異次元 | ナノ


異次元 
【崩壊都市】
 




ソドムとゴモラ。


旧約聖書の『創世記』に登場する、天からの硫黄と火によって滅ぼされたとされる商業都市。


実は私は、その街について別段悪感情を抱いてはいない。むしろ共感する部分もあるというか、どこか懐かしいような親近感を抱く。


確かに他人に迷惑をかける行為は良くない事だ。何の罪もない人々を巻き込むのだとしたらそれも良くない事だ。


だが当人同士が全て納得済みの行為なら、個人個人が自由を謳歌する事に何の罪がある。性の愉悦と快楽を貪るのに、何故咎めを受けなければならない?


数々の悪徳の中でもとりわけ性的に放埒を極めたというソドムとゴモラの民が、『魂の腐敗の象徴』として神の怒りに触れたというのなら、酒と博打、女性に溺れる私の魂もまた神の炎によって焼き尽くされる事だろう。


だからといって、私は自分の生き方を変えるつもりは毛頭無い。


残り短い余生を怠惰な物にするくらいなら、好きな事を好きなようにして死んでいく。この世の快楽を最大限享受するのが、私の信条だからね。


だけど名無し。大好きなあなたともっと沢山遊んでいたかったのは山々だけど、どうやらタイムリミットが近付いてきているようだ。


享楽に耽り、放蕩の限りを尽くした生き方が神の怒りとやらに触れたのか、私はもうじき現世に別れを告げ、魔界へと強制送還される運命らしい。


そして、私は愛するあなたをこの世に残していく事が耐えられない。


ねえ名無し。私の愛しい人。


ソドムとゴモラに姦淫と悪徳を広め、滅びの罠を仕掛けた悪魔の化身が私だと言うのなら、そんな私の私生活の乱れを心配し、私の心と体をいつも気遣ってくれる優しいあなたは未だ神の奴隷に甘んじている善良な魂だろう。


そんな窮屈で退屈な人生から、私があなたを解放してあげよう。


『アヴェ・マリア』でも呟きながら、愛しいあなたを魔界へと引きずり込んであげる。


もしあなたが少しでも私の事を好きでいてくれるというのなら、どうかその高みから身を投げて私と同じ場所まで堕ちてくれ。


聖マリアのように、今も、死を迎える時も、私のような罪人のために祈りを捧げて欲しい。


最愛の女性が自分の物になってくれるというのなら、私はその伸びやかな手足を切り落とし、天使の羽を引きちぎったって構わないよ。


どうせこの世界から消滅する運命だというのなら、『恋人』という名の尊くも甘美な結晶を手土産にして私は魔界に還りたい。


愛しいあなたの存在全てが欲しいんだ。




─────名無し、私にその魂を捧げてくれる?




─郭嘉夢・【崩壊都市】


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