異次元 【籠の鳥】 ですが、今回の件に関して私は誰にも責められる道理はありません。 もう一度言いますが、戦争と恋愛だけは、どんな卑怯な戦術も試す事が許されますからね? 「だめっ…そんなにしたら…ひっ…ああっ……」 名無しの中で何度も出入りを繰り返していると、これ以上はたまらないといった様子で名無しが喘ぐ。 「ゆ…許してぇぇ…蘭丸ぅ…許して…あああっ…」 涙と嗚咽でグシャグシャになった顔で訴える名無しの姿態が例えようもない程に妖艶で、私は思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。 挿入の合間に何度もキュッキュッと私を締め付ける名無しの内壁は、もっと奥深くに私を誘い込み、私の体液を一滴残らず飲み干そうとしているようだった。 「名無し…だめでしょう?そんなに簡単にイッちゃ……」 「だってぇ…蘭丸…。だめって言っても…気持ち良すぎて…もう…もう…っ」 むせ返るような快楽の中、名無しの中がビクビクッと痙攣を起こし、限界が近い事を訴えている。 絶妙な強弱を付けて私の物を幾重にも締め付ける名無しの内壁の感触は、私が想像した以上に男の快楽を引き出すものだった。 「名無し…可愛いっ」 私は今までずっと我慢してきた名無しへの想いを吐き出すように、一際強く彼女に腰を打ち付けた。 その快楽と快感が、名無しに大きな悲鳴を上げさせる。 「ああぁぁ──っ、イクぅぅ──っ……」 「…っ。名無し…」 その瞬間、名無しが大きく背中を仰け反らせてイッてしまった。 その声は色っぽくて切なくて、私はそんな彼女の声を耳にしただけで股間をズキンッと刺激され、たまらずに低く呻いて彼女の中に欲望を吐き出していた。 私の腕の中でイク時の名無しの喘ぎ声は今まで聞いた事もない程に艶めかしくて、私は体を重ね合わせる前よりも一層彼女に対する愛しさが増していた。 「あん…あああ…。もう…蘭丸…」 私を呼ぶ名無しの甘い喘ぎ声が、次第に涙混じりになっていく。 次の瞬間、名無しの体からガクンッと力が抜けて、私の背中に回されていた彼女の手がシーツの上にパサリと滑り落ちる。 名無しは、気を失っていた。 「…名無し?名無し…。そんな…もう少し名無しを抱いていたいと思ったのに…」 未だ冷めない熱を宿したままの私はちょっとだけ淋しい思いがしたが、グッタリと力なく横たわっている彼女の姿を哀れに思い、今夜はこの辺で止める事にした。 だってもう、焦る事はないのだから。 時間はたっぷりあるのだし、私はこれからずっと名無しと一緒にいるのだから。 私と名無しは、つがいなのだから。 (……かごめ歌の真実なのですが。今の私の気分から言いますと、一番合うのは光秀殿が教えて下さった『遊女説』ですかね。名無し) 名無し。貴女は籠の鳥。 貴女がどうしてもと望むなら、外の景色位は籠の隙間から見せてあげます。空気位は吸わせてあげます。 ですが、もはや貴女に自由はありません。私という籠の中で生活して、私の事だけを見て、私以外の男からは誰にも相手にされずに貴女は死んでいくのです。 何故ならば、私以外で貴女に懸想した男達は次々と消息を絶つ運命だからです。 ────お分かり? 「最後に、今だから教えてあげますが…貴女に散々嫌がらせをした男の正体、私は知っているんですよ」 クスクスと妖しい笑みを浮かべつつ、私は名無しの耳元に唇を寄せて、そっと小声で囁いた。 「犯人は……蘭です」 そう。あれは全部私の仕業。 貴女の仕事道具を隠したのも、私物を勝手に移動させたのも。 貴女のお気に入りの湯呑みを盗んだのも、その中に『愛のプレゼント』を入れて、何食わぬ顔で貴女の机の上に戻しておいたのも───私。 だってそうでもしないと名無しは弱らないと思ったから。精神的に疲労して、周囲に弱音を吐かないと思ったから。 私に悩み事を打ち明けて、私を頼って、私に助けを求めてくれないと思ったから。 ああでもしないと、私がこんな風に名無しと一緒に過ごせるなんて、ずっとずっと無理だと思ったから。 物を隠した位じゃ貴女はへこたれないと思いましたので、止めの一撃のつもりで『仮想の変態男像』も作り上げてみたのですが…あれが結構効いたんですかね。 普段男の世界で男にまみれて仕事して、男並みに武器を手にして戦場を駆ける女性だとしても、やっぱり女はどこまでいっても女なんですよねえ。 幾多の武将をまとめあげるような立場の貴女が、ちょっと正体不明の男の精液が私物に混入されていた位であんなに怯えちゃうなんてねえ。 可愛いっ。 「つまり名無し。貴女の背後に常に付きまとっていた謎の影の正体は、貴女の後ろの正面は……この蘭丸だったという訳です」 種明かし、終了。 未だ意識の戻らない名無しに一方的に語り掛け、私は彼女の唇にそっと自分の唇を重ね合わせる。 ちゅっ、ちゅっ、とついばむような軽いキスを二度三度と繰り返したが、名無しの目覚める気配は無い。 「名無し。私は貴女を籠の中に閉じ込める為に、もう随分と沢山の嘘をついてきましたが…。こういうのを世間一般ではなんて言うのか知っていますか?」 深い昏睡状態となった名無しの髪の毛に指先を絡めつつ、愛撫するかのように弄ぶ。 しばらくそうして名無しの柔らかい髪の感触を堪能した後、私は再び彼女の唇を覆いながら、ありったけの甘い声を作って呟いた。 「───『悪気の無い嘘』、って言うんですよ。ふふふっ…!」 名無し、貴女は私の可愛い可愛い籠の鳥。 息を切らせながら、さあ頑張ってお逃げなさい。 どんなに必死になって私から逃げようとしても、必ず捕まえてあげるから。 さあ、こっちへいらっしゃい。名無し。私と共に生きる愛の煉獄へ。 どこまでも続く暗い闇の世界に、私が貴女を誘ってあげる。 どんな事をしてでも叶えたい願望。 止まるところを知らない欲望。 諦めるという術を知らない絶望。 ────絶望する事すら知らない絶望。 ─END― →後書き [TOP] ×
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