翔は竜持の部屋にお邪魔していた。
部屋に通されて早々、クーラーの酷く冷えた室内に圧倒されたが、真夏の茹だるような暑さにやられていた翔はひんやりとしたその空間に生き返るような心地だった。
そう、最初の間だけは。
部屋で過ごしていくうちに段々と肌寒くなり、次第に夏では感じえないような凍りつきそうな冷気が翔の体を容赦なく襲う。
外の灼熱地獄によって吹き出していた汗が冷えて、翔の体温をがんがんと奪っていく。
このままでは体調を崩してしまいそうだ。
翔は恨めしげな顔で竜持の背中をみつめる。
先程から彼の視線はパソコンに釘付けだった。
サッカーの理論、真理と竜持は翔には預かり知れない独自の思考を持っている。
それ故に彼がデータ処理の為、恋人である自分をそっちのけに作業に没頭することに関しては翔は慣れっこだったのだ。
翔のここに来た理由だって某有名海外プロサッカーチームの試合のDVDを大きな画面で鑑賞するためだ。(勿論彼に会いに来たというのもあるが)
翔は竜持が自分に対して冷たい態度をとることが不満なわけではない。
この部屋のクーラーの冷たい風が不満なのだ。
今まで我慢してきた苛立ちを抑えきれず、翔は竜持の背中に語りかける。
「ねえ…竜持くん」
「どうしました、翔クン」
「クーラーの温度あげようよ…寒いよ」
翔のほうを振り向かずパソコンに視線を向けたまま生返事を返す竜持に多少ムっとしたが、ここで怒っても仕方ないと思い翔は泣く泣く竜持に懇願した。
しかし竜持の返答はノーだった。
「ダーメです、機械は熱に弱いんです…壊れやすくなってしまいますから」
このままだとぼくの体が壊れちゃうよ!
翔はそう叫びたかったが、竜持があまりにも己の発言は正当であるといった態度をとるので、とてもじゃないが言い返せなかった。
(ううぅ…寒い)
翔は己の体を抱き締めて震えた。
この部屋で自分は凍えて死んでしまうのではないか?という妄想に囚われるくらいには翔の身体は限界に近づいていた。
突然黙りこくった翔の異変に気がついたのか竜持はやっと翔のほうを振り返った。
そして徐に翔に対して手招きをする。
「翔クン、こっちに来てください」
「…な、なに?」
パソコンのある机に備え付けてあった椅子に座っている竜持のもとに翔はふらふらと向かっていく。
翔が目の前に来た途端、竜持は彼の腕を思いっきり自分のほうに引いた。
「わあぁ!?」
当然、翔は竜持の方に倒れこむことになる。
竜持の胸元に顔を押し付ける形になった翔は驚きのあまり上擦った声で竜持に抗議した。
「りゅ…りゅ、りゅうじくん!?」
「こうしていれば寒くないでしょう?」
にっこりと華のある微笑を翔に向けた竜持はぎゅっと翔の腰に回した腕に力をこめた。
「ぼくがきみを暖めてあげますよ」
大事な翔クンが風邪をひいてしまっては困りますから
「なら、最初からやってよ…!もう…」
そういって悪戯っぽくウィンクする竜持に対して翔はふて腐れながらも頬を赤らめ竜持の腕に大人しく抱かれた
そんな翔を竜持はにこにこと愉快そうに眺めるばかりだった。