異次元 | ナノ


異次元 
【父親譲り】
 




「当たり前だ。お前が恥ずかしがると分かった上で言っている。だから無理矢理やらせているんだ。喜んでやるような事では罰にならん。恥ずかしがって嫌がる事をやらせるのが仕置きの醍醐味だろう?」

そう告げて楽しそうに目を細める司馬師と言えば、どこからどう見ても正義の味方というよりは主人公達をいたぶって楽しむ美形悪役だ。

「ううっ…。そ、そんなぁ…!」

両目を潤ませ、抗議の声を上げる名無しに司馬昭からさらなる追加要求が降ってくる。

「いやー。まだまだ、兄上。これくらいじゃ全然恥ずかしくないですよ。どうせならもっと名無しが恥ずかしがるような事をやらせないと!」
「えっ!?」
「兄上が言ったポーズを取った後で、俺達の方を見ながらご主人様、どうか許して欲しいニャン∞お願いしますニャン!≠チて言うのも追加で。それはもう可愛い猫なで声でね!」


はあああああああ〜!?


ななな、何を言っているの!?この人達!!意味が分からない!!何なの!?一体何なの!?


「そっ…、そんな…無理だよ!は、恥ずかしいよー!!」

我慢の限界を超えた様子で、名無しがあわあわしながら顔を真っ赤にして言い募る。

「無理無理!絶対無理だってば…!お願い子元、お願い子上っ。この格好だけでも凄く恥ずかしいんだから!ゆ…許して欲しいニャンとか…絶対に無理!お願い、勘弁して…!」

基本の猫耳ポーズを無意味に美形兄弟二人の前で取っているだけでも恥ずかしくて仕方ないのに、その上首を傾げて上目遣いで、トドメに猫語まで使って彼らに許しを求めるなんてもうもうもう、考えるだけで恥ずかしすぎる!!

そう思い、何とかして許しを求めようとする名無しの期待は、司馬兄弟によって一瞬にして粉々に打ち砕かれる。


「────やれ。命令だ」
「やれって。名無し!」


ギラリ。


形の良いアーモンド型の瞳をスイッと細め、司馬師と司馬昭が名無しに命令する。

いくら血の繋がった兄弟とはいえ、声を発するタイミングまでバッチリ一緒だなんてどういう事なの、なんて事を思いつつ、そんな名無しの思いは声にならない。

司馬懿に似てサド要素を持つ司馬師が意地悪をしてくるのはまだ予想の範囲内。

だが、兄に比べて見れば多少サド要素が薄れて名無しにも甘い顔を見せてくれる事のある弟の司馬昭までもがこうもキツイ口調で名無しに命じてくるという事は、よほど彼だけを選ばなかった名無しの回答が彼の独占欲とプライドを傷付けたのだろう。

名無しの経験上、司馬師や司馬昭が一旦この目付きになってしまった時は、どうあがいても仕方ない事を知っている。


ううう…、本当にもう!子元のドS!!子上の俺様!!!!


「わ、分かり…ました…」

恥ずかしくても何でも、さらに彼らの怒りを買う前に、とにかく言う事を聞かなくては。

この期に及んで抵抗は無駄だと思い知り、名無しは覚悟を決めたようにコクンッと喉を鳴らして唾を飲み込むと、両手の位置と角度を微調整して猫耳ポーズを整えた。

そして、司馬師に言われた通りに上目遣いで男達を見上げると、ちょこんっと首を傾げながら命じられた台詞を述べる。

「……ご主人様。ど……どうか許して欲しい、ニャン……」

先程の発言通り恥ずかしくて堪らないのか、男達を見つめる名無しの頬はリンゴのように赤く染まり、瞳は込み上げる羞恥心で涙に濡れていた。

(うううっ…、は、恥ずかしいっ…!早くこのポーズから開放されたいっ。穴があったら入りたいっ!!)

恥ずかしいという気持ちが表れているのは彼女の瞳だけではない。

可愛い猫撫で声で≠ニいう司馬昭の要望に従うために、一生懸命彼女なりに努力しようとしているのだろう。頑張って作った甘い声は、緊張と動揺の為か可憐に震えている。


「お願いしますニャン…ッ!」


うるうると潤んだ瞳が、男を見る。

猫耳ポーズ、上目遣い、首傾げ、潤んだ瞳、上気した頬、震える唇、震える声。

全身全霊で兄弟のリクエストに応え、許しを請おうとする彼女の健気さと可愛らしい仕草は破壊的な威力となって司馬兄弟のプライドや独占欲、意地悪心やよこしまな心までも全てを直撃した。


なんという萌え爆弾!!!!


「……いい……」


ポツリ。


(……えっ?)


熱い吐息混じりに漏らされた二人の言葉に、名無しが驚いて目をしばたかせる。

「……素直でよろしい。いいM女っぷりだ……」

低音の響く声で告げ、満足そうな眼差しでうっとりと名無しを見つめる司馬師の顔は、興奮しているのかほんのりと上気していた。

「何これ?ホントにヤバイんだけど……。何なの!?このカワイイ生き物っ……ハンパねえ……!!」

興奮気味の口調で掠れた声で告げる司馬昭もまた、兄と同じようにうっとりした熱い視線を彼女に注ぎながら頬を赤く染めている。

ゴクリと喉を鳴らす音が、司馬師と司馬昭から聞こえてきたように思えたのは名無しの気のせいだろうか?

「なあなあ名無し。今のもう一回やって、もう一回やって!」
「出来ませんっ。恥ずかしいからもうやりません!!」
「えぇ〜っ!?いいじゃん別に!減るもんじゃないし。もう一回やって。頼む!」
「私の中の何かがどんどん減っていくんですっ。出来ませんっ!!」

名無しの両手をひしっと握り、熱っぽい声でまくしたてる司馬昭の視線から逃れるようにして名無しがブルブルと左右に首を振って否定する。

あれをやれ∞次はこれをやれ∞許して欲しければ○○の真似をしろ≠ニ名無しに命じてくるのは父親の司馬懿も一緒だが、わざと相手が恥ずかしがったり嫌がるような事をさせて喜ぶというのはS要素を持つ男達のお約束とも言える行為なのだろうか。

幸か不幸か、曹丕や司馬懿のおかげで名無しはそういった命令にも大分慣れてきてしまった感がある。

……が、彼らだけだと言うならいざ知らず。

そこからさらに司馬師や司馬昭を加えて同じ城内で4人のご主人様気質の男性と渡り合っていかなければならなくなった現在の状況に、どうしたものかと名無しは人知れず頭を抱える。

「いいからやれ。私と昭の言う事を聞かないと、今からもっと恥ずかしい芸を披露させるぞ」
「ええっ!?そ、そんな…!私ちゃんとあなたたちの言う通りにしたじゃないっ。ひどいっ…子元!話が違うよー!」




─END─
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