異次元 | ナノ


異次元 
【頂点捕食者】
 




「名無し……」

清正が名無しの元に辿り着いた時、ギシッ、とベッドが軋むようにして月下美人の花弁がフワリと波打った。

「ん……」

その刺激に微かに意識を揺り動かされたのか、名無しは小さく呟いてゴロンと寝返りを打つ。

名無しが体を動かした拍子に彼女の体を覆っていた白い布がはらりとめくれ、先程よりも大きく露出した彼女の胸元と太股の白さが眩しい程の刺激となって清正の双眼に突き刺さる。

あと少しで脱げてしまいそうな名無しの痴態を見た途端、ジン、と清正の腰の辺りに妙な痺れが走る。

我慢の限界だった。

「は…ぁ…。名無し……っ」

清正は名無しに覆い被さると、彼女の唇を赤い舌でペロリと舐めた。

まるで飢えた肉食獣が食事の前に獲物の味見をするかの如く、名無しの上唇と下唇に舌を這わせて順番に舐め取っていく。

謎の感覚に名無しは『あ…』という小さな声を漏らしたが、噛み付くようにして重なってきた男の唇に吐息ごと飲み込まれてしまった。

ヌルリと入り込んできた湿った物体の感覚に心底驚き、反射的に目を覚ました名無しは、自分の上に馬乗りになっている男の正体に気が付いた途端に悲鳴のような声を上げる。

「き、清正……!」
「なんだ…。眠ったままかと思えば、起きたのか」
「えっ…、ちょっ…、ちょっと…なんで?わ、私ったらなんでこんな所にいるの?それにこの格好……!やだ……どうしてっ!?」

男の厚い胸板を必死で押し返しながら、名無しが目に見える程に狼狽える。

つい先刻まで周囲の風景に面食らっていた清正と同じく、彼女もまた自らの置かれている状況が咄嗟に理解出来ないようだ。

名無し自身、予想もしないままに清正の夢の中に紛れ込んでしまったかのようなこの反応。夢にしては実にリアルだ。


やだ……どうして……何この状況っ。


ウソでしょ……、待って……、心の準備が……!!


そう言いたげにブンブンと首を振りながら清正の腕から逃れようとする名無しの反応が妙に生々しくてエロティックで、清正の情欲はますます煽られた。

完全に強張ってしまった名無しの口腔を割るようにして、再び清正の舌が強引に侵入してくる。

親愛の表現をするだけの、友人同士や家族間のソフトなキスとは無論違う。

名無しの意識を奪うための、感じさせるための、濡れさせるための、男を受け入れる用意をさせる為の、セックスの前戯としての、欲望のキス。

「清正、待って…んんっ…」

清正の少し厚めの唇が、名無しの唇を完全に覆う。

その唇はとても柔らかくて温かくて、気持ちのいいものだった。

だが彼女の口腔内で暴れる清正の舌先は残酷なまでに乱暴で、瞬く間に彼女の内部を蹂躙していく。

「んんっ…清正…やめ、てぇ……」

懸命に身を捩って逃れようにも、名無しは清正の逞しい腕で完全に両手を押さえつけられてしまい、身動きが取れない。

「ああん…だめ…清正……あっ……」

名無しが抵抗しようとすればするほど、清正の口付けが深く激しいものになっていく。

「いや…んっ…んんっ……」

ねっとりと熱を持った異物が、ピチャピチャと音を立てながら口の中で蠢く。

なんとかして喉の奥に避難しようとした舌をいとも簡単に男の舌に絡め取られ、深い角度から上顎を舌先でつつかれると、名無しの両目にはそれだけで官能の涙が滲んだ。

「ん…うっ…。清正ぁぁ……」

甘えたような鳴き声が、名無しの濡れた唇から零れ出る。

ぬるぬると飴玉をしゃぶるように名無しの舌を舐めいたぶり、時折チュウッと吸い上げる清正の巧みな口技に、名無しは頭がクラクラになってしまった。

「だめ……」

無意識の内に腰をくねらせて男を誘う淫らな名無しの姿を清正は愛しそうに見下ろすと、ようやく舌を抜いて名無しの唇にちゅっと小さな口付けを与える。

「名無しは……俺が好きか?」

清正は、名無しの耳たぶを甘噛みしながら低い声で尋ねた。

清正のキスと甘い囁きに名無しの心と体はすっかりフニャフニャのトロトロになってしまっていたが、涙混じりの声で『分からない』とだけ答えた。

そんな事を突然聞かれてしまっても分からない。

清正の事は大好きだ。だが、こういう事≠願う対象として清正を見ていたかどうかというと……。

完全に拒絶されたという訳ではないが、同意でもない名無しの言葉。

求めていた台詞と違った事に清正は一瞬呆気に取られたように目を見開き、まじまじと名無しを見つめた。

怒りに代わり失望、ショック、そして再び蘇った怒りの色が清正の双眼で交互に輝く。

「なら…好きにさせてやる。だったら文句はないだろうっ!?」

男としてのプライドと嫉妬心、独占欲に同時に火が点いたのか、清正はそう言ってギリッと奥歯を噛み締めた。

「俺が愛しくて愛しくてたまらなくしてやる。24時間、俺の事しか考えられないようにしてやる。そうしてからお前を三成から奪い、本格的に俺の物にしてやる…!」
「いやぁぁ…。清正ぁ……あっ……」

名無しは、清正の告白から逃れる術がなかった。

同じ男性と比べて見ても広い肩幅、厚い胸板、見事に格闘家並みの鍛え抜かれた体躯を持つ清正は、遠くから眺めているだけでも十分男らしくてカッコイイ。

ただでさえそんなカッコイイ清正に、役者顔負けの端整で精悍な顔立ちでこんな風にして間近から自分の瞳を覗き込まれて、情熱的に口説かれているのだからたまらない。

ゾクリと肌をざわめかせる魅惑的な低音の声で囁かれると、名無しは余計な事など何も考えられなくなってしまいそうだった。

「お、お願い…清正…もうやめて……」

今まで全く予想していなかった清正からの突然すぎるアプローチと、布一枚しか身に付けていない恥ずかしい己の姿、そして今自分がされている事で頭の中がぐちゃぐちゃになり、名無しはついに泣き出してしまった。

しかし、完全に燃え上がってしまっている清正は、名無しの涙程度では収まらない。


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