異次元 | ナノ


異次元 
【魂喰いvol.2】
 




≪主なる神が造られた野の生き物のうちで、最も賢いのは蛇であった≫(創世記3.1)

ユダヤ教やキリスト教、イスラム教では、蛇は『悪魔の化身あるいは悪魔そのもの』とされている。

神は、エデンの園の管理を任せていたアダムとイブに

「楽園にあるどの木の実も自由に食べていいが、善悪の知識の木の実だけは食べてはいけない」

と警告していたのだが、巧妙な語り口でイブの心に揺さぶりをかけ、その禁断の実を食べさせてアダムとイブが楽園を追放される原因を作ったのが蛇だからだ。

だが、我々から言わせて貰えれば、そのような事を命じる神とやらの方が少々意地悪だな。

「他は何をしてもいいが、○○だけはしてはいけない」と言われると、余計にそれをしたくなるのが人間というものだろう?

普通の奴らですらそうだというのに、今まで全ての事を自分の思い通りにしてきた一部の人間であるなら尚更だ。

名無し。お前と我々の関係性は、聖書に出てくるイブと蛇の関わりによく似ている。

今のお前は、さながらご主人様とやらによって管理された仮初の園に住むイブのよう。

そんなお前に接触し、主人の言葉に従う必要などないと誘惑し、甘言を弄して心を揺さぶり、原罪の林檎を口にするように仕向けるのが我々の目的だ。

裏切りと背信、堕落、姦淫による罪の味。

この世にこれほど抗い難く、甘美な蜜は存在しない。


さあ……、名無し。もっと近くへ来るがいい。


もっと。もっとだ。


我々の差し出すこの赤い果実に、その震える手を伸ばすがいい。


困ったような、切ないような、悩ましげな表情で口付け、咥え込み、愛おしそうにしゃぶる姿を見せてくれ。


残念ながら、この世のルールや法律というものは、全て男と老人達によって自分達に都合よく作られているものだ。

若者や女達は変化を求め、自分達も同等の扱いをして欲しい、権利を認めて欲しいと主張するが、世の支配者層がみすみす己の特権を手放し、都合の悪いルールを認めると思うのか。

つまり名無し。悲しい事に、お前がどれだけ訴えても、今後もずっとお前の気持ちや権利は一切考慮されない。

『どうか許して下さい。私を食べないで下さい。見逃して下さい』

と涙ながらに哀願されても、我々の眼には子牛や子うさぎが震えているのと同様に、美味そうな肉だな、早くとどめを刺そうとしか思わない。

我々に狙われた以上、お前に逃げ道はない。終わりなんてない。救いなんてない。

そして1度我々の手に落ち、禁断の果実を口にしたのであれば、もはやお前に還る場所など有りはしない。

救いを求めてエデンの園を抜け出したお前の目に映し出されるのは、色取り取りの花が咲き乱れる楽園と見せかけて、その実は一面の焼け野原。

焦土と化した地で悲鳴を上げて逃げ惑う名無しを追いかけ、捕え、拘束し、毒牙で弱らせ、己のモノで刺し殺す。

哀れなお前に出来る事は、その身も心も搾り尽くして溢れ出た体液で我々の乾いた喉を潤し、空腹を満たし、飢えた欲望を満たす生贄となり続ける事だ。


名無し……、お前は餌だ。弄ばれる玩具だ。


そしてお前は、どこまでも可愛い我が虜=B


最早、誰にも何者にも遠慮はしない。


笑えよ、名無し。嬉しいだろう?


我々がお前に飽きるまで、その魂は永遠に我等の物だ。


そんな我々の奸計など露知らず、お前は相変わらず蛇に騙されるイブのように、最後まで我らの言葉を信じよう、良心に縋ろうとするのだな。


私は


俺は



─────お前を手に入れるためなら、どんなに汚い嘘でも吐けるというのに。





─司馬師&司馬昭夢・【魂喰いvol.2(ソウルイーター2)】


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