異次元 | ナノ


異次元 
【魂喰いvol.2】
 




「お前達女というものは、己の体の事を理解している。ならば、最も妊娠しやすい『危険日』がいつか、お前は把握しているはずだ。そうだろう?」
「……っ、あ……!」

優しく下腹部を撫で回されていた手にいきなり力を込められ、子宮があるであろう部分を男の大きな掌全体でグッと押された名無しは苦しげに呻く。

どうして司馬師は、そんな事を。

「あー…、でも兄上、俺的にはもしも今日がズバリ名無しの危険日だったりしたら困ります。それだとちょっと都合が悪いんで」

ふと思い出したような口ぶりで否定的な言葉を述べる司馬昭の様子に、名無しの頭の中で何かがひらめいた。

確かに司馬師の言う通り、名無しは自分の危険日について把握していた。

だがそれは彼女自身が調べたというよりも、主に彼女の調教を一手に担っている司馬懿の計算による。

普段の調教スケジュールに問題がないよう、そして曹丕との婚儀の日が来るまで名無しに対する曹丕の寵愛が邪魔な人間達に悟られぬよう、司馬懿は極力名無しの体のリズムに気を配っていた為だ。

普通、世間一般的に男性が女性に対して『危険日はいつか』と尋ねる場合、その多くは望まぬ妊娠を避けたいという心情からだろう。

そう考えてみると、司馬昭が告げた『今日が危険日だと都合が悪い』という発言は、俺は名無しとの事をそこまで真剣に考えてはいない、万が一妊娠されたら都合が悪い、そんな展開なんてめんどくせ、という意味にも取れる。

……だったら。

「あ、あの…!実は…、わ、私……」

ドキン。ドキン。

緊張で、声が震える。

今から自分が言おうとしている台詞を考えると、名無しの心臓はバクバクと大きな鼓動を刻み、彼女の額に変な汗がじんわりと滲む。


もしそうだとしたら、逆に今日が危険日だと言えばいいのではないか。


嘘でもそうきっぱり断言すれば、司馬師も司馬昭も萎えてこの行為を中断してくれるかもしれない─────。



「都合が悪い、とは?」

勇気を出して主張しようとする名無しの声を遮り、司馬師が弟を問い質す。

「えええ〜。兄上だけでなく、当の名無しの前でまでぶっちゃけるなんて本気で恥ずかしいんですけど。それ言わなきゃダメですか?」

司馬昭は『うっ』と短く呻いてたじろぐ素振りを見せたが、続きを促すようにして無言で睨む司馬師の視線に耐えきれず、ハーッと深い溜息を漏らした後に名無しの体を抱きしめた。

「ごめんな、名無し。俺さ、お前に懺悔したい事がある」

こんな風にして司馬昭が謝るのは珍しい。

彼の中で名無しに対して懺悔する事があるというのであれば、そもそもこの薬物使用からのレイプ行為自体がすでに謝罪に値する行為ではないのか。

「今日、名無しが来る前……実は何度もお前の事を考えながら自慰行為にふけってた」
「!?」
「さっき話しただろう?あれからどれだけ他の女を抱いても面白くない、つまんないって。普通にイケる時もあるけど毎回必ずそうって訳でもなくて、苛立ちと我慢の限界で。欲求不満で死にそうで、名無しとしたセックスを思い出しながらひたすらオナニーしてた訳」

耳元で聞こえてくる司馬昭の声が、さっきよりも近い。

司馬師や司馬昭のようにモテモテエリートの男性にとって、自慰行為はモテない男のする事だ。

早朝、昼間、夜、深夜まで。彼らが呼べば24時間問わずいつでも駆け付つけて足を開く女達が大勢いるので、一人でする必要がない。

そんな司馬昭が欲求に耐えきれず一人でする羽目になったという時点で、それだけ彼が今までになく追い詰められている状況である事を物語っていた。

司馬昭は名無しの人差し指を口に含むと、舌先で絡め取るようにして愛撫する。

「やぁ……だ……め……」

甘く尾を引くような声で喘ぐ名無しの指先を軽く噛み、司馬昭は唇を離して今度は彼女の耳に近付けた。

「どうせなら完全にすっきりするまでヤろうと思って。もう俺の精子は空っぽです、一匹も残っていません、今日はもう閉店です!って実感するまでオナりまくって疲れ果てて爆睡してたのに。名無しのエロい声を聴くだけでビンッて即座にフル勃起しちまうとか、自分で自分が信じらんねえわ」
「あ…、やだ…子上…そんなぁぁ…」
「ほら…触ってみれば分かるだろ?俺が今どんな風になっているか。俺がどれだけ名無しの中に入りたいと思っているか…」
「……っ!」

言葉の終わりに腕を掴まれ、男の下半身へと誘導される。

自らの手が触れたモノの感触に、名無しは何も言えずに強張った表情のままで司馬昭がいると思える方向を見上げた。

司馬師も司馬昭も元々世間一般の男性の平均値以上に立派な男根の持ち主ではあるが、名無しの掌の下でドクンドクンと脈打ちながら息づいている司馬昭の分身の大きさと逞しさは、凄まじいものがある。

まるでアダルトグッズとして販売されている男性器を型取ったディルドさながらの存在感に、すっかり圧倒されてしまった名無しは掌を振り解く事すら失念してしまった。

こ…、こんな凶悪な物に犯されたら、死んでしまう…!!

「俺ってひょっとして変態なのかな。男なら普通、色んな女とヤリまくりたいと思うもんだろう?死ぬまでに可能な限り経験人数を増やしたいって思うもんだろう?」
「あああ…、子上…やだぁ…。お願い…離して…っ」
「なのに一人の女の事ばかり考えちまうとか、これって雄の本能としておかしいって事だよな。あーもう嫌だよホント。勘弁してくれよ」
「あぁーん…子上…いやいやっ…離してぇ…。耳元でそんな変な事言わないで…」
「ハァー…めんどくせ。俺もう変態でもいいよ。名無しの中が気持ち良すぎるせいで、俺の純情なチンコが悪い女にたぶらかされて、名無しの膣に合わせた形に変えられて…。まだ婿入り前の清らかな身だっていうのにどうしてくれんの?……責任取れよ」
「いやああ…っ、そんなぁ……」

相変わらずの、滅茶苦茶なトンデモ理論。

ようやく少しずつ見えるようになってきたと思っていた視界が、涙で滲む。

耳元で囁かれる司馬昭の熱く掠れた甘い声は、凶器だ。

名無しはゾクゾクッと全身を駆け巡る羞恥と甘い疼きにわなわなと体を震わせたまま、必死でその感覚に耐えていた。


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