異次元 【略奪遊戯】 Hの最中何度も『可愛いね』と褒め、名無しが感じてくれて嬉しいと告げ、可愛すぎて夢に見るかもしれない、なんて煌めくほどの美少年顔で微笑みながら言われてしまったら、名無しは女として喜びを感じてしまう。 見事なまでの飴と鞭の使い分け。 こういう所が、半兵衛が彼に抱かれた女性を虜にしている理由の一つなのかもしれない。 「口だけにしておこうかと思ってたんだけど。名無しさんを見てると、なんだか色々興味が湧いてきちゃったなー」 うっすらと頬を上気させ、半兵衛がいつものカワイ子ブリッ子の口調で告げる。 人間でも動物でも植物でも書物でも、好奇心を刺激する対象物を前にした時の半兵衛はこんな顔をした。 手頃な獲物を前にして目をランランと輝かせている時の猫と、今の彼は丁度同じような心模様なのだろうか。 「交代しよう。名無しさん」 半兵衛は名無しの身体を引き下ろしながら自分も起き上がり、そのまま彼女を後ろ向きに倒して自分が上になる体勢に入れ替えた。 この辺りの流れるような体位チェンジが、こういった方面における半兵衛の経験豊富さを如実に物語っている。 「……半兵衛殿……?」 息も絶え絶えといった様子で、名無しが男を呼ぶ。 つい先刻味わった強烈すぎるほどの絶頂の余韻から未だに覚めず、意識がぼんやりしたままのようだ。 「まだボーッとしてる。そんなに気持ち良かった?」 いたずらっぽい笑みと共に、半兵衛が名無しの下半身に手を伸ばす。 下から上へと撫で上げるようにして太股を触られ、名無しは最初男が何をしようとしているのか分からず硬直した。 「は、は、半兵衛殿…っ」 ここにきてようやく男の手が自分の下半身を這い回っている事に気付き、名無しは引きつった声を上げ、男から逃れるようにして体をくの字に曲げた。 サァッ…と頬を上気させ、涙で潤んだ瞳で『だめ』と訴える名無しの可愛らしい反応に、半兵衛の喉が鳴る。 「……なんだろう。冗談じゃなく、君を見ていると妙に興奮しちゃうよね。ヤバイかなー」 宣言通りこの辺りで一旦引いておかなければ、と思う。 だが、自分の手で乱れる名無しの表情と仕草がたまらなく可愛くて妖艶で、半兵衛は思わず息を詰めた。 「ホント、可愛い…。なんかもう、このままメチャクチャに犯してあげたいくらい。分かる?俺、もう勃起して痛いくらいなんだ」 半兵衛は切なそうに眉を寄せてそう言うと、自分の手で部屋着の腰紐を軽く解き、前をくつろげて、もう十分に張り詰めた高ぶりを取り出した。 「や…ぁ…。すごい……」 名無しは、露出した半兵衛の分身をうっとりと見つめて喘ぐ。 可愛い系の見た目からは想像も付かないくらいに逞しくて大きな半兵衛の肉棒は赤黒く勃起していて、先端からは透明な液体を滲ませていた。 すでに我慢汁を溢れさせている己の状態を自分の目で確かめ、半兵衛は苦々しく唇を歪める。 (くっそぉぉ〜、今日は絶対に最後まではしないって決めてたのに…!) 最後までヤラない=Bこれが半兵衛の常套句だった。 整った容姿と軽妙なトークで元々女性人気が高く、相手に不自由していないという理由もあるが、半兵衛は性に対してそこまでガツガツしていない男性だった。 それなので、狙った女が出来た時にも、それほど事を急ぐような事はなかった。 釣りをするのと同じ具合に獲物が自分の方から網にかかってくるのを待つ。それが半兵衛の女狩り≠フ手法だった。 相手の好みにある程度合わせ、好感を抱かれるような男を演じ、餌を水面に垂らして待つ。 相手が自分に好意を抱き、いい感じの雰囲気になる事があっても、だからといってすぐ相手を料理するような真似はしない。 今日は会って食事をするだけ。 今日は手を繋ぐだけ。 今日はキスをするだけ。 今日は軽く前戯をして、相手の感度や好みを調べるだけ。 今日は指だけでイカせるだけ。 今日は口でするだけ。そこから先のお楽しみはまた今度、という具合に。 二人で一緒にいる間、ずっと『可愛いね』『好きだよ』『俺と付き合って』という甘い口説き文句を降らせてくれているにも関わらず、半兵衛は時間が来たら『この後用事があるから』『今日はここまで』と言って何事もなかったかのように去っていく。 途中まで目一杯盛り上がったのに、膨大な快楽と期待を与えられるだけ与えられて置き去りにされた女の方はたまらない。 半兵衛に会えない間、彼の甘い囁きや指先と舌を使った愛撫を思い出し、切ない思いに囚われ、一人で自分の体を慰める。 そんな事を繰り返している内に、ついに半兵衛に抱かれる頃にはすっかり女の方が半兵衛にハマってしまい、もはや彼なしではいられないくらいの依存状態に陥っていた。 だからこそ、半兵衛は名無しに対してもその方法を取ろうと思っていた。 二ヶ月間名無しが自分の事を焦らしてくれたのと同じで、今日はちょっと名無しの体を弄くって遊ぶだけで、名無しをよがらせるだけよがらせたら後は適当に放置して、本番は二ヶ月後くらいにしてやろうと予定していたのだ。 しかし、今夜の半兵衛はいつもと様子が違った。 普段なら多少性欲が高まったとしても自分の意志である程度コントロールが可能だったのに、悩ましくて淫靡な名無しの媚態を前にしていると、欲望のままに彼女の体を押し倒し、一思いに貫いてやりたいという衝動に駆られてしまう。 本番は無理。 引っ張れる所まで引っ張って、この女を焦らしてやりたい。 朝から晩まで俺の事を考えて、俺に抱いて貰えないのが哀しくて寂しくて、毎晩泣き濡れるくらいにしてやりたい。 だから、本番は無理。 本番だけは………。 「あ…、欲し、い……。熱いの…、中……」 男の雄々しく隆起した分身を目の前に突きつけられ、名無しは体の芯が震えるような思いをした。 哀願する名無しを、うっとりと半兵衛が見下ろす。 [TOP] ×
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