バン君がもし灰原ユウヤのお目付役だったら(ユウ←バン)
「交代だ。灰原ユウヤ…現在バイタル、異常行動無し。引き続き経過観察を頼む」
「…わかった」
長い前髪が特徴の監視員からの申し送りにバンは静かに頷いた
山野バンの役目は灰原ユウヤという少年の監視・観察をすることだった
この研究所に灰原ユウヤを人間扱いする者は殆どいない
彼はいわばモルモット
とある組織の権力者の指示により、ユウヤは危険性の高い研究の実験台という存在なのだ
その実験は未だ安全性が確立しておらず、被験者の生命も危ぶまれるというハイリスクなものである
バンも彼のことを不憫に思っていた
しかし、彼を救い出すだけの力がバンにはない
それでも、バンはユウヤの心の支えになってやりたいと考えていた
バンは他の監視員とは違い、ユウヤを自分達と何ら変わらない人間だと思っているからだ
「ユウヤ…入るよ?」
プシュー…
ユウヤの部屋の自動性の扉が開く音とともに、バンは入室した
部屋の奥のベッドに小さくなって座っているユウヤの様子を確認し、バンはほっとする
(良かった…暴れてないみたい)
CCMスーツの実験が本格的に始まってから、ユウヤは肉体の負担はおろか精神的にも不安定になりがちだった
その為拘束具を使用することもしょっちゅうだった為、バンは心配だったのだ
ユウヤは黒く濁った瞳をただただバンに向けていた
虚ろな瞳はただ物を映し出しているだけのようで、バンを認識しているかも定かではない
「気分悪くない?何か欲しいものとかある?」
「……」
「そうだよね…俺に言っても仕方ないよね」
バンが何を話しかけてもユウヤは何も言わずただじっとバンを硝子のような瞳に映すだけだ
それがバンには悲しかった
この状況を変えられる力の無い自分をユウヤが責めているように感じてしまうから
「…!?あ…、あ、あ…」
突如ユウヤが頭を抱えて苦しみ出した
(何時もの発作…!?)
ユウヤの様子にバンははっとした
CCMスーツの後遺症でユウヤは時々このような発作が起こる
実験により精神の奥深いレベルまで介入してしまっていることから起こるものだと言われているが、まだ詳細ははっきりしない
「ユウヤ!ユウヤしっかり!!…灰原ユウヤ発作確認!すぐに来て下さい…!」
慌ててユウヤに駆け寄り肩を揺さぶるバン
しかし、ユウヤは言葉にならない呻き声をあげて頭を振り乱すばかりだった
バンは近くに備え付けられた内線を用いて救援要請を求めた
暫くすれば担当の研究員が様子を見にきてくれるだろう
それまではユウヤには自分がついていてやらねば
バンは震えるユウヤの身体を抱きしめた
「あっ…ああ、あ…!」
「大丈夫…大丈夫だから」
幾度も大丈夫だと言い聞かせながら、安心させるようにトントンと優しく背中を叩いてやる
段々と震えがなくなってきたユウヤにバンは泣きたくなってきた
何故ユウヤはこんな苦しい思いをしなければならないのか
何故自分はユウヤをこの運命から救い出してやれないのか
(俺には…ユウヤを抱きしめてやることしか出来ないんだ)
バンは彼を抱きしめ直し、心の中で泣いた