異次元 【理想郷】 『鍾会』 『鍾会』 『鍾会』 私の名を呼ぶ時の貴女の声。何度聞いても心地良い声だといつも思う。 貴女が私に優しく微笑む度に、焦るくらいに深みにはまっていく。 貴女が私という人間を受け入れ、認めてくれて、包み込んでくれる度に世界はバラ色に変わる。 そしてその直後、私は深い絶望を味わう。 貴女がどうあっても私一人だけの物でないという事を実感した途端、私の世界は暗黒に包まれるのだ。 名無し。どうして貴女は私の物じゃないのだろう。 どうして貴女の視線は、貴女の声は、貴女の心は私だけに向けられていないのだろう。貴女の愛は、どうして他の人間にも容易く与えられるのだろう? そんな事をずっとひたすらに、真剣に考え続けている内に、私は貴女の気持ちが分からなくなっていた。それと同時に、自分の中で何かが欠けていくのを感じた。 貴女と過ごした記憶。そして貴女の存在は、私にとっての理想郷≠セ。 だから私は貴女の愛を確実に手に入れ、揺るぎない物にしたい。 そう。何をしても、どんな手段を取っても、私にとっての理想郷の構築を完成させる。 私の中にある、ファンタジー≠実現させるんだ。 地位と名声。仕事と貴女。どれかを選び、どれかを代わりに諦める事が出来るほど、私はそこまで無欲でも純情な男でもない。 名無し。こんなにも貴女だけを求める私のように、貴女には私がいればいい。 他の人間なんか必要ない。他の男なんて映さなくていい。貴女に関わろうとする私以外の存在は、全部まとめて消え失せればいい。 私はずっと前から貴女を見ていた。ずっと前から好きだった。 だから名無し、これからは私だけの物になってくれ。私が貴女を見るのと同じように、貴女も私を見てくれ。 ────私だけを見てくれ。 ─鍾会夢・【理想郷】 [TOP] ×
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