SS 【Lady killer】 ……。 ……。 ……これだけ『他の男にしとけ』って俺が言ってやってんのに……。 名無しちゃんも変わった女だよねえ。 いいよ、分かった。そこまで俺の事を愛してくれているならリクエストがあるんだ。 俺が無類の甘い物好きだってのは知っての通りだよね。じゃあさ、俺の為に全世界中のチョコレートを集めてよ。今日中に。 俺甘い物好きだからさ、チョコの1個や2個じゃ全然足りないんだよね。 色んな味の食べ比べとかしてみたいし、今すぐ買ってきてくんない? ねー、名無し、買ってきて。今すぐ食べたい。 とりあえず1時間以内にチョコ100種類とか用意してよ。買ってきてったら買ってきて!! ────そんな無茶な事出来ない? へーそうなんだ。 本当に俺の事好きだったら何でも出来ると思うけど、名無しはそんな程度の事も出来ないんだ。 ふーん…。そうなんだ。よくそんなんで俺の事『愛してる』とか言えるね。 口で好きだとか愛してるとか言うだけなら誰でも簡単に出来るんだよ。 だからこうして試してんだよ俺に対する名無しの本気度を。 随分薄っぺらいね、オマエの愛って。 ダッセー。 ……。 ……。 ……あっれえ〜。なんだよ名無し。目が赤えぞ。ひょっとしてオマエ、泣いてんの?(ニヤニヤ) はあ?何が違うんだよ。ウソつけよ。明らかに両目が濡れてんじゃん。鼻も赤いし。 チェッ。泣けば済むと思って。これだから困るんだよなあ、女は。 ああ、動くな。動くなってば…。 そんなに慌てて目元をこするなよ。オマエの瞳が傷付いたらどうすんだ。 ああもうしょうがねえなあ。手ぇどかせ。俺が拭いてやるから、じっとして……。 な、だから言っただろ?俺に関わるとロクな事がないって。だって俺、女を泣かせるのが得意な男だもん。 ん……?なに?珠稀さんの意地悪!!ってか? ふふっ。よく言うよ。そこが好きなんでしょう? 名無しちゃんは俺のそういうところに惚れたクセに。珠稀様は何でもお見通しで〜す(笑) 俺、別にウソ付いたり君を騙した訳じゃないじゃんね。 いつも包み隠さず全力で意地悪しまくってるじゃん。意地悪して泣かせまくってるじゃんね。いい加減俺の対処法学べよ、名無し(笑) ん……、そうだよね。分かってる。そんなお願いは無理だよね。 大体名無しちゃんにはそんな大金ないもん。時間もないし。俺?俺でも無理だって。ハハハ。 んーでもそうなると名無しちゃんが俺への愛を証明する方法はなくなっちゃったなあ。やっぱり君に俺を落とすのは無理、ってことで。 いい加減、諦めたら? ……え。 他の方法で頑張ります、どうか他のお願いを言って下さいって? ……これだけ酷い事言われてんのに。 ホント物好きだねえ。オマエ。 ここまでいくと、マジですげーわ。 んー…、じゃあさ、すんげーすんげー難しい事を言ってもいい?それがもし出来なきゃ即アウトって事にしてもいい? ホントにいいの?後悔しない? 後から『出来ません』『やっぱり他の物にして下さい』なんて言われても聞かねーよ? そうだね。俺の次なる要求は……。 ……俺の為に毎年チョコ持ってきてよ、名無し。 毎年欠かさずだよ、名無し。雨の日だろうが雪が降ろうが、俺の事忘れちゃ嫌だ。 来年も再来年も、これからずっと2月14日は俺の為にチョコレートを持ってきて。名無しの本命チョコ持ってきて。 1回でも忘れた時点で即終了。他の男に鞍替えした時点で即終了。 俺、誤魔化されないよ。一日でも遅れたら許さないから。14日の0時を超えて15日に日付が変わった時点でアウトだから。ちゃんと時間見てるからね! 何でそこまでって…。そりゃ、待ってる身だもん。時間くらい見てますよーだ。名無しがズルしないようにチェックしてるんで〜す。 な……、なんだよその顔。 鳩が豆鉄砲食らったような顔してさ。俺が名無しちゃんのチョコ待ってちゃダメなの? ……なんだよ名無し。ジロジロ見んなよ……。 名無しちゃんって、たまに遠慮のない目線送ってくんだよな。 やめろって。恥ずかしいだろ!? ……!! あーもう、急に抱きつくなってば!ビックリしたっ。つーか、泣くな!俺なんも怒ってねえだろうが! うん。今は怒ってないよ。ヨシヨシ。泣くなってば……。 でも来年チョコ忘れたら怒るからね。忘れるどころか、他の男とかに渡してる現場を見たらぶっ飛ばすから。覚えとけよ名無し。 俺は見ての通りワガママな男だから、1回や2回チョコ貰うだけじゃ我慢出来ない。納得出来ない。 だから名無し、毎年必ず持ってきて。 今年も来年も再来年も、ずっと変わらずに珠稀さんの事が好きですって言って。それが真実だって事を証明して。 俺が死ぬまでの間、一度たりとも欠かさずにそれをやり通したら、そこで初めて俺への愛を信じてやってもいい。 ……お。私絶対やります、頑張ります!!って?嬉しいねえ。 随分やる気満々だけど、俺の言葉最後までちゃんと聞いてた?名無しちゃん。 最後の部分、『やってもいい』って言っただけだよ。 名無しちゃんがそこまで絶えず努力し続けたとしても、100%信じてやるなんて一言も言ってないけど。 ハハハ。またカーッて赤くなった。やーい、単純っ。引っかかってやんの〜! 珠稀さんはヒドイ男?おお〜、嬉しいねえ。俺にとっちゃそれは褒め言葉だよ。ハハハッ。 でも実はそんな事ないと思うけどなあ。いつもあれこれ色んな事ばっかり言ってるけど、こう見えて俺って、純情よ。 ふふふ。そんなの絶対に信じられません!!って? いい反応だなあ、それ。そうそう、簡単に男の言葉を信じちゃダメなんだよ。 俺との付き合いでちょっとは勉強したみたいだね。いいじゃん名無し。その意気、その意気(笑) まあ……。いいよ。俺が他人の事簡単に信じられないように、名無しちゃんも俺の事そう簡単には信じられないだろうからさ。 俺が本当はどういう人間なのかを理解して貰うには相当長い年月が必要だと思うけど、君さえやる気ならこれからの人生、精々頑張ってみなよ。 え。本当の俺?だからさっきも言ったじゃん。俺はそんなヒドイ男じゃない、こう見えて実は純情ですって。 騙されない?ハハハ。酷いなあ。そんなのその時にならなきゃ分からないじゃんね。 あーはいはい、分かったよ名無し。さっき俺が意地悪したからヘソ曲げてんだろ?子供みたいにスネなさんな。 ハイハイ、愛してるよハニー。 怒らないでくれよハニー。オマエだけだよハニー。 ……とかなんとか言っときゃ満足なんだろ?ハニー(笑) え。珠稀さんはいつだって軽すぎる?そんな事ないよ。読み取れないかなあ、この一見軽口に見える台詞に隠された切ない男心が。 チャラくて頭軽そうで下半身ユルユルの男を演じるのもこれでいて結構疲れるモンなんだよね〜、実際。 他の女にはなんて思われてもいいけどさ、本当に好きな子に信用されないのはさすがの俺でも悲しくて泣いちゃうな〜。 ────いやいや、だからマジだって。ウソだと思うなら試してみなよ。 一回騙されてみなよ、俺に(笑) ─END─ →後書き [TOP] ×
|