異次元 | ナノ


異次元 
【頂点捕食者】
 




(……まさか)


ドクン。

ドクン。

名無しの不可解な行動と発言を目にした清正の脳裏に、ある考えが浮かぶ。

ひょっとして、自分が見た例の夢を、名無しも同時に見たのではないだろうか!?

(馬鹿な。有り得ん)

すぐさま否定してみるも、名無しのあの態度からすれば清正にはどうしてもそうだとしか思えなかった。

『それを使えば清正殿は思い人と夢の時間を共有する事が出来まする』
『そしてそこは夢ではなく現実でもない、また、夢であって現実でもあるその両方の意味を持つ特殊な世界なのですじゃ』

思い人との夢の時間の共有。夢と現実が混ざり合った特殊な世界だと言った老婆の言葉を清正は思い出す。

たんなるインチキアイテムか眉唾ものの話だとばかり思っていたが、あの老婆の言う事はまさか本当だったと言うのか。

基本的に現実主義者の清正は今のこの状況に置かれても自分の身に起こった事が100%完全には信じられずにいた。

だが、今の名無しの反応と今朝見た夢というキーワードを考えてみるに、ただの偶然や思い過ごしとも思えない。


『もう餌≠ヘ撒いた?』


半兵衛の台詞が脳裏をよぎった清正の全身に、ビリビリビリッという強い電流が一気に駆け抜ける。

その電気ショックを合図とするように、清正はここに来て突然あのしおり≠フ使い道を理解した。


─────そう。これは餌≠セ。


名無しを手に入れるための、名無しに自分の事を男として意識させるための、名無しの思考を支配するための、これこそが最も便利で効果的な撒き餌。

『そして夢の中で彼女を手に入れなされ。成功したら、それを何度も繰り返しなされ』

(そういう事か)

もしあのしおりが本当に自分と名無しの夢の世界を繋ぐ能力を持っているというのなら、同じ事を延々と繰り返してやればいい。何度も何度も。

一度や二度そういった夢を見ただけならただの気のせいとも思えるが、同じ夢を10回も20回も繰り返し見れば名無しはどう思う事だろう。

夢占いとやらに詳しい人間は、よく夢は深層心理の表れだ∞夢で見た光景には密かな願望が隠されている≠ニしたり顔で言うではないか。

だとしたら、あの魔の夢≠フ中で何度も繰り返し名無しを陵辱し、己の体液を注ぎ込むことは、名無しに対する精神攻撃と洗脳術という点では非常に有用かもしれん。

長い時間をかけて地道に獲物を追い詰めていくのも、それはそれで狩りの楽しみがある。

しかし、戦場で敵将の首を刈る時も早ければ早いほど危険が減るし、次の手に打って出る余裕も出来る。

短い時間と労力で獲物を仕留めることが出来る効果的な方法があるというのなら、それにこした事はない。


(この策に乗るぜ)


つい先程、名無しを話をしていた時まで清正の双眼を満たしていた穏やかな光は消え失せ、代わりに野生の獣のように研ぎ澄まされた獰猛な光が名無しの走り去っていった方角を見る。

予期せず最高の狩り道具を手に入れた感動。そして狩りのチャンスを得た興奮と喜びに、清正は人知れず打ち震えた。




清正が不思議なしおりを手に入れてから約1ヶ月半近くが経過した頃。

あの日以来、清正はしおりの魔力を使って幾度となく夢の中で名無しに愛を囁き、彼女の心と体を弄び、いたぶり、意のままに犯していた。

三成との情事を目撃してから、あんなにも抱きたくてたまらなかった名無しの体を、夢の中とはいえ今や自由自在に抱けるのだ。

しかも、自分が見たビジョンはそのまま名無しの脳内にも同時公開されるという便利なオマケ付きで。

若い盛りの肉体を持つ清正は、溢れんばかりの情熱と性欲を愛する女性に全てぶつけたくて仕方ない。出来る事なら毎晩でも彼女を抱きたいと思っていた。

だが、いくらなんでも毎晩欠かさず自分が男に抱かれている夢を見るなんて、さすがに名無し本人だっておかしいと思うだろう。

そもそも、夢自体を毎晩必ず見るような人の方が珍しいのではないかと思うし、たまに見る程度の人の方が多いのではないだろうか。

そう思った清正は、彼の中で色々と戦法を練った挙げ句、適度に間隔を置いてしおりを使う事にした。

少しでも真実味を持たせるために、わざと週に2回程度のペースで名無しを抱いた。その日付も、時には翌々日だったりあるいは五日後だったりと、わざと不規則なものにした。

夢の世界だというのをいい事に、清正は散々に名無しを犯しまくった。

一度きりで解放する事など皆無に等しく、一度魔の夢の時間帯に入ったら四回、五回…と名無しを貫き続けるのが常であった。


『ひぃぃ…死んじゃう…もう…本当にダメ……』
『あああん…また…イッちゃう……!』


名無しがどれだけ泣いて男に許しを求めても、清正のピストン運動は止まらない。

名無しが身を捩って逃れようとすればするほどに、余計に清正の男根が彼女の体の奥深くまでねじ込まれていく。

清正に抱かれる夢を見た朝は、名無しはいつも決まって頭の天辺から爪先までグッショリと寝汗をかいていて、寝間着がベッタリと体に貼り付いているという有様だった。

その事実に名無しは驚愕し、そんな淫らで破廉恥な夢を見てしまった己を恥じ、泣きたいような気持ちが募った。

何も分からない名無し。

それが清正によってもたらされた魔の夢≠ナある事など、知りもせずに。


(どうしてっ…!?どうして私、一度や二度だけじゃなく…こんなにも…こんなにも何度も清正に抱かれる夢を見るの!?)


自分がこれほどまでに幾度となく清正を求める夢を見る事に、名無しは驚きと戸惑いを隠せなかった。

普通、こんな風にして『誰誰とエッチしている夢を見ちゃった』と知り合いに告げると、大抵男女関係なく『何それ〜、ひょっとして欲求不満?』などと笑われ、からかわれると相場が決まっている。


[TOP]
×