異次元 | ナノ


異次元 
【理想郷】
 




辺りはすっかり暗闇に包まれた、夜の魏城。

魏の若き武将・鍾会の部屋には、未だに灯りが点いていた。

そこに居たのは部屋の主である鍾会と同じ魏の武将・司馬師に司馬昭の計三名。

共に名家の出身という事と有名武将を父に持つ二世武将という事、年齢が近いといういくつかの共通点もあり、司馬兄弟と鍾会・夏侯覇の四人は仕事以外の時間でも共に出掛けたり酒を飲んだりする事がある仲だった。

この日夏侯覇は遠征に行っていて不在だった為、仕事が早く終わった残りの三名は鍾会の部屋に集合し、酒を飲み交わしながら仕事の事や親の事・女性の話やシモネタトークなど男同士の会話に花を咲かせて息抜きをしていた所であった。

魏の誇る名将として普段は政治に、執務に、戦闘にと華々しい活躍を見せる彼らだが、そこはまだほんの10代・20代の若者達。

一旦仕事から離れて同年代だけで集まると途端に学級会のようなノリになり、年相応の若い男性らしい一面が顔を覗かせる。




「涙ながらに許しを請う女を無視し、穴という穴に注ぎ込まれる精液、アナルを強引に貫く肉棒、屈辱の強制連続顔射、公衆面前レイプ、禁断の近親相姦、美人姉妹のレズSEX、罪深き妊婦陵辱。鬼畜極まりない男達の調教に、汚れない処女や清楚な美少女・貞淑な美人妻の恥辱に塗れた悲鳴と喘ぎ声が一晩中こだまする……」

何やらカタログのような冊子を真剣な目で見つめながら、司馬昭が長い指でページをパラパラとめくっている。

紙面に視線を走らせる司馬昭の口から出てくる言葉は、美男子との誉れも高い彼の美しい容姿にはおよそ似つかわしくない過激で卑猥な単語ばかり。

そんなモロ語の数々を美しい顔立ちに加えて男らしく低い美声で淡々と語る司馬昭の姿は、まるでギリシャ神話の凛々しい男神が下品なワードを連発しているような何とも言えない違和感を見る者に抱かせる。

「全11巻セットか…。くっそー、買うか迷うぜ!」

司馬昭は途中のページを開いたままで冊子を床に置くと、ハーッと深い溜息を漏らす。

どうやら彼が見ていた冊子は男性向けエロ本の特集で、彼が読み上げていたのはそこに書いてある『今月の売り上げ1位!!』の作品紹介文のようだ。

先程からそのページに視線が縫い止められている司馬昭を見るに、司馬昭はかなりその作品に興味をそそられているらしい。

「エロ本を買うのは別にいいんだけど、巻数多いと置き場所に困るんだよなあ。そろそろ空きスペースもなくなってきたし、いらねーやつを処分するしか……でもなあ〜」

買うか買うまいか迷っているのか、ブツブツと呟きながら腕を組んで考え込む司馬昭の横から、彼の説明を聞いていた司馬師の声が飛ぶ。

「面白そうな内容だな。昭、買え。ついでに買ったら見せろ」
「ええー!?別にいいですけど、見たかったら兄上も金払って下さいよ。兄だから沢山出してくれなんて事は言いませんが、せめて半分!」
「は?」

即座に交換条件を提示してきた弟を見やり、司馬師が不快そうに眉根を寄せる。

弟の司馬昭と同様、父親譲りの端整な美貌。他者を圧倒する支配者のオーラ。

冷たい台詞と共に弟を射抜く司馬師の瞳には、容赦のない強い光が煌めいている。

「つい先月、人の部屋から勝手に買ったばかりの薬物図鑑を持ち出した上に一日でなくした奴が何を言うか。お前に金を要求する権利はない」

しっとりと低く、男の色香に満ちた司馬師の声は女心をたちまち蕩かすような甘さを備えているが、その声を生み出す当の本人の性格と言えば甘さなど微塵も感じられないクールさだ。

「う…、あれは、その…どこに置いたか忘れちまったと言いますか、気が付いたらなくなっていたと言いますか…。てか、俺その件についてはもう謝りましたよね!?散々謝罪しましたし!だったらもういいじゃないですか〜、俺達同じ血を引いた兄弟でしょう!?」
「都合のいい時だけ兄弟愛を唱えるな。大体、普通の本じゃないんだぞ。二度と手に入らない初回限定本だったというにも関わらず、お前ときたら…!」

感情に訴える司馬昭を理詰めで追い詰める司馬師の図。自由気ままな弟に冷静な兄という典型的なパターンだ。

「兄上は記憶力が良すぎなんですよ〜」
「やかましい」

部屋の主の存在を気にも留めず、彼らは鍾会といる時でも気ままに言い合いを始める自由人達だ。

その光景だけ見ていると、どこにでもあるごく普通の兄弟喧嘩のようにも感じられ、一瞬ほのぼのとした空気まで感じそうになる。

会話の中身は、ほのぼのとは遙かに程遠い内容なのだが。

「なあ鍾会、お前はどう思う?」
「え?どうって?」

いきなり自分に話を振られ、鍾会は面食らう。

何について意見を求められているのか咄嗟に判断する事が出来ずに鍾会が戸惑っていると、司馬昭がカタログを手にして例のページを鍾会に見せつける。

「や、だからコレだって。11巻セットでこの内容、この値段。俺的には結構いいと思うし、買って損はないと思うんだけど。ぶっちゃけ、内容だけじゃなく絵柄も好みだし」

そう告げる司馬昭の目線の先には、出る所は出て引っ込む所は引っ込んだダイナマイトボディーの若い美女が複数の男達に犯され、歓喜の表情で喘ぎ、体中汁塗れになっている絵が何点も掲載されていた。

胸が強調された巨乳系の体型に、清純そうなロリロリ美少女フェイス。

こんな感じの女性絵を使ったエロ作品が、彼のお好みなのだろうか。

「別に…。興味ありません」

鍾会は短く言い捨てると、カタログからフイッと顔を反らす。

その冷たい反応に、司馬昭はいささかムッとした口調で鍾会に詰め寄る。

「何だよ鍾会。人が聞いてるのにその態度は!」
「他人の好みに私が口を挟む必要はないと思いましたので。司馬昭殿が気に入っているのなら、買えばいいと思いますよ」

司馬昭に責められた鍾会はどこ吹く風とばかり、司馬昭の方にカタログを押し返しながらあっけからかんとした口調で言い放つ。


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