異次元 | ナノ


異次元 
【頂点捕食者】
 




「はーい!いらっしゃいいらっしゃい、新鮮な魚が安いよ!今朝採れたてだよ!!」
「そこのお姉さん、綺麗なかんざしが揃ってるよ。これを着ければ誰でもいいところのお嬢さんみたいになれるよ!どうだい、見ていっておくれよ!」


春先に満開になっていた桜の花も風に吹かれて舞い落ち、季節も春から初夏へと移り変わっていった5月の上旬。

豊臣城の城下町は、いつものように多くの通行人や買い物客、商人達で大いに賑わっていた。

そんな中、城下町の一角にある団子屋に二人の若者がいた。

その正体は秀吉子飼いの若武者・福島正則と加藤清正である。

午前中の鍛錬を終え、午後からの執務までに数時間の余暇が出来た清正は同じく暇を持て余していた正則に誘われてこの日城下町に来ていた。

当初清正は日頃の疲れから、部屋で仮眠を取りたいと思っていた。

しかし、『いい若いモンが昼間っから腐ってんじゃねーよ!仕事と鍛錬ばっかりじゃなくてもっと青春しろよ清正!ほらほら立った!俺と一緒にお天道様の光を浴びに行こうぜー!!』と叫びながら部屋に乗り込んで来た正則に腕を掴まれ、半ば強制的な形で外に連れ出されていたのだ。

一度ハートに火が点いた正則を止めるのは並大抵の事ではなく、こうなってしまったら逃れる事は困難だと判断した清正はしぶしぶ正則に従い、共にみたらし団子を食べていた。

仕事以外のプライベートな時間である事。また、お忍びで来ている事もあり、清正も正則も普段の戦闘服を脱ぎ去ってごく普通の若者が着るようなラフな私服を着ている。

初夏の日差しが眩しいのか、お忍び目的の為人目を微妙に避けているのか、俯き加減に団子を食べている清正だが、精悍な彼の顔立ちを見ただけで彼が半端でなくいい男だというのは遠目からでも分かるだろう。

座っていても他の着席客達より頭一つ分飛び出している彼の身長は、180pを優に超えている。

何の飾り気もない素朴な衣装を纏っていても、布の上からでも見て取れる逞しい体付きと手足の太い筋肉。

他愛ない会話の最中でも周囲の様子にさりげなく目配りしつつ団子を頬張る彼らの所作は、二人の青年が単なる町人ではない事を如実に表していた。

「むぐむぐ、もぐっ…。だからさ〜、世の中ってつくづく不公平だと思う訳よ。そこで俺は一つの目標を立てる事にした。つまり、勝ち組宣言だ」

美味しそうな顔をしてみたらし団子に豪快にかぶりつきながら、正則が言う。

「浮気しても何股かけても、避妊具つけないで生Hしても、中出ししても全て『テヘペロッ☆』で許される男に俺はなりたい!!」

ドーン!!と背後に謎の効果音を背負っているかのようなとてつもない迫力で、正則は硬く拳を握りつつそう宣言した。

クワッ、と両目を大きく見開いてそう主張する正則の姿とは対照的に、隣で聞いていた清正と言えば呆れたように眉間に皺を寄せている。

「ないわー」
「そう思うだろ!?だが実際にいるんだよ!そういう男が!!」
「いや、だからないって。実際にいたとしても、俺的にそういうチャラい男はないわー」
「清正はなくても俺的にはそういう男になりてえんだってば!羨ましいんだってば!いいから人の話は最後まで聞けよコラー!!」

あっさりと言い捨てる清正の反応にもめげず、それでも正則は負けじと食い下がる。

自分達のような同性からすれば、いや、女達から見ても一見許し難いと感じる存在だと思われるが、世の中には実際にこのような事をしても何もお咎めナシという羨ましい人間が存在する。

若くて顔がいいから。親が金持ちだから。権力があるから。口先が上手いから。セックスが上手だから。etc.

理由自体は色々あるが、他の男(女)がやったら総スカンを食らうような言動や行為でも、『○○君なら何をされても許せちゃう。うふっ!』『○○ちゃんみたいな美少女ならどんな性格でも許せるよ、マジで!』と世の女性や男性に言わせる特権階級の人間。

そんな人間達に対して『羨ましい!!』という思いを募らせた結果、最終的に『だったらそういう男に、俺もなる!!』という結論に達したというのが正則の弁らしい。

「つーかさー、よくよく考えてみればこの手の男はフツーにうちの城にもいるんだよなー。三成のヤローに宗茂のヤロー!あいつら『三成様になら何をされてもいい』『宗茂様にならどんな事をされても許せちゃう!』って城中の女達から言われまくってんだぜ!カーッ!!」

熱弁しながらブルブルと首を左右に振り、正則は全身で三成や宗茂のけしからんぶり≠表現する。

どちらもクールビューティーで有名な三成や宗茂のような男性が実際に女性の前で『テヘペロッ☆』とやっているかどうかはさておき、確かに正則の発言通り、石田三成や立花宗茂という男は豊臣の女達から圧倒的な人気を誇り、何をしても女達から大目に見られる立場だった。

それこそ、浮気をしようが何股をかけようが、『三成様ならしょうがない』『宗茂様とお付き合いできるなら、それくらい我慢します!』と言ってのける女達。

避妊とかするの面倒臭い
生でやるのが好きだから、それが嫌だというならさっさと帰れ

……と三成達が実際に言っているのかどうかは知らないが、もし本当にそう言ったとしても拒絶しない女達も結構いるのではないだろうか。

避妊具をつけないで生Hしても、中出ししても全て『んもう、○○様ったらあ』で許される。

それどころか、逆になんとかして既成事実を作り、自分が彼らの本妻の座に収まらんとばかりに『三成様にならむしろ中出しされたい!』『宗茂様の子供が産めるなら本望!』と恍惚の顔付きで彼らにしなだれかかる女達の山、山、山。

その一方で、世の中には女達に全く相手にされず、生まれてから一度もセックスした経験がないというモテナイ君達が沢山いる。

ハイパーイケメンVSモテナイ君。何をしても無罪放免な男達と、同じ事をしたら有罪認定される男達。この不平等さは一体どうなっているんだ!!


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