異次元 | ナノ


異次元 
【魂喰いvol.2】
 




大好きで大好きで、最愛のご主人様である司馬師を独占したい。

彼の相手は自分が勤めたい。自分だけが、ただ一人が、選ばれたい。

自分の目の前で、愛する司馬師が他の女を抱くところなんて見たくない……。

そんな思いは山ほどあれど、最終決定権を持つのは自分ではない。

「はい…光栄ですっ。どんなご命令にも従います。どんな事でも致します、司馬師様…!」

媚びるような声音を作り、女達が司馬師の身体にしなだれかかる。

愛する司馬師にそう言われてしまったら、女達は逆らえない。

本気で彼のような男性の傍に居たいと思うなら、全てを受け入れるしかない。

例えどんな扱いをされようが、同じ部屋で他の女とのセックスシーンを見せつけられようが、我慢するしかないのだから。

「……見て分かっただろう。答えはあれ」

途中まで言いかけて女達の嬌声に遮られた男が、残りの言葉を紡ぐ。

「第2と第4土曜日は、司馬師様と司馬昭様のお二人が花街で羽を伸ばしに来られるのさ」
「…じゃあ、この大勢の女達は…」
「そ。司馬兄弟が目当てのヤリタガール≠チてこと」

普段よりも何倍も増した繁華街の人口は、彼らを目当てにやってきた女性達によるものであった。

自分の店に招こうとする者や店を抜け出して彼らに媚びを売る商売女達は勿論の事、こういった所に縁がない一般女性までその中に混じっていた。

彼らと同じ貴族女性として生まれてきたならまだしも、通常、城のお抱えの召使いとして城内入りするか、並み居る強豪達を打ち負かして風俗店の売り上げランキング上位にでもならない限り、世の平民女性達は司馬師や司馬昭といった高位の男性武将に会えるような機会はない。

しかし、月に何度かこうして花街に足を伸ばす時は別である。

万が一、自分の姿が彼らの目に留まったら。万が一、彼らの夜伽を勤める相手として選ばれる事が出来たなら。

そうすれば、一度限りの関係ではなく、その後もずっと彼らの傍に置いて貰えるかもしれない。

身分の低い者が彼らのような男性達の正式な妻として選ばれる事はないかもしれないが、運が良ければ愛人や妾の一人として召し抱えて貰える可能性はある。

高位の男達に気に入って貰えれば、その日から自分を取り巻く周囲の環境は一変する。

武将達に可愛がられ、寵愛を受ける愛人として、欲しい物は何でも与えられる生活が待っているのだ。

我こそは、と己の容姿やスタイルに自信のある美女達が、思い思いに精一杯のお洒落や化粧をして己の身体を飾り立て、チャンスを掴もうと群れを成してやってくる。

いつの世も、シンデレラと王子様の話に憧れて玉の輿を狙う女性達は一定数いるものだ。

しかも、その相手は年を食った老人でもなく、いやらしい中年のヒヒジジイでもなく、金や権力があるだけの醜男でもなく、金も地位も権力も持つ上にすこぶる付きの若い美青年。興味を惹かれない訳がない。

名門・司馬家の一員となるというシンデレラストーリーを夢見る女達は皆彼らの来訪に合わせて花街に集い、鵜の目鷹の目でチャンスを伺っているのだ。

「いいよなあ。司馬師様や司馬昭様クラスの男性になると、俺達が絶対に行けないような高級店にも余裕で行けちまうもんな。高い店だと、それだけいい女もわんさかいる訳で…」

女達の輪の中心にいる司馬兄弟を見て、客の男性が諦めにも似た深い溜息を吐く。

「家に帰れば、待っているのは独身時代とは別人のように丸々と肥え太った古女房。一生懸命働いても、生活費の名目で給料は全部女房に持って行かれちまう。汗水流して働いてきたのに、雀の涙みたいな小遣いしか貰えない。そんな生活に疲れ果てて、せめて月に一度でいいから若くて綺麗なお姉ちゃんとエッチしたい!と思って微々たる小遣いを握り締めてソープに通ってる俺とは雲泥の差。羨ましくて仕方ねえよ」

若くして地位も権力もあり、しかもイケメン。

そんな相手と真っ向から張り合っても敗北するのは目に見えているのだが、それでもやはり恵まれた人間を前にすると、平凡な人間からすればどうして世の中にはこんな格差が許されるのだ≠ニいう憤りを感じてしまう。

「羨ましいなんてもんじゃねえよ。司馬師様や司馬昭様の傍にいる女達なんて、俺みたいに薄給で冴えない男は絶対に相手にして貰えないくらいの美人ばっかだし」
「見ろよ。司馬昭様の腕に抱きついてるの、『美女倶楽部』NO.1の魅姫ちゃんだぜ。俺なんか、もう半年もあの店に通って魅姫ちゃんに400万近く貢いでんのに、キスすらさせて貰えてないのに!」

己の人生を嘆く男性客に刺激されるようにして、司馬師達の姿を遠巻きに眺めていた男性達も同様に愚痴を漏らす。

「司馬師様の横にいるの、確か『泡姫』のナンバーワンとナンバーツーのソープ嬢だろ。売春宿どころか今この場でも即股を開きそうな勢いだよな、あれ」
「いいよなあ〜、マジで。高嶺の花の美女達を何人も取っ替え引っ替えでヤリまくりかよ!」
「司馬師様や司馬昭様のベッドって、きっと毎日汁ダクなんだろうな」
「あの二人相手なら女の方も『避妊して!』なんて言わないだろうし、むしろ既成事実を作らなきゃ!とばかりに女の方が鼻息荒くしてんじゃねえの。誰とエッチしてもどうせ毎回生OK,中出ししまくり……」
「ぐおおおお…!頼む!それ以上言うな!悲しくなるから!自分と比べて虚しくなるからっ!!」

先程までは流暢にしゃべっていた男の一人が、もうそれ以上はやめてくれと言わんばかりに両手で耳を塞ぎながら頭を振る。

全てを持つ人間に持たざる者がどれだけ嫉妬と羨望の眼差しを注いでも、彼らに取って替われるという訳でもない。

周囲に群がる人間も、自由に使えるだけの金も、寄ってくる女も、気が向いた時に抱ける女も、妻に出来る女も。

生まれ持った貧富の差によって、その全ての質と量が決定的に違ってくるのだ。

(きっと彼らのような人間なら、ただの一度も人生で女に不自由などした事がなく、どんな相手でも思いのままなのだろう)

そんな事を思いながら、一般客達は僅かな紙幣を手にして切ない足取りで馴染みの店へと向かう。

司馬師や司馬昭のような男性が、女性問題で悩む事などあるのだろうか?




「あああ…あっ…司馬昭様ぁぁ……」

風俗街の一角。

選ばれた人間しか利用出来ない会員制の建物の一室で、甘い喘ぎ声が響く。

「おら…、もっと動けよ!」

低い声で命令を下し、女の細腰を掴んで下から突き上げているのは司馬昭だった。

司馬昭は、先程彼に抱きついていた女性達の中から三人を選んでここでセックスしていた。

司馬昭の腕に絡みつき、すねた口調で彼を責めていた魅姫という美少女は、騎乗位の体勢で男の上に跨っている。

司馬昭の突きに合わせて彼女が腰を振る度、グチャグチャと卑猥な水音が互いの結合部から漏れ、今自分達がしている行為のいやらしさをこれでもかと教えてくれる。


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