異次元 | ナノ


異次元 
【魂喰いvol.2】
 




「なるほどな。散々出した後で精液が薄いから、自分が不利だという事か。それにしても…我が弟ながら、驚異の回復力の持ち主だな」

司馬師は、さらりとした肌触りで心地良い高級なシーツの上で衣服のボタンを外しつつ、呆れ半分といった顔立ちで弟の立ち上がった男根を見つめていた。

男のはだけた胸元から、呼吸に合わせて規則正しく隆起する逞しい筋肉が覗く。

夜の月明かりが差し込むベッドの上で、名無しは食い入るように司馬師の美貌を見返す。

見える。

やっと、司馬師の姿が目に映るようになってきた。

感覚を取り戻した喜びに、名無しは人知れず打ち震える。

扉を開くあの瞬間まで司馬師の事を信じていたのに、彼に騙されたという事実を忘れそうになるくらい、名無しの瞳に映る司馬師はいい男だった。

一流のアーティストが丹精込めて作り上げた芸術品のように整った顔に、均整のとれた筋肉を身にまとう、若く美しい彼の肉体。

このように美しい男性の腕に一時抱かれていたというあの出来事は、自分が作り出した単なる妄想だったのではないかと思えるほどに。

「……目の焦点が合っている。私の姿がはっきり見えるようになってきたか?」
「!!」

平静な声音で告げられる司馬師の問いを受けて、名無しはベッドから飛び上がらんばかりに驚く。

つい声が聞こえてくる方向に振り向いてしまい、司馬師の顔を見たのが間違いだった。

『あ』、という小さな声が名無しの口から零れ落ちたその時、彼女の体が勢い良くベッドの上に押し倒された。

自分の身に起こった事が理解できずに反応が遅れた名無しの両目を、素早く伸ばされた男の手が覆う。

(─────!?)

元の状態に戻る事が出来た、と安堵していた名無しを取り巻く環境は、瞬く間に一変した。

司馬師や司馬昭のどちらかに抱きかかえられている格好ではなく、全身がベッドに沈んだ事によって、今まで名無しが思い描いていた位置関係が完全にリセットされてしまった状態だ。

今名無しの目を塞いでいるのは誰なのか。

名無しの両足を割って間に体を滑り込ませている男が誰なのか、名無しは即座に判断できない。

「めでたく薬の効果が切れたところで、お前に最後の情けをかけてやろう」

からかうような響きとともに、司馬師の声が降ってくる。

司馬師はどっちだ。上か?下か?

聴覚と触覚を研ぎ澄ませつつ、この体勢から抜け出そうと努力してみたが、そんな名無しの考えなどとっくにお見通しだというように、名無しの上半身と下半身の数箇所に絶妙な力加減で体重をかけられる。

身動きが取れず、汗を滲ませながら苦しげな表情で僅かに動く爪先をばたつかせていた名無しの中心に、熱い塊がググッと押し当てられた。

「ひっ……!」

突然、名無しは狭い入り口をこじあけようとしている異物を感じて、上半身を反らせた。

犯される、と体を強張らせる名無しの予想に反して、熱を帯びたそれ≠ヘ名無しの入り口に先端を軽く含ませたままで、それ以上は入ってこない。

「名無し。これが本当に最後のチャンスだ」
「あっ…、くっ…、お願い…やめて…」
「今お前に当たっている物は私の物か?それとも昭の物か?」
「!!」

しどとに濡れる名無しの体液をたっぷりと塗りつけたその先端は、今にも肉壁をかき分けて侵入してきそうな気配がある。

「見事に答えられたなら我々の負けだ。褒美として、今度こそ嘘偽りなくお前を解放してやろう」
「またまたそんな事言っちゃっていいんですか?兄上ってば本当に優しさの塊なんですから〜」

名無しの体の上で、悪魔達の楽しげな笑い声がする。

「あっ…、そ…んな…!」

焦りと緊張で胸が苦しくなる。

名無しは必死で考えた。

司馬師にまた騙されているだけ、という結末も否めないが、どんな方法であっても少しでも助かる可能性があるというなら、それに賭けてみる価値はある。

しかも、確率は2分の1。

司馬師の言う事が真実であるのなら、それほど悪い条件ではない。

出来る事なら二度と思い出したくない、脳内から完全に消し去りたいと思っていたが、他に手がない名無しは彼らに凌辱されていた時の記憶に思いを馳せる。

前回、名無しに真っ先に挿入してきたのは弟である司馬昭だった。

情事の際に見せる彼の性格、今回も『待てない』『我慢できない』『早く入れたい』という彼の発言から推察すると、前戯に時間をかけるよりも挿入してからの本番に重きを置く節がある。

それに比べ、兄の司馬師は前回も司馬昭の願いを聞き入れて弟に先を譲っているし、今日も欲望のままに行動するという様子はない。

どちらかと言うと快楽に乱れる名無しの反応を確かめ、そんな名無しの姿態をじっくりと視姦し、楽しむ事に時間をかけているように思えた。

それらの判断材料から考えられる答えとしては、今自分に押し当てられているのも司馬昭の物ではないだろうか。


本当にこれでいいのだろうか?


間違ってはいないだろうか?


確率は2分の1。


これが本当に最後のチャンス……。


「……ぁ……」


ゴクリ、と自分の喉が鳴る音を名無しは聞いた。

司馬師も司馬昭も、それほど気が長いタイプではない。

彼らが大人しく待っていてくれるうちに、答えを告げなくては。



「……子、上……?」



その直後。



ズンッと、全身を貫かれる程に大きな衝撃とともに、巨大な質量を持った物体が名無しの体内に侵入した。


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