異次元 【籠の鳥】 「あぁ―んっ…蘭丸…。蘭丸のが…すごいの…」 「すごいって、何が?」 「あああ…だって…。ヌルヌルして…こんな…ああっ……」 自由になっている方の手で名無しの顎を掴んで私の顔に彼女の視線を合わせてみると、名無しの目は涙で濡れていて、目はトロンッと溶け切っていた。 ああ、何度夢に見た事だろう。 名無しの髪を掴んで自分の股間へと導いて、名無しの口一杯に自分自身をくわえさせる事を。 息苦しさで涙ぐむ名無しに構わず喉の奥の奥まで突っ込んで、何度も前後に往復させて、己の爛れた欲望を名無しの口の中に注ぎ込みたいと。 「蘭丸…あああ……」 名無しの顎に添えていた手を彼女の胸元に滑らせて、ツンッと突き出た乳首を布の上からキュッと摘んでみると、名無しが悲鳴に似たような声を上げ、体を震わせている。 私の愛撫に敏感に応えてくれる名無しの反応を嬉しく思いながら、私は何故もっと早くこうして力ずくでも抱かなかったのかと後悔した。 だが、逆に考えてみれば、今までずっと我慢してきたからこそ余計に喜びが増す。 自分の声一つで簡単に服を脱いで足を開く女達とは異なって、手に入れるのにここまで苦労してきた名無しだからこそ今の喜びがあるのかもしれない。 露姫様自身の性格をどうこういうつもりはないが、あんな風に『愛情の押し売り』をしてくる女なんてクソ食らえだ。 どんな形の恋でも、そこに『尊敬』という感情が入ってなければ男女の恋愛は成立しない。 だからこそ私は露姫様のように尊敬出来る部分がない女性に対して、これっぽっちも愛なんて感じない。 据え膳よろしく素っ裸で股を大きく開かれても、良くて性欲位しか感じないし、恋愛要素を感じない。それ以上の感情に、絶対に昇華しない。 性欲だけならこの世に『恋愛』なんて概念は一切不要じゃないですか。 何故なら、性欲は相手を尊敬しない。 「名無し…。反対側を向いて」 「えっ…!?」 気が済むまで名無しの手に己の体液を絡めると、今度は別の場所に塗り込む為に名無しの上体を掴んで起こす。 突然の事で反応が遅れた名無しの腰を両手で左右から持ってクルリと反転させると、そのまま彼女の腰を自分の顔の方へと力任せに引き寄せる。 名無しと私は互いの足の方に顔を向けた逆さまの格好になっていて、布団の上に横たわる私の上を名無しが逆向きに跨いでいる体勢になっていた。 「や……っ」 今の自分がどんないやらしい格好をさせられているのかという事に気付いた名無しが、恥ずかしそうな声を漏らす。 彼女の目の前には私の股間がある訳で、私の目の前には同じく彼女の股間がある。 自分の恥ずかしい部分を至近距離で男に見られるだけでも十分恥ずかしい事なのに、私の顔を跨ぐようにして足を大きく左右に開かされている名無しは完全に全てが丸見えの状態だった。 きっと死ぬほど恥ずかしい状況なのだろう。 名無しの口から零れる喘ぎ声が、すすり泣きのようになっていく。 「い…いやっ!こんな格好はいや……!」 ブルブルと頭を振って、名無しが起き上がろうとする。 だがこの体位を変える事を許さないとでも言うかの如く、私が彼女の腰を掴んでグイッと私の顔近くへと引き戻す。 結果的に二度も男の頭上で局部を曝け出す事になり、絶望と快感の入り交じった吐息が名無しの唇を震わせる。 「いやあああ…蘭丸…。お…お願いだから、やめて……。恥ずかしいよぉぉ…」 やっとの思いでようやくそれだけを振り絞るようにして訴えた名無しの哀願に、私の放った返答は残酷なだけだった。 「ふふっ…。バカですね。恥ずかしい事をしなきゃ、セックスにならないじゃないですか?」 「あああ…そんなぁ……」 情け容赦の無い私の発言に、名無しが諦めにも似た悲鳴を零す。 そうそう。これですよ。この感じ。 淫蕩さと恥じらいが絶妙に交ざり合ったような名無しの喘ぎ声は、私をたまらなく満足させた。 名無しが自分の望み通りの反応をしてくれる事がとても嬉しくて、彼女への愛しさがさらに増していくのを私は心の奥底で感じていた。 恋人を選ぶ場合、我々男という生き物は実に単純だ。 多くの男達にとって、自分がその女を気に入っているかどうかが一番外せない点であり、それ以外はあまり重要視していない。 例えどれだけ周りの人間達が『あの子はいい子だよ』『彼女にするにはああいうタイプの子が一番いいよ』と勧めてきても、その女が自分の好みと決定的に違った場合、まず見向きもしない。 好みのタイプじゃなくてもセックス位は試しにしてみるかもしれないが、やっぱり自分の好みと違う女を本命にするのは困難だ。 けど名無し。貴女達女が男性を選ぶ基準は複雑で、とにかく面倒臭いんですよね。 我々男性陣とは違い、女性陣は恋人の条件に自分の好み以外に他人の好みも付け加える事が殆どです。 男はただ、自分がその女を気に入りさえすればいい。 なのに女は自分が気に入る以外にも、他人の目線を気にしている。 自分の選んだ男が自分の友達にも、職場の同僚にも、家族にも御先祖様にも気に入られるかを気にしている。 社会的な、世間的な評価の高い男を恋人にする事で、自分の価値まで上がったようなつもりになっている所に横槍を入れるようで申し訳ないが。 凄いのは貴女の恋人であって、貴女じゃない。 男が『彼女欲しい』と言う時はその通りの意味ですが、貴女達女が『彼氏欲しい』と言う時はその頭に『みんなに自慢できるような』がもれなくオマケに付きますもんね。 ああ、女って鬱陶しい。見栄っ張りの大嘘つき。 こんな我儘で自分勝手な生き物なんて、この世から居なくなればいいのに。女なんて二度と御免だ。金輪際愛さない。 ───そう思っていたはずなのに、殆どの男が二度も三度も夢中になって女の尻を追い掛けて、そして女によって痛い目に合わされているのが男の哀しい性であり、私はそれが心底物悲しい。 [TOP] ×
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