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【凌統クンの憂鬱α】
 




「ええー!?アンケート結果に文句をブー垂れながら、かくいう凌統殿自身もバッチリ名無しに投票していたとかとんだ愚か者ではないですか!自分で自分の首を絞めている事に気付かないとか!!バカですねー、カバですねー!!」
「だーっ、うるさいっ!大体なあ、陸遜は俺に対して言いたい事言い過ぎなんだよっ。名無しの前では爽やかそうな好青年ぶっているくせに…。もっと年上を敬えよ!」
「周瑜殿や呂蒙殿のような素晴らしい人物であれば先輩として心の底から尊敬しますが、凌統殿のように節操無しの下半身持ちは尊敬出来ません。ついでにここまで凌統殿の話にお付き合いした手間賃として、このアンケート結果私が頂いてもよろしいですか?」
「ちょっ…、なにどさくさに紛れて人の戦利品を奪おうとしてんの!先輩の相談事を聞いて手間賃取る後輩とか最悪だよこの子は!!」

さりげない素振りで結果報告書を自分の机の引き出しにしまい込もうとする陸遜の動きを察知して、凌統が彼の手から素早く用紙をもぎ取った。

しかし、これで話は終わりかと思いきや、凌統はせっかく奪い返した用紙を再び机に置いて陸遜の前に提示する。

「……しかもさあ、子猫ちゃんの困った所はそれだけじゃないんだよねー……」

見る者を惑わせる魔性の如き瞳を悩ましげに揺らめかせながら、凌統が二度目の溜息を吐く。

「ここと、ここ。それとこれ!」

長い指でタンタンタン、とリズミカルに紙面を叩いていくつかの項目を指し示す凌統。

彼の指が動いた場所を陸遜が目で追ってみると、そこにはまたしてもよく知る女性の名前が載っていた。


自分のお姉さんにしたい人。俺の姉<宴塔Lング第4位、名無し。


同じく自分の妹にしたい人。俺の妹<宴塔Lング第5位、名無し。


そして自分の同級生にいたら嬉しい人。俺の同級生<宴塔Lング第8位────名無し。


「これ、本当ですか…!?だとしたら相当やばいですよ、凌統殿!」

驚いた様子で口元に手を添えながら、陸遜が大きく両目を見開く。

陸遜の言うやばい≠フ意味を理解している凌統は、彼の言葉に同意を示すようにして困惑気味の表情のまま頷いた。

大抵の場合、人はその人自身の顔立ちや服装、言葉遣いなどの総合的な雰囲気から何らかの属性を持つ事が多く、また、それを好む層も分かれるケースが多いものだ。

例えば陸遜のような美少年には同世代や年下以外にも年上のお姉様方のファンが多かったり、凌統のようなプレイボーイ系のお色気男子にはそういう雰囲気に弱い女性ファンが多かったり。

甘寧のようにガタイが良くてオラオラ俺様タイプにはそういう男性が好きな女性が、周瑜のようなフェミニスト系の綺麗なお兄さんタイプにはその手の男性が好きな女性が…、という感じに。

それなので、ごく普通の感覚で想像してみるならば、世の男性から『お姉さんにしたい』と思われる女性はいかにも大人っぽくてしっかりした雰囲気を持つ女性が当てはまり、それ系女性が好きな男性の支持が集まりやすいと思われる。

逆に『妹にしたい』人気が高い女性であれば年下っぽくて少々頼りない感じの雰囲気を持つ女性が選ばれ、それ系女性が好きな男性が投票するようなイメージがある。

ついでに『同級生にしたい』タイプでいうのなら、それらしいのはとっつきやすくて親しみを感じやすいタイプ…とでもいった感じであろうか。

だが、この結果を見る限り名無しはその全てにまんべんなくランクインしているようで、幅広い好み≠フ男性達の支持を勝ち取っていた。


嫁にしたい。

お姉さんにしたい。

妹にしたい。

同級生にしたい。


あいつ、どんだけ色んな属性を持っているんだ。複合属性にもほどがある。萌え市場を席巻するハイパー女子か!!


「いやだああああああ!!こんな結果が世間に晒されてしまったら、俺の可愛い子猫ちゃんに悪い虫がうじゃうじゃと寄ってくる事にー!!」

両手で顔を覆い、首をブンブンと左右に振りながら凌統が嘆く。

(すでに悪い虫が一匹ついている気がするのですが)

ていうか、何なんですかそのイヤイヤをするようなカワイ子ブリッ子した仕草は?

そんな凌統を冷たい眼差しでジトーッと見つめながら、陸遜は一人心の中だけで毒づいた。

突っ込んでやりたい気持ちもあるが、ここで余計な口を挟むとまた面倒な口論に発展するような気もしたので、あえて本人には伝えずにおいてやる。


凌統殿。芸人が押すなよ!絶対押すなよ!≠ニ言う時のように私の突っ込み待ちだとしたら非常に申し訳ないのですが、現時点でもう最強最悪の悪い虫が名無しにくっついていますよ。


あなたですよ。あ・な・た!!


「……っていうか、名無しが俺の姉貴とか妹なんてマジ勘弁して欲しいっつうの」

形の良い凌統の唇から熱い吐息混じりに漏れるのは、女心を一撃で打ち砕く、成熟した男性の色気を備えた低音のセクシーボイス。

しかし、どこからどう見ても360度隙のないイケメンぶりを発揮する凌統の脳内では、美しい容姿からは想像も付かないピンクな妄想が渦巻いていた。


〜名無しが俺の姉の場合〜

優しげな微笑みを浮かべた全裸の名無しが、前をタオルで隠しただけのあられもない姿で俺を呼んでいる。

『公積、久しぶりにお姉ちゃんと一緒にお風呂に入らない?ふふっ、何恥ずかしがっているの?小さい頃は毎日一緒に入っていたじゃない。私達姉弟でしょ、今更気にする事ないよ!ほら、お姉ちゃんもう脱いじゃった。公積も脱ごっ!それで、二人でお互いの体を洗いっこしよ!……ねっ?』


〜名無しが俺の妹の場合〜

両目一杯涙を溜めた名無しが自分の手でギュッと胸元を押さえながら、切なげな表情を滲ませて俺を見上げている。

『お兄ちゃん。私…全然胸が大きくならないの。友達はみんな私より大きいのに、自分だけ小さいままなんて悔しいよ…。それでね、友達の中で一番胸の大きい子にどうしたらいいのか聞いてみたら、男の人に揉んで貰えば大きくなるんだって!でもそんな事、恥ずかしくて他の男の人にお願い出来ないよ……。ねえ…、お兄ちゃん。お願いします。私の胸、お兄ちゃんの手で一杯モミモミしてくれる……?』


〜※以下自主規制〜


「ああっ…。やばい…マジでやばい!!名無しが俺の姉貴や妹だったら、俺危ない世界にはまっちまいそう…っ!!」
「男兄弟による暴行罪もしくは強姦未遂で訴えますよ、凌統殿」

陸遜の存在をすっかり忘れ果て、一人で勝手に禁断の18禁妄想ワールドに浸りながらうっとりと呟く凌統に、陸遜がすかさず釘を刺す。


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