異次元 | ナノ


異次元 
【頂点捕食者】
 




「つまりだ清正!俺は世の中の不条理を嘆いているのだ。全ての人々が平等に暮らせる世の中を作りてえんだ!!」
「身近な人間に対する不満から一気に話が拡大して大きく出たな。政治家にでもなる気か、馬鹿」
「お!それいいねえー。さすが清正、いい事言うじゃん。俺が殿様になったら今の一夫多妻じゃなくて一夫一妻形式を制定するぜ。モテ男が一人で大量の女を所有するんじゃなくて、一人の男に一人の女をあてがうという皆平等方式で。うんうん、それがいい!」
「……お前さっき自分も勝ち組になりたいとか言ってなかったか。そっち側に行きたいのか弱者の味方になりたいのか、どっちなんだ」

鼻息荒く己の理想を語る正則に、皮肉を交えた冷静な突っ込みで返す清正。普段から彼らに接している者が見ればいつも通りの見慣れた展開だ。

「むむっ!?今気付いたけどよ、そういえば清正だってあいつらと同じじゃねーかっ。『清正様なら何でも許せちゃうっ』『あーんっ、避妊してくれなくてもいいから清正様に抱かれたい!』とか城の女達に言わせまくっててよー!こりゃー許せねえ。お前も敵だ。天誅だ!!」
「知るか馬鹿。俺は一度もそんな扱いを望んだ覚えはないぜ。大体、俺のいない所で女達が俺の事をどんな風に言っているのかなんて知るかよ」
「うおー!来たぜ正論!しかも清正の場合は本気でどうでもいいと思っていそうな所が余計に憎いんだよな!羨まけしからん!!」

羨ましい+けしからん=羨まけしからん≠フセット語を語尾に加え、正則が清正に言い募る。

正則の言う通り、加藤清正という男は本当に自分が女達からどのような目で見られているかという事には無頓着で、激しくどうでもいいというような男性だった。

そんな清正の硬派っぷりは女性達には彼の魅力として賛美されるが、ハイパーモテ男の三成や宗茂と同様、同性から見ればそういったクールさが憎らしく思える事もある。

この人から見て、自分はどう映っているのだろう

清正のような男がそんな事を気にする女性は、この世でただ二人。

一人は主君・秀吉の妻であり、清正にとって母親にも近い存在である『ねね』。

敬意と尊敬と親愛の情を込めて彼がおねね様≠ニ呼ぶ、大好きで、大切な相手だ。

そしてもう一人。以前はただの同僚としか思っていなかったが、ある事件をきっかけにして一人の女性として意識するようになってしまった相手。

仲のいい女友達という関係から、雌としての認識へ。

今となっては完全に雄の目線で見るようになってしまった同じ豊臣の武将─────名無し。


『あぁぁぁ…だめ…触っちゃだめぇ……』
『ああーんっ…だめだめ…イッちゃう…だめぇぇ…』


あの時の名無しの痴態。あの時の表情。あの時の喘ぎ声を思い出すだけで、清正の全身を甘い電流が駆け巡る。

それまでも、名無しの事は好きだった。女性というよりは一人の人間として好感を抱いていた。

素直で可愛い女だなと思っていた。頑張り屋で、努力家だと思っていた。

そんな名無しを自分も同じ豊臣軍に所属する同僚武将として、仲間として応援してやりたいと思っていた。

名無しが何か困っている時には支えてやりたいと思っていた。あの笑顔を、あの白い手を、俺が守ってやらなければと思っていた。

『ひっく…三成のイジワル……お願い…もう…虐めないで……』
『元はと言えばお前が悪いんだろう?名無し。お前があんな事言い出すから…』
『ああーん…ごめんなさい三成…だって…だってぇぇ……』

込み上げる羞恥心で頬を紅潮させ、ポロポロと大粒の涙を流しながら三成に許しを求めていた名無し。

そんな名無しを見ていた清正の胸は切ない痛みを覚え、心臓が素手でギューッと握り潰されるような苦しみを覚えた。

まるで本当の兄弟姉妹のように仲の良かった名無し。可愛い名無し。俺の名無し。

彼女が泣くと、清正は自分が戦場で傷を負った時よりも、自らの肉体が痛めつけられた時よりも何十倍も辛く感じた。

助けてやりたいと思った。三成の責め苦から、解放してやりたいと思った。その気持ち自体に嘘偽りはない。


だが、それと同時に─────彼女に対するどうしようもないくらいの淫らな情欲と激しい欲望を感じた。


出来る事なら、自分が三成と取って代わりたい。


三成の代わりに名無しの白い体を組み敷き、濡れそぼった彼女の中心にいきり立った己のモノを押し当て、奥深くまで一気に貫きたい。


名無しの可愛いお尻を掴んで、バックから思い切り突きまくりたい。


思う存分、名無しを虐めて虐めて責め抜いて………泣かせまくりたい。


(変態かも……俺)


名無しを守ってやりたいという願望。同時に、彼女の体をめちゃくちゃにしてやりたいというどうにも収まらない欲望。

相反する衝動が清正の中で複雑に絡み合い、あれ以来清正は自分で自分の気持ちをコントロール出来ずにいた。

自分が本当は何をしたいのか、何を求めているのか。この先どうすればいいのか、自分でもよく分からないままだった。


『や…ぁ……。清正……見ないで……っ』
『お願い…清正…いやぁぁ…見ないで……』


泣きながら俺に見ないで≠ニ必死で懇願していた名無し。何故なんだ。どうしてなんだ。

三成の事は受け入れているくせに、どうして俺の事は拒絶する。


俺はこんなにもお前の事を大切に思っているのに。三成の魔手から、お前を守ってやりたいと思っているのに。


こんなにもお前が欲しいと思っているのに。



本気で────抱きたいと思っているのに。



『それとも、名無しがイクところまで一通り見ていきたいのか?』


(あの悪党)


勝ち誇ったような笑みを貼り付けて言い放った三成の姿を思い出す度、腸が煮えくりかえる。

三成によって乱されていた破廉恥な己の姿を目撃されたショックが大きかったのか、あれ以来、名無しは清正によそよそしい態度を取るようになった。

完全に無視されているだとか、口も利いて貰えないだとかそういう類のものではないが、名無し自身、どうやって清正と接して良いのか分からずにいるのだろう。

廊下や執務室で会う度、名無しは清正の顔を見るとカァッ…と頬を紅潮させて、何ともいたたまれない様子で恥ずかしそうに目を反らし、そっと瞳を伏せてしまう。

そんな名無しの反応が、清正には余計に辛くて辛くて仕方ない。


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