異次元 | ナノ


異次元 
【略奪遊戯】
 




「しょうがないじゃん。だって名無しさんに他の男が群がっているってついさっき知っちゃったんだもの」

知ってしまった以上は仕方ない。

甘い声が、唇が触れそうなほどの距離で響く。

「ギャップ具合といい、行動の読めなさ具合といい、他の男のニオイといい、全部ひっくるめて今日の時点でパーフェクト。もー、俺の好みにドストライクなんだもん。こんな運命の人、逃がすなんて無理無理無理」

脅すような囁きに、名無しはブルルッと体を震わせる。


「俺、今夜は悪い子になっちゃうかも……」
「……ぁ……」


ギラリ。


猫の目のような光彩を輝かせ、半兵衛が獲物を喰らう前の儀式のように唇を舐め取る。

男の冷たい眼光を正面から浴びた途端、名無しは魔法にかけられたように動けなくなってしまった。


猫って、獲物を見付けた時に単に仕留めるだけでなく、その前にいたぶって遊びたがる習性があるそうですよ


こんな話を以前誰かから聞いたのは、一体いつの事だったか。

その時は何気なく聞いていただけだったのに、馬乗りになっている男の姿と言動を間近で見ていると、妙に信憑性があるものに思えてくる。


願わくは、今自分の身に起こっている事が全て夏の夜が見せる悪い夢でありますように。


つい数分前までかけがえのない友人だと思っていた男性に組み敷かれている事実なんて到底信じたくない。


信じたくないのに。




「…強引な真似してごめんねー。抵抗しなくなったら、外してあげてもいいんだけど…」

半兵衛が、言葉とは裏腹に全く悪びれる様子もなく微笑む。

「い…、いやっ。離して!離して…っ」

名無しは掴まれた腕を振り解こうと必死になって暴れ、何度も叫びながら抵抗した。

しかし、半兵衛はこういった状況にとても慣れているようで、どんなに頑張っても名無しは彼の呪縛から逃れる事は出来ない。

手の押さえ付け方といい、馬乗りになった時の体重の乗せ方といい、名無しに跨る場所といい、少ない労力で効率的に女の自由を奪い取る術を心得ているのだ。この男は。

「そんなに強張らなくても大丈夫だよ。痛くはしないつもりだし。大丈夫。俺、上手いから」

但し、名無しさんが俺の言う事に従ってイイ子にしている限りは、だけど。

残酷で情などは一切持ち合わせていないような半兵衛の言葉。

名無しに語る声の響きだけはとても優しいものにすら感じるのに、名無しを見下ろす彼の瞳には一抹の情けも滲んでいない。

「や……っ」

自由になっている半兵衛の右手がゆっくりと自分の胸元に近付いてくるのを感じ取り、名無しは今の自分に出せる精一杯の叫び声を上げたつもりだった。

だが、実際に彼女の唇から漏れたのは、涙混じりのか細い悲鳴のみ。

「半兵衛殿…、ゃ……」

恐怖心で涙ぐむ名無しは、今ですら自分の身に起こっている事を完全には理解出来ずにいた。

というよりも、頭では分かっていても心が『理解したくない』と懸命にその予感を突っぱねているのかもしれない。

仕事の上でも協力し合い、戦となれば互いに命を預け合い、それだけ強い結び付きを得ている大切な仲間に、一度その場を離れれば自分が性の対象として見られる事もあるというのを、名無しは未だに信じられずにいた。

現に今、こうして自分を力ずくで組み敷こうとしている男性は、ついさっきまで大事な友人だったのだ。

「今更勿体ぶる必要ないじゃーん。どうせ名無しさん、他の男にもこうして触らせてやってんでしょ?」
「…!なに、を…言って…!」

嘲笑じみた声をわざとらしく耳のすぐ傍で降らされ、羞恥心で名無しの体温がたちまちカーッと上昇する。

「返事は素直に『ハイ』でいいの。ていうか、俺はそっちの方が燃えるから。覚えておいて」

気まぐれに這い上がった半兵衛の指が、服の下に隠された胸の突起を探すように蠢く。

「や…、やだ……やめて……!」

胸元を撫でていた男の手がついに名無しの乳首を探し当て、彼の指先が乳首の先端に触れた瞬間、名無しの太股がビクビクッと痙攣する。

「…んっ…あっ…」

薄い布地越しに触れる半兵衛の指が、小さな円を描きながら名無しの乳首を弄び、肉突起を潰すようにしてグリグリと撫で回す。

「や…だぁ…触っちゃ…あっ…あっ…」

首を振って拒絶の意思を示す名無しだが、それ以上の抵抗は許されなかった。

手の平を使って乳首だけでなく乳房全体を優しく揉み解すようにして動き、指の腹で乳首をこね、時折キュッと摘んでは引っ張る。

その行為を何度も繰り返している内に、名無しの乳首は段々硬度を増してきて、服の上からでも分かるくらいにツンッと尖っていく。

「くぅ…んっ…、あぁぁ…っ」

声を出さないように、と名無しがどれだけ必死で堪えても、はしたない声が赤い唇から溢れ出てしまう。

「名無しさん、感じやすいんだね」

半兵衛は白い体をくねらせて喘ぐ名無しを満足げに見下ろすと、名無しの上半身を包んでいた布をそれぞれ左右両方にずらし、彼女の胸元をはだけさせた。

「いやあぁぁぁっ」

胸を隠すものが何もなくなってしまった事を悟り、名無しの口から悲痛な声が漏れた。

刺激を受け続けていた名無しの乳首はうっすらと朱色に染まり、外気に触れてプルルッと震えているのが分かる。

「もうこんなに立ってる。可愛い」

いやらしく立ち上がった乳首をありのまま全て観察されて、名無しの両目からは恥ずかしさでますます涙が溢れてきた。

「ほら。自分でもよく分かるでしょ?」
「お…お願いです…半兵衛殿…どうか……」

涙ながらに許しを請う名無しの切なげな表情に、半兵衛はより一層強い力を込めて名無しの両腕を押さえ付け、嬉しそうに『ふふっ』と笑った。

「名無しさんって、そういう風にいやがる子なんだ。可愛いね。めちゃくちゃ虐めたくなってきた」

わざとらしい感嘆に、名無しは耳まで真っ赤になる。


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