、このように乱れるとは」 正面に立つ男の姿を見て、文宋はニヤリと笑った。 「まこと、女の貞操とやらは当てにならんものよ。一度抱いたら最後、甘い菓子を好む年齢の子どもまでが蜂蜜の代わりに男の肉棒を美味そうにしゃぶり出すのだからな。世の中は狂っておる。そう思わんか、法正殿」 一見するだけなら温厚で、誠実そうにも見える普段の顔を一変させ、文宋がいやらしく舌舐めずりをする。 「それとも、あれか。単にこの者達が生粋の好き者というだけで、そなたの見立てが良かったという事か?」 男は楽しそうに口を開けて笑い、女性の胸を鷲掴みにして揉みしだく。 (よく言うよ) どうせいつも通りに薬か何かを飲み物に混ぜ込んで、女の体をいいようにいたぶっているだけだろうが。 顔には出さず、心の中だけで法正は毒づいた。 この男に対して、言いたい事は山ほどある。 だが、お互いの立場というものもある。 そして、自分はこの件に関していえば紛うことなき『共犯』だ。 湧き上がる嫌悪感を、冷静なもう一人の自分が抑える。 謝罪の意味も込めて、法正は女達に目を向けた。 劉備玄徳。それが法正が使える主君の名だ。 元は劉璋という人物に仕え、新都県令や軍議校尉といったそれなりの役職を与えられてはいたのだが、周囲の噂から法正の品行を良くないと思っていた劉璋は法正を重用する事は無かった。 法正にやりたい事は沢山あった。上司に進言したい事もあった。任せてほしい現場も立場も数多くあったのに。 自分にその役割は与えられず、その代わりに自分よりも役に立たないと思っていた周りの雑魚どもが重要なポジションに抜擢される日々。 こんなうだつの上がらない毎日を過ごす事には耐えられない。 俺という能力を使いこなす才の無い、俺が今までずっと仕えてきた恩に報いる事のない低能な上司など、この時代に大器を成す人物ではない。 そう考えて劉璋の元を離れた後、劉備のところへ使者として赴いたのだが、初めは劉備の事をそれほど良く思ってはいなかった。 しかし、彼の元でしばらく滞在するうちに、劉備の掲げる思想と優れた武略、そして彼を支える周囲の武将達の強さと理念、強固な意志と深い絆を目の当たりにして、劉備と元の上司の大きな違いに気が付いた。 誰よりも民に慕われる、劉備の人となり。彼の仁徳は、まさに三国随一であろう。 あの名軍師と謳われる天才・諸葛亮ですら魅了した人物なのだから。 (劉璋に代わり、彼こそ王となるべきだ) 生まれて初めて、己が仕えるべき主に出会った─────法正はそんな気持ちになった。 けれども、一人の人間を王にまで祭り上げるのはそう簡単な事ではない。 彼以上に、主君に相応しい人間などいない。それが事実だとしても、彼の理想を実現する為には途方もない程の苦労と努力が必要となる。 武器や兵士、優秀な文官や武官、各地域の有力者たちの協力を取り纏めるための膨大な金、人脈、ありとあらゆる策略。 どんなに高潔な理想でも、それだけでは人の腹を満たす事は出来ない。綺麗ごとだけでは人の心など動かせない。それが『建国』や『三国統一』というものだ。 だからこそ、その負≠フ部分を自分が担おうと法正は思った。 劉備には絶対にさせられない。 むしろ、あの善良な劉備にはそういうこと≠ェ陰で行われているということも知らせない。耳に入れる事すらしない、見せることも出来ない、完全なる『汚れ役』。 (いくら殿の周りに優れた人物が揃っていても、誰にでも出来るようなことではない。ならば、俺のような人間にはそういう役目が相応しい) 法正は決意した。 普通に仁義を説き、説得しただけでは協力が得られず、代わりに下卑た欲望を押し付けてくる業の深い権力者たち。そういった者どもが法正の主なターゲットである。 大なり小なりの違いはあるが、概ねそいつらが要求してくるのは決まって金か色欲だ。 金が欲しいと言われれば賄賂を渡し、女が欲しいと言われれば女を与える。 権力者自身ではなく、その妻が実際は権限を握っており、若く見目麗しい男を要求するのであれば、国中から美青年を掻き集める。 その女が『協力する代わりに法正と寝たい』というのなら、いくらでも抱いてやろう。 どんな事をしてでも殿を王にする。 それが─────俺の覚悟だ。 我が主君、劉備殿こそこの三国を平定するに相応しいお方 ですが、その理想を現実にするにはもっと多くの武器と軍隊、多くの資金、そして賛同者が必要です どうか皆様、何卒劉備殿とこの私、法孝直にお力をお貸し下さい これはと思う有力者達に目星をつけ、各地に足を運んだ。何度も話し合いを重ねた。頭も下げた。 だが、尊い理想や信念という名のもとに、それ『だけ』で人が集まってくれるのだとすればどれだけ楽なことだろうか。 [TOP] ×
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