異次元 | ナノ


異次元 
【魂喰いvol.2】
 




「大丈夫。お前がふらついてどこかで体をぶつけて怪我しないように、俺がずっと支えていてやるから」

言葉を落とすと同時に、司馬昭の濡れた舌先が名無しの耳朶をペロリと舐めた。

ビクッと体を震わせ、司馬昭の首に回された己の手を引っ込めようとする名無しの抵抗を全く気に留めず、司馬昭は彼女の耳にフッ…と熱い吐息を吹きかけては何度も口付け、甘噛みを繰り返す。

「あ…や…ぁ…あああ……」

必死に声を殺そうと唇を噛み締めても、噛み締める為の力が足りない。

半開きになった名無しの唇から漏れる、普段よりもか細く、それでいて甘く滴るような喘ぎ声は、男の下腹部を直撃するのに十分な悩ましさを秘めていた。

「あー、いい匂いがする……。発情した雌の匂いだ……」

司馬昭の低く掠れた声が、名無しの鼓膜に直撃する。

もっと深く香りの元を確かめようとするかの如く、名無しの耳から頬、顎のライン、首筋へと鼻先を押しあてながら顔を移動させていく司馬昭の行動は、名無しの羞恥心を強く刺激した。


(そんなこと……、ない……っ)


いや、いやだ。


そんなのはきっと、子上の思い過ごし。


私、発情なんてしていないっ。


大声で叫び出したい衝動に駆られる名無しの本心とは裏腹に、名無しの体は司馬昭の愛撫に対して少しずつ反応を示し始めていた。

生まれつき目の見えない人間がその代わりに匂いや音に対して敏感になったり、掌で掴んだ触感を頼りに『この形はコップ』『柱がここにある』と推察するように、今の名無しは視覚以外の感覚が普通の人間よりも過敏になっていた。

むしろそうする事でしか、自分が置かれている状況を把握する手段がなかったのだ。

所謂、『目隠しプレイ』をされている時と同じ状態である。

耳元で囁かれる男の低い声が、吹きかけられる吐息の熱さが。

通常時に言われたとしても羞恥で顔が赤くなりそうな男の言葉攻めが、脳内で直接響いているかのような音量をもって、普段の2倍、3倍程にいやらしく感じられる。

そんな名無しの動揺を見抜き、司馬師の唇が満足気な笑みに彩られていく。

「昭。この女は現在目が見えない代わりに、それ以外が感覚過敏の状態になっている。私や昭が名無しの耳元でどれだけ淫らな台詞を囁こうが、言葉で名無しを責めようが、嬲ろうが、耳を塞ぐ術もない。遠慮せず、思う存分いたぶってやるがいい」

そう告げながら項から背中を撫でていく大きな掌の感触に驚き、名無しは慌てて背中を反らす。

「ひっ…、あぁ……っ」

背中を撫でたのは、誰。

子上の手?それとも子元の手っ!?

今自分を愛撫しているのは一体誰なのか。今何をしているのか。

そして、これから先、何をされてしまうのか。

何も分らない。想像がつかない。

判断材料が不足しているという事が、これほど恐ろしい事だったとは。

いつの間にか4本の手が自分の体中を這い回っているという現実に気付き、名無しの脳内がかつてない程の混乱と恐怖に染まっていく。

「そいつはいい。反抗できない女に強制的に卑猥な言葉を聞かせて、言葉攻めを延々としまくれるっていうのはたまんないですよねえ」

司馬昭の言葉が聞こえた直後、名無しの右の耳にヌルリと柔らかい物が差し込まれた。

耳の穴を舌で舐められている、という事を悟った直後、今度は左の耳に息を吹きかけられ、長い指先で円を描くようにして弄られる。

「…あっ…んっ…やだぁぁ…」

どんなに感じても決して彼らの前で喘ぎ声など上げるものか、という名無しの決心は打ち破られ、滴るような甘い喘ぎ声が赤い唇から零れ出た。

司馬師と司馬昭は、およそ二カ月ぶりに聞く事になった名無しの淫靡な鳴き声を耳にして、今までずっと抑えていた欲望が急速に高まっていくのを感じていた。

先日高級娼館で何人もの美女を欲望のままに抱いても、こんな風に興奮する事が出来なかったのに。

体内にある油に火を注がれたように、全身の筋肉や下半身がカッと熱くなり、今にも破裂しそうなくらいに充血した分身は次第に硬度を増していく。

「ふふっ…。どうやらすっかり、耳の穴を犯されて感じる事を覚えたようだな」
「なあ名無し。耳の中で直接エッチな音が聞こえるのは、気持ちいいだろ?」

舐められていた側の耳元で司馬師の声が響く事に戸惑い、名無しはぶるぶるっと腰を震わせた。

最初に舌で愛撫をしていたのは司馬昭だったはずなので、今もその続きをしているだけだと思っていたのに。

「あ…、な…ん、で…?今の…子元、なの…?あっ…あっ…」

素直な疑問を口にする名無しをよそに、男達の舌と指先は一層大胆さを増していき、ズボズボと穴の中で抜き差しするような動きを開始する。

狭い穴の内部を思う存分蹂躙し、何度も擦りあげ、前後に入れたり出したりされるその感覚に、まるで膣内をピストン運動されている時のような錯覚が名無しの脳を犯していく。

「どっちが俺だと思う?名無し」
「どちらが私か、当ててみろ」


まさに─────悪魔の選択。


クスクスと楽しそうに笑いながら、名無しをいたぶる兄弟の声は、なんて退廃的で色っぽくて、官能的な事だろうか。

(似ている)

やっぱり司馬師と司馬昭は、司馬懿に似ている。

それでいて、ある意味で父親以上に残忍だった。

虫を踏み潰したり、体の作りを観察しようとして虫の手足を根元から引きちぎったり、カエルの肛門に爆竹を突き刺して、爆発した後に木っ端みじんになったバラバラのカエルの死体を指差してゲラゲラと笑う。


『楽しいから』
『面白いから』
『単に触ってみたかったから』


大人からすればその程度の軽い理由で残虐な行為に及ぶ子供達と同様に、司馬師や司馬昭のような男達にとっては嫌がる女を強姦して弄ぶなど、そういった子供の遊びの範疇に過ぎない。

まるで実験動物を観察するかの如く名無しの反応を楽しんでいるように感じる二人の態度に絶望し、名無しは自分でも気付かない内に目尻から幾筋もの涙を流した。

その姿を認めた司馬師と司馬昭の動きが、ピタリと止まる。


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