異次元 | ナノ


異次元 
【籠の鳥】
 




この蘭丸を見事夢中にさせてみて下さい。名無し。貴女の心と体の全てで。


《蘭丸に魅入られてしまったが最後、もう他の殿方との恋愛は死ぬまで許されないと覚悟したがいいわね。地獄の道だわ》


そうすれば、名無し。貴女を私のたった一人の女にしてあげる。覇王の妻である濃姫様のように、私の『つがい』にしてあげる。


貴女と私は二人で一つ。


繋がった身体ごと、名無しの魂ごと、信長様や私の棲む深い闇の世界に───連れて行ってあげる。



「あっ……」


名無しに当てがっていた部分に力を込めると、先程までの指とは比べものにならないその質量に名無しの口から泣き声に近い声が漏れる。

そんな彼女の眼差しを真正面から受け止めると、私は浅く乱れた声で名無しに囁く。

「名無し…口で息をして。そのまま吐いて…」

そう宣告した直後、私はすっかり解れて溶けきっている名無しの中に、いきり立っている己自身を挿入していく。

「ひっ…あぁぁっ……」

まだ私の先端部分しか入っていなかったが、それでも名無しは自分の体内に大きな異物が侵入してくる感触に、引きつった声を上げた。


「分かります?名無し。これが私の形ですよ」
「あぁっ…あっ…蘭丸…」
「───そして、これから私と貴女は一つに繋がるのです」


どこか低く、擦れた声で名無しに囁くと、私は名無しの両足を掴んでさらに大きく開かせて、強引に分身を押し込んでいった。

「あぁぁぁ───っ」

体の中心を引き裂くような衝撃に、名無しは甘く尾を引くような悲鳴を上げて私の背中にしがみついた。

十分潤っていた名無しの内部は私の物を何のためらいもなく飲み込んでいく。

「名無し…もう少し」
「ああああ…蘭丸……」

そう言って名無しの額にチュッとキスをすると、名無しの体から緊張感が解れて余計な力が抜けていく。

名無しの内壁の僅かな緩みを感じ取った私はそれを合図とばかりに一際深くズンッと奥まで貫くと、私の分身が根元まできっちりと彼女の中に挿入された。

「あぁぁ…蘭丸…。熱い…あぁっ…」

すでに焦点の合っていない溶け切った瞳から悦びの涙を流し、名無しが無意識の内に私の動きに合わせるように腰を振る。

私が腰を打ち付ける度に、グチャグチャっといやらしい音が夜の寝室に響き渡る。

外の世界では相変わらず激しい雨が降り続いていたが、今の私と名無しには互いの熱い吐息と絡み合う淫らな水音しか耳に届いていなかった。

「あぁ…んっ…」

名無しの中に埋め込んだ分身をちょっと前後に動かすだけで、途端に名無しの口から淫らではしたない喘ぎ声が零れ出る。

すっかり私によって与えられる快楽の虜になってしまった彼女の体は貪欲に男の物をくわえこみ、逃がすまいと締め付けていく。

「ひっ…んくっ…。もう…死んじゃ…っ…」
「んっ…名無し…いいっ?そんなに気持ちがいいの…?」

問い掛ける私の声に、名無しはただ涙を浮かべて何度も首を縦に振り、魂の奪われた人形のようになっていた。

普段の名無しからは想像も出来ないような妖艶で淫靡な喘ぎ声が、私の欲望をさらに煽っていく。

それは今まで、どれだけ沢山の女達を抱いてきても、決して得る事の出来なかった甘美な衝動であった。

数えきれない程の女達を手玉に取ってきても、自分の思い通りに動かしても、決して感じる事の出来なかった麻薬のように甘美な快楽。

思うがままに名無しの体を貫いて、喘ぎ声を聞き、大粒の涙をポロポロと流させている時の私は、まるで戦場で本能のままに剣を振り回し、敵の返り血に身を染めている時のように強烈な興奮を覚えていた。

「あぁ―ん…だめ…死んじゃう……」

今にもイッてしまいそうな悲鳴を上げている名無しに顔を近付けて、私は彼女の唇に舌を這わせながら甘い声で囁く。

「ねっ…名無し。ずっと…ずっとこうしていたいでしょう?気持ちいいでしょう?名無し…」
「あっ…あぁぁ…。うん…あっ…もっと…」
「可愛い…名無し…。もっと感じていたいんでしょう?じゃあこれからもずっと…私の言う通りにしなくっちゃ…」
「あああん…します…。蘭丸…何でもするからっ…」
「名無しの傍にいてもいいのは…私だけなんだから。名無しとこうしてもいいのは…私しかいないんだから。だから名無し…私以外の男なんかどうでもいいでしょう?光秀殿なんか…必要ありませんよね。これからずっと…ず―っとねっ…?」

暗示をかけるかの如く、私は名無しの耳元で同じ言葉を何度も繰り返す。

呪文のような響きと共に囁かれる私の言葉に、名無しはまるで催眠術か何かにかかってしまった人間のようにうっとりと目を閉じて、素直に『はい』と答えて頷いた。


どうだ。見ましたか?光秀殿。


貴方なんてもう要らない。名無しには私しか必要ない。私以外の男なんて必要ない。

別にこれは私が無理矢理彼女に強制した訳ではありませんよ。名無しが名無し自身の意志で、自分から進んでそう言ったのです。

ああ…怖い怖い。つい先日まで貴方の事をこんなに信頼して、慕っていた名無しの口からこんな冷たい発言が出るなんて。

女心って、本当に怖いですよねえ。

『女心と秋の空』と言いますが、秋の空なんかよりもよっぽど女心の方が変わりやすいですよねえ?女の言う事なんて何一つ信用出来ませんよねえ?



ざまあ見ろ。光秀殿。これが私の人生だ。



貴方と違って私は『紳士』ではありませんから、欲しい物を手に入れる為には、好きな相手だろうが何だろうが容赦しないんですよ。

男なんて皆こんなものです。頭の中であれこれ考えている時だけは全員悪党ですが、それを実行に移す男と移さない男の違いだけです。

妄想の中では毎晩好きな女の顔に己の体液をぶちまけているクセに、現実では女一人満足に押し倒せない臆病な男達は、自分達が腰抜けだなんて絶対に認めたくなくて、自分達は『誠実な男』だからなんて苦しい言い訳をするんですよ。

まあ、要するに。

光秀殿みたいな『優しい男性』は、大好きな名無しが身も心も自分以外の男に溺れていく様を、その辺で指をくわえて見ていなさいという事です。

大人と子供では子供の方が元来残酷な生き物だと言いますが、光秀殿と私の性質を比べてみると、案外当たっているのかもしれませんね。


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