異次元 | ナノ


異次元 
【理想郷】
 




どうやら彼のこの態度には何の悪気もなく、言葉通り司馬昭殿の好きにしたらどうですか∴ネ外の意味はないらしい。

そう感じた司馬昭は『ふーん』と短く呟くと、再度紙面を指で示して鍾会に問う。

「ちなみに、この中だとお前だったらどれが好き?男の夢の連続顔射、スリルがたまらない公衆面前レイプ、マニアックな所で妊婦陵辱?」
「どうでもいいです」

司馬昭が何を尋ねても、まるで興味ないとでも言わんばかりの鍾会。

そんな彼の姿を間近で目にしていた司馬昭は、怪訝な顔付きで眉根を寄せる。

「……鍾会。前からずっと気になってたんだけどさー、何でそんなに淡泊なの?お前。興味ないとかどうでもいいとか、年頃の男なのにおかしいって。……ひょっとして童貞とか?」
「はあー!?ち、違いますっ!その発言、いくら司馬昭殿でも聞き捨てなりませんっ。私は選ばれし人間・鍾士季です!!」

司馬昭が童貞の『ど』しか言っていない時点で、即座に鍾会が反論した。

「幼い頃よりあらゆる方面の英才教育を受けてきたこの私。学問だけでなくそちら方面の知識や経験もそこら辺の男性よりよほど積んでいる自信はありますし、男性機能や男としての能力面でも他人以上に優れていると自負していますっ!」

ムキになって言い返す鍾会の反応に、司馬昭が意外そうに双眸を見開く。

「へー、マジで?鍾会って結構堅物だと思ってたのに意外。今まで抱いた女の人数は?」
「プライバシーの侵害です。そのような質問にお答えする義務はありません」

キリッとしたイケメン顔で平然と答える鍾会に、司馬昭は面白そうな口調で矢継ぎ早に質問を浴びせる。

「ふーん。あっそ。じゃ、イカせた女の割合は?」
「それは私と関係した女性全員、ですね。選ばれし男である私の手にかかれば全ての女性がそうなります。当然でしょう?」
「女の性感帯は?」
「胸と性器、口の中が最も敏感な箇所ですが、背中や足の裏、うなじ、耳たぶなど、開発次第で性感帯と化す部分は沢山あります。なので答えは『全身』です」
「じゃ、Gスポットの場所は?」
「私を舐めないで下さいよ、司馬昭殿。簡単すぎてあくびが出ます。初心者向けの問題ですか?膣のうち、尿道や膀胱のある側の壁の入口から大体3cm〜7cm入ったところにあります。膣内を探っているとザラっとしている部分が大体の目安です。刺激を与えると膨らむ部分があるのでそこを集中的に刺激します。その部分への愛撫が女性の性欲と性感を異常なほど高めるのです」

司馬昭の質問に対し、次から次へとまるで本を朗読しているかのようにスラスラと淀みなく答える鍾会は、目に見える程に得意げな顔でフフンと笑っている。

そこだけ見ていれば経験豊富で女体のツボも知り尽くしたセックスマスターのようにも思える。

だが、どこか教科書じみた鍾会の回答は知識先行型と言うか、マニュアル人間っぽく感じられない事もない。

「ほほー、思ったより詳しいじゃん。それ、今までの経験則から導き出したの?それとも、お得意のハウツー本による豆知識?」
「なっ…、何を馬鹿な!!」

悪戯に笑われ、鍾会は今度こそ顔から火が出そうな程に本気で怒り出した。

「何を根拠に、そんな事を言われるのですかっ!?」

ひょっとして童貞?それって本から得ただけの知識?

そう尋ねた司馬昭の質問内容は、プライドが高くて自信家である鍾会にとって大いなる侮辱として感じられたようだ。

例え冗談だと言われたとしても、無礼千万な発言ではないか。

そう食ってかかりたくなる思いを必死で抑え、鍾会は普段の冷静さを保とうとして喉元まで出かかった声をグッと堪える。

失礼な!!

「司馬昭殿。私も前からずっと思っていたのですが、ここできっぱり誤解を解いておきます。私は……!」
「なーんてなっ!!」

鍾会が言い終わるよりも早く、あっけらかんとした態度で司馬昭が笑いながら彼の肩をバンバンと叩く。

司馬昭は鍾会の肩を掴んで軽く揺さぶると、一人で勝手に納得しているようにしてウンウンと頷いている。

「いやー、さっすがにそれはないかー。5才や6才のハナタレ小僧ならまだしも、俺達の年で童貞とか有り得ないよな。フツーの男ならまだしも、鍾会って見た目だけなら相当なイケメンだし。まっ、中身は結構残念な所もあるけどな!ハハッ!」

聞く人間によっては失礼にも取れる台詞を平気でポンポンと並べ立てながら、司馬昭は持ち前の端整な顔で快活に笑う。

「くっ…。そ、それ、どういう事ですかっ!?見た目は良くても中身は残念ってどういう意味ですか!?納得出来ません!!」
「こういう事を正直に言っちゃうのが俺のいい所でしょ。親しき仲だからこそ本音アリ、言いたい放題言いまくりって事で!」

それを言うなら親しき仲にも礼儀あり≠ナしょうが!と突っ込んでやりたい気もしたが、どうせ司馬昭の事だから分かっていてやっているのだろうと思った鍾会は無駄な指摘をするのを止めた。

反省の色は微塵もないが、こんな風にして明るく笑い飛ばされると憎めないのが司馬昭の得な所だ。

「でもさあ、鍾会。その顔で普段から勉強ばっかりして彼女もいないと、お前は良くても世間には誤解されちまうぜ?」

普通、世間一般的には見た目の造形が良い人間────いわゆる美男美女≠ヘ他者からの羨望の眼差しを一身に注がれ続け、男女問わずモテモテだというのが定番である。その上年齢まで若いとくれば尚更だ。

それなので、どこからどう見ても美形であるにも関わらず、彼氏や彼女がいなかったり、ある程度の年齢を過ぎても結婚していなかったりすると周囲の人々はそれをとても不思議がる。

あんなにカッコイイ男性なのに、なんで?あんなに綺麗な女性なのに、なんで?と。

そんな疑問を抱いている内はまだいいのだが、下世話な人間が相手だと

『あれだけ見た目が良いのに恋人(伴侶)がいないのは何か人間的に問題があるのでは』
『男(女)として欠陥があるのでは?』

と勝手に問題者認定される事がある。全く持って失礼な話だ。


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