異次元 【崩壊都市】 「以上の事から、総合的に考えると四番目の青がいいと私は思うな。色的にも青は我が国を象徴する色になるし、正装向きだ」 「…なるほど…」 郭嘉のしてくれた説明は、名無しの胸にストンと落ちた。 名無しとて自分の意思があり、何でも他人の言葉に任せきりという訳でもない。 それでも曹丕や司馬懿、郭嘉のように他人と適度な距離を取り、常に一歩引いた目線から述べられる意見は自分一人だけで悩んでいるよりは非常に参考になる。 「ありがとう郭嘉。すごく参考になります!」 男にアドバイスを貰えたのがよほど嬉しかったのか、名無しはそう言って笑顔で郭嘉を仰ぐ。 年齢・国籍問わずこの世に存在する全ての女性は花である をモットーとし、様々な女性と交流してきた郭嘉だが、名無しを前にすると郭嘉は自分の口元が自然と綻んでいくのを感じた。 人懐っこくて愛らしい名無しの眼差しは、郭嘉の目から見るとマルチーズの子犬のようである。 まるで毛糸か綿飴のように白くてフワフワっとした雰囲気の名無し。 そんな彼女を見ていると、郭嘉は足元にトコトコっと子犬が寄ってきた時のように思わず彼女を抱き締めたくなる。 「やっぱり郭嘉って頼りになるね」 キューン。クゥーン、と。 マルチーズの子犬が、甘えた鳴き声を上げながら全幅の信頼を預けた瞳で自分を見上げているように感じて、郭嘉はどうしたものかと見入ってしまう。 ご主人様、私を買って!! 「可愛いな…。買っちゃおうかな」 「……えっ?」 郭嘉が不意に呟く。 「参ったな。ペットを飼った経験は一度もないんだけど、私の収入なら…家の間取りも…一匹くらいなら…」 城内にいる事も忘れ、郭嘉はついペットショップに来ている時みたいな気分になって一人考えを巡らせる。 「あの…?」 「!」 不思議そうに尋ねる名無しの声に、郭嘉はハッとして意識を取り戻す。 「ああ、ごめん、ごめん。子犬を買おうかどうするか迷っていたんだ」 「えっ。郭嘉、子犬を飼うの?」 「いいや。言ってみただけ」 ??? 何の事だかさっぱり分からない。 だが、そう言って困ったように苦笑する郭嘉の様子に何となくこれ以上突っ込まない方がいいと感じたのか、名無しは話題を変えてみた。 「あ…、そう言えば昼休みが始まってから大分時間が経っちゃったね。郭嘉の大事な休憩時間を奪ってしまってごめんね」 言葉通り心底申し訳ないといった顔付きで、郭嘉に対して名無しが深々と頭を下げる。 休憩時間に衣装合わせをしようとしたのは自分の用事だ。 郭嘉に着替えを見られた辺りからうやむやになってしまったが、郭嘉がその時間を見計らって自分を訪ねて来たのはきっと別の目的があったのだろうと思い、話の流れとはいえ男に付き合わせてしまった事を名無しは謝罪した。 「これはおかしな事を。どうしてあなたが謝るのかな?」 「だって、私のせいで郭嘉の貴重な休憩時間が…」 「確かにその要望を出したのはあなただけど、それを承諾したのは私の意思だよ。それに…、色々な衣装に着替えて出てくる名無しの姿を見るのはまるで結婚式のお色直しを見ているようで楽しかった」 「え…」 「式の準備で、未来の花嫁の衣装選びに付き合う新郎のような気持ちだ。お遊びとはいえ、あなたとの新婚気分を味わえるなんて私はこの国一の果報者だね」 郭嘉は微かに眉根を寄せ、名無しに何かを訴えかけるような、内に秘めた思いを懸命に堪えるような何とも色っぽい笑みを浮かべた。 (うわあああ…!タラシだ、この人っ。相手構わずの先天的なタラシ!!) この甘い台詞と視線に惑わされてはならないと重々承知しているものの、つい彼のペースに巻き込まれそうになっている自分に気付き名無しは必死に抵抗する。 ニッコリ笑顔を見せられただけで、あっという間に心が奪われてしまう。全てを持って行かれてしまう。 そんな美形というのが、この世には本当にいるんだな。 なんて事を名無しが考えていると、郭嘉が楽しげにフフッと笑う。 「それに、男は頼られる事に快感を覚える生き物だから、名無しのお願いを聞くのは私にとっても利のある事だしいいんだよ」 「えっ。どうして?何でそれで郭嘉が得をするの?」 「何故って、そんなのは簡単だよ。男は事ある毎に女に貸しを作りたがる────、もとい恩を売りたがる$カき物だからね」 郭嘉がしてくれた説明はこうだった。 動物界においてはオスがメスに先行投資をし、その代わりにメスに交尾をさせて貰えるという大原則がある。 メスの為に餌を獲ってくる、巣を作ってやる、外敵からメスや子供を守ってやる、etc. そしてそれはライオンや狼といった動物だけに当てはまる事ではなく、自分達人間の世界だってそうだ。 重い荷物を代わりに持ってやる。メスの用事に付き合ってやる。送り迎えしてやる。相談に乗ってやる。食事を奢ってやる。バッグやアクセサリーを買ってやる。家賃を払ってやる。家を買ってやる、等々。 つまり、この『〜してやる』という投資の機会がなければ、オスはメスと仲良くなるきっかけすらつかめない。 全くの無投資でいきなり最初からセックス出来るなんていうのはよほどその男側がどこかの社長や芸能人、モデル並みのハイスペックモテ男か、もしくは女性側の意思を無視するレイプ行為くらいだろう。 それなので、男性は本能的に女性に恩を売る機会を待っている。 もう遅いし、送っていくよ≠ニ不審者から女性を守るナイトの役目を買って出るのも、お嬢ちゃん可愛いからサービスしとくよ!≠ニ屋台の親父が若い女性にオマケをするのも、本質的には同じ原理だ。 男は女性に恩を売れば売るほど、セックス出来る可能性が増加する。 「これらが女性に頼られると男が喜ぶ理由だよ」 真正面から名無しの視線を受け止め、郭嘉がニヤッと笑った。 「じゃあ、さっきの言葉も…」 「そう。名無しに優しくすればするほど、私も名無しを抱ける確率が上がるので得をする、ってこと」 「……!!」 「だからあなたは何も罪悪感を抱く必要はない。むしろもっともっと私を頼ってくれていいんだよ、名無し。大好きな名無しに先行投資して、あなたに恩を売れる機会を私に与えてくれ」 「もうっ!郭嘉!!」 せっかくいい人だと思ったのに!と、名無しが顔を真っ赤にして責める。 [TOP] ×
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