異次元 | ナノ


異次元 
【真偽矛盾】
 




そういった立場の者でしか知り得ないような重要な秘密を聞き出す道具として使用され、こちらが望む情報を提出するのを拒めば恐ろしい拷問が待っている。

その拷問を受ける際、敵対している相手に捕らえられた女達は女≠ナある事がある意味災いし、男の捕虜よりもよほど悲惨な末路を辿る事がある。

罰を与える為の手段は殴る蹴るといった純粋な暴力の場合もあれば、女相手である事を最大限に利用する性的暴力も多く存在する。

名家の姫君や有名な武将の妻や愛人など、他の男性から見ても欲しくなるほど美しい女性なら、無理矢理好きでもない相手の妻にされたり力ずくで犯されるのは日常茶飯事。

そして、それを拒んだり自分の身が夫以外の男性に汚された事を恥じた女性が、牢屋の中で自害するのもよくある話。

ましてや、北条には風魔が付いている。

忍びが駆使する拷問法は、一般人に比べて意思が強く口も固い同類の忍者相手に使うケースも多い事があって、普通のものよりよほど悪質だ。

情報を聞き出すために薬を使う。幻覚剤、麻薬、毒物、一般人の手には入らないような怪しい薬の入手や使用は何でもござれ。


そんな風魔の拷問道具を借りた北条の血気盛んな男の兵士達に、名無しがどのような目に遭わされているかなど、容易に想像が付くのでは?


……と、風魔は唇を歪めて言うのだ。


「あの女は、毎日毎日牢屋の中で粗野な男共によってたかって汚された」


小太郎は逞しい両腕を組みながら、名無しの身に起こった惨劇を淡々と語る。

その言葉に、半蔵の脳裏に以前自分が敵の城に忍び込んだ際遭遇した出来事が過ぎった。

牢屋の近くを通りがかった際、半蔵が目にしたのは捕虜の女武将がその国の兵士達によって散々にいたぶられ、まるでオモチャのように扱われていた悲惨な光景だった。

『素直に情報を吐かないお前が悪いんだ』
『つまり、自分で選んだ道って事だ』
『吐かないって言うのなら、こっちの言う事に従うようになるまで痛めつけるまでよ!』

男達はそう言って、縄で縛った女を自分達の思いのままにしていた。

『どうせこいつは捕虜なんだ』
『ここは敵国だ。残念ながら泣いても喚いても誰も助けてなんかくれねえよ』
『よその国では身分の高い女だろうが、ここではただの雌豚一匹程度にしかすぎねえんだって事分かってる?』

最初は鞭や竹刀による暴力行為を働いていた男達の目に、次第に歪んだ欲望が浮かび上がってくる。

『あー、こいつ、別に妊娠したってどうでもいいよな。俺の女じゃねえし、殿の女でもねえし』
『ハハハッ、違いねえ。誰からいく?』
『あ、俺一番。ここ最近抜いてないから先にヤらせて。相当溜まってんだ』

手足を拘束され、どれだけ暴れようとしても体の自由が効かないのをいい事に、兵士達は互いに下卑た笑みを浮かべながら女に覆い被さり、散々に犯していく。

『んじゃ俺次な。俺、アナル狙ってんの。アナルやらせてっつっても彼女がやらせてくれねーから普段全然物足りなくてさー』
『おい、後がつかえてんだ。各自さっさと済ませろよ』

まるで厠を使う時のように、気安く終わったら替わってくれよ≠ニいう男達。

『お前が欲しがっていた水だぜ。ほら、たんまり飲めよ!』

普通に犯す事に飽きたのか、中にはそう言って笑いながら女の顔目がけて小便をかける男までいた。

女性の中には、こんな事をされるなら死んだ方がよっぽどマシだと思うような者もいるであろう残虐非道な行為。

絶望に染まった瞳で、涙を浮かべながら力なく天井を仰いでいた女武将の姿が、半蔵の記憶の中で名無しの姿と重なっていく。


半蔵……、痛いよ……苦しいよ……


助けて!!


「うぬの可愛い子犬は、卑しい兵士達の公衆便所と化した」

小太郎の薄い唇に、酷薄な笑みが浮かぶ。


「─────体の内も外も男達の体液と汚物にまみれ、蛆が湧くような汚い女にな」


キインッ!!


闇の中で、金属同士がぶつかる音がした。


それは、半蔵が普段愛用している鎖鎌を小太郎に向けて放った一撃によるものだった。

小太郎は半蔵の繰り出した鎖鎌の先端を頑強な鈎爪で弾き返し、そのまま後方宙返りをして半蔵と距離を取る。

円を描くようにして見事なフォームで少し離れた地面に着地すると、小太郎は鬱陶しそうな仕草で風になびく長いドレッドヘアーを掻き上げた。

「我と遊んでくれるのか。愉しい、愉しい……」
「───失せよ」

言い様、武器を握る手に力を込め、半蔵が小太郎に向かって二度目の鎖鎌を振り下ろす。

通常なら、二度の必要なく初回の攻撃でとっくに半蔵の鎖鎌に頭を打ち抜かれている。

しかしそこはさすがに小太郎の名を継ぐ風魔忍軍の頭領、半蔵の動きを読むようにして鎖鎌を受け流す。

「クク……。ムキになって襲いかかるとは、随分忍びらしくない真似をするな……」
「ほざくな」
「本当に?」
「……。」

わざわざ同じ事を聞き返すなど無駄な事を。

呆れ半分の冷めた目付きで、半蔵がジロリと小太郎を睨む。

「……半蔵。任務とは、実に便利な言葉よな」

少し前にも聞いたその台詞。

目の前の男に言い聞かせるようにして、小太郎が意味深に声を潜める。


「誰に問われてもこれは私情ではない≠ニ言い訳出来る」
「……。」
「任務遂行の名の下に、自分にとって大切な女を堂々と助けに行けるのだから」
「!!」


小太郎が告げると、半蔵の表情が一変した。

クールでいつも沈着冷静な伊賀の頭領であるというのが、半蔵を知る者の共通認識だった。

その彼が、端整な顔を包む布の隙間から見える鋭い双眼を、小太郎の言葉を聞くと同時に僅かに見開いたのだ。

それは文字通り普通の人間の感覚で言えば僅かな変化でしかなかったが、半蔵という男を知る小太郎からしてみれば大きな手応えに思えた。


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