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【凌統クンの憂鬱α】
 




「なんでだよ。俺が何を想像したのか、陸遜に分かるとでも言うのかい!?」
「あなたのように分かりやすい思考の持ち主が考える事くらい、大体は読めますよ。エロ本大好きっ子の凌統殿の事ですから、どうせそれ系雑誌にありそうな『お姉ちゃんと一緒にお風呂』だの『妹の身体検査』だのその手の妄想で頭が一杯だったのではないですか?」
「ううっ…、近い!限りなく近い!!なんで俺の心がそんなに高い精度で読み取れるんだよっ。アンタは超能力者か!!」

己の脳内妄想があっさりと見抜かれてしまった事に、凌統が慌てふためく。

「素直に認めてやるのも腹立たしいですが、顔面だけは素晴らしく整っている凌統殿だといいますのにさっきまでは本気でだらしなく緩みきった顔付きをしていましたよ。鼻の下が伸びまくって床に届きそうなくらいでした。ぶっちゃけキモイです」
「褒めてるつもりなのかどうだか知らないけど、顔面『だけ』とかキモイとか大きなお世話だよっ。つーか、鼻の下が床に届きそうなくらいってそれ完全に顔面崩壊してるだろ。どういう素材で出来てんだよ。俺はスライムか!」
「人外かどうかまでは分かりませんが、とりあえずさっきの顔は完全にアウトでしたよ。モテ男的に」
「そ、そうか…。あっぶねー!さっきの鼻の下伸び伸びアウト顔、俺の可愛い名無しタンに見られなくて良かった!!」

陸遜の鋭い指摘で我に返ったのか、両手でパンッと軽く自分の頬を叩く凌統はまるで手品の如く普段通りの美男子顔を復元させた。

同性という安心感があるのか、陸遜の前ではこんな風にして本性を丸出しにしている凌統だが、他の女性達や名無しの前では爽やかぶった好青年を演じるという偽装工作をしているのが同じ男として妙に苛立たしい。

とは言っても、そういう自分自身も人前では真面目で誠実な美少年を好演しているという事実があるので、そこを突いてしまうと自分にも跳ね返ってくる手前陸遜は何も言えないのだが。

しかし、職場の同僚をこんなにも爛れた視線で見ている野獣をこのまま野放しにしておいて本当にいいのだろうか。


部屋に入って来た時からエロ妄想+顔面崩壊+野獣変化まで含めて、名無しに全部目撃されればいいのに!!


……と、陸遜はこの時本気で思った。


「それにしても、いくらなんでも女姉妹に夢見すぎじゃないですか」

呆れたようなしかめっ面から一転、自分もまた普段通りの眩い美少年顔を整えながら、冷静な口調で陸遜が言う。

「ただのデブでブスのくせして年が上だというだけでやたら威張り腐っている面倒な姉とか、妹なんだから甘やかして貰って当然、みんな自分の言う事を聞いてくれて当然と思い込んでいるクソ生意気な上に顔面凶器みたいな愚妹がいたら一体どうされるのですか?」
「俺も大概夢見がちだったかもしれないけど、アンタも逆に女姉妹に厳しすぎないかい?陸遜。夢も希望もない発言じゃん!」
「3つや4つの幼子ならまだしも、この年になって童貞も卒業した上でそれでもまだ女性に対して妙なロマンを抱いているとしたらそっちの方が問題有りだと思います。先輩に対してこのような質問をするのはいささか心苦しいものがありますが、凌統殿……頭大丈夫ですか?」
「うっわー、心苦しいとか絶対嘘だろ。この17才、先輩に対して露骨に生意気な口を利いてやがる!」

他人向けの穏やかで優しげな声音はどこへやら、お愛想皆無の声でズバズバと切り込んでくる陸遜に対し、凌統は大げさなほどに悲しそうな顔を作りながらハァ〜ッと溜息を漏らす。

「ああ〜、ヤダヤダ。これだから若き天才ってやつは。男はいくつになってもピュアな少年の心を忘れちゃだめだよ、陸遜!」

やれやれといった素振りでしれっと調子のいい発言をする凌統に、陸遜はいい加減無双乱舞をブチかましてやりたい衝動に駆られる。


いやいやいや!!あんたのどこがピュアな少年だよ!!


さっきのは完全にあっち系の妄想に突入してたじゃん!!純情違う!!Mr.ヨコシマじゃん!!


「それでは皆さん、お聴き下さい。今週のランキング第3位・陸伯言で『汚れちまった悲しみに』」
「汚れているのはあなたの方だと思いますので、凌統殿が歌って下さい。というか、どんな歌なんですかそれ?」

双方共に薄ら笑いを浮かべながら下らないやりとりをしていても、イイ男はイイ男。

女性陣が見たらそんな風にして『はぁっ…』と溜息を零してしまいそうなくらいに色男然とした凌統と陸遜。

だが、同性に対しては互いに毛ほどの興味もない為に本性を取り繕う必要性もなく、周囲の目がない場所ではこうしてチクチクと陰険な会話の応酬を繰り広げていた。

「───あ。俺、今ふと思ったんだけど」
「どうせまた聞く価値もないほどの下らない内容だと思いますが、一応聞くだけ聞いてあげましょう。何ですか」
「考えてみたら姉名無しタンと同級生名無しタン、妹名無しタンの3人から毎日ご奉仕されまくる性活って最高だよね〜」
「……何だか漢字が微妙に違うような気がするのですが……」
「ああー、でもな〜っ。色んなタイプの子猫ちゃんが楽しめるのはいいんだけど、毎日3人の相手とかだとさすがの俺も体が持たないっての!何だかんだ言いつつ、それはそれで嬉しいけどっ!!」

何やら想像したようにデレデレ〜ッと目尻を下げながらキャッキャと大はしゃぎする凌統を、冷めた目付きで陸遜が見つめる。


酒場のエロオヤジのようにニヤけた口元と危ない目元。この顔、完全にアウト!!


(やはりこの男を野放しにするのはまずいですね)


名無しに被害が及ぶ前に、この危険人物を国外に追放しなくては。


ダメだこいつ……早く何とかしないと!!


「凌統殿」
「ん?」
「もう何度申し上げたのか分かりませんが、やっぱり一回死んで下さい」
「わははは!またまたぁ。陸遜ったら面白いご冗談をー!!」




─END─
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