離れたくない
お前とずっとこうしていたい
朝なんかこなきゃいいのに
いっそ、このまま
鴉を殺して
(チッ…もう朝かよ…)
閉じた瞼に朝の光が否が応にも差し込む
凰壮は微睡みながらも睡眠から脱した
覚醒しない脳を叱咤しながらゆっくりと瞳を開く
そして、目に飛び込んで来た状況を確認した瞬間一気に目が覚めた
(………翔!?)
凰壮の目の前には無防備に寝こける翔の姿があった
まだ寝ぼけて上手く働かない脳味噌を必死でフル回転させる
思考を張り巡らせた結果、昨夜の出来事を思い出す
その瞬間凰壮の顔面は朱をちらしたように赤くなった
(そうだ…おれ…翔と)
「ヤっちまった…」
自らそう呟いたくせに…自分の発言に動揺した凰壮は慌てて左手で口を抑える
本当は両手で頭を抱えてしまいたい状況だったが右腕は翔の頭の下、月並みな言葉で言えば腕枕
その為自由がきかない…道理で右腕が重い訳だ
重いのは腕だけじゃない、すごく気が重い
自分のエゴで何も知らなかった翔を傷つけたかもしれない
確かに翔と凰壮はただの友人では片付けられない只ならぬ付き合いをしていたけれど、純情な翔は健全な愛情表現しか知らない
しかし、凰壮にはそれが我慢出来なかった
体格の良い凰壮は周りの同年代の少年よりも二次性徴が進んでいた
性的な欲求も勿論また然りで
凰壮の部屋に泊まりにきた翔
自分に無防備な笑顔をみせる翔が愛おしくて
愛おしくて、耐えられなかった
カッとなって半ば衝動で事に及んでしまったことを後悔するとともに激しい自己嫌悪に襲われ、翔の顔をまともにみれない
その行為自体を翔はよくわかっていなかったと思う、凰壮でさえ知識のみだった行為だ
翔には失礼だが、サッカーにしか興味の無い彼が知るわけがない
(ごめんな…翔)
凰壮は翔の見た目によらずさらさらした髪をなで上げ、その広い額に口づける
くすぐったかったのか、身をよじらせ凰壮の胸に猫のようにすり寄る翔の愛らしいしぐさにまたも身体が火照ってきた
(くそっ…人の気もしらねぇで)
自分が劣情を抱かれているのが翔にはわからないのか
凰壮の性欲の対象になっているのがわからないのか
わからないからこそ、こんなにものうのうと自分の前で寝こけてられるのだ
昨夜自分にとんでもないことをした人間の隣で熟睡して頬擦りをして甘える翔
凰壮は不安になる
翔が起きたとき、自分にどんな反応をするんだろうと
酷いと軽蔑の目を向けられるのだろうか
嫌われて顔も見たくないなどと言われるのだろうか
そんなことを言われたら凰壮は平静を保っていられない
また翔を傷つけてしまうかもしれない
凰壮は無邪気な翔の寝顔を悶々と見つめることしか出来ない
(どうしろってんだよ…畜生)
「ん…んぅ」
その時、翔の小さな唇からか細い声が発せられた
(…起きた、のか?)
凰壮の身体が強張る
恐れているのだ、翔に拒絶されることに
だが、翔の行動は違った
「おうぞうくん…すきぃ…」
譫言のように唇を動かし、凰壮に向かってなのか、ふにゃりとした笑顔を向けた翔
寝ぼけていたのだろうか、翔は再び眠りの世界に旅立ってしまった
(なっ…!)
また一人取り残された凰壮は金魚のようにぱくぱくと口を開閉し驚愕を露わにしていた
翔はまだ夢の世界の住人だった
つまりは翔の夢に凰壮が出演していたかもしれない
そして極めつけはあの満面の笑顔にあの発言だ
凰壮はにやける口元を抑えることが出来ない
(ふっ…はは…ば、ばかやろっ…本当にこいつは…)
翔は無自覚にも凰壮を安心させてくれる、満たしてくれる
凰壮は翔が愛しくて愛しくて仕方がなくなった
「……おれもだよ、おれもお前が好きだ…翔」
心地よさそうに寝息をたてる翔に微笑みかけた凰壮はもう一度、翔の広い額に恭しくキスを送った