※銀カプネタバレ注意!
















「眠れないのか」

「………だって虎太くんがあんなこと言うから…」

「…そうか」

下宿先のホテルの一室
おれと翔は同室だった

隣で寝付けないのか寝返りをうったりするシーツの布すれの音が耳に入り思わず呟いてしまった

おれのせいで眠れない、というのはおそらく深夜2時にホテルを抜け出して来た石畳の話のせいだろう

元処刑場と言う話は本当で、以前本で読んだことがある

それが深夜の暗闇と相俟って、翔にも恐怖を植え付けたのだろう

ただでさえ深夜のサッカーでたぎったアドレナリンのせいで寝直すどころではないのに、さきほどの背筋の凍るような話

感受性の高い翔には耐えられないのも無理はない

「こっち…来るか?」

おれは今何を言った?

同年代の男に『一緒に寝よう』なんて正気の沙汰ではない

でも相手が翔だと考えると不思議と嫌悪感は湧かなかった

むしろ一人震えながら横になる翔を可哀想に思い、安心させてやりたくなった

「いいの…?」

「…ああ」

おずおずと問いかける翔に簡単な返事をする

するとゴソゴソとシーツがすれる音とギシギシとベッドがきしむ音

翔が起き上がったのだろう

その音を聞いて、おれはおかしな高揚感を覚えた

翔が、くる、おれのそばに

胸がひどくざわつく、なんだこの感情は

月明かりが遮られる

暗闇でもわかる、翔がおれの目の前に来たことが

「虎太くん…おじゃまします」

ギシッ…

簡素な作りのベッドが二人分の重みを受けてきしむ

翔がおれの布団に入ってきた

「えへへ…虎太くんのベッドあったかいね」

翔がおれと向かい合って寝転がれば、近距離に翔の顔

頬に熱が集まってくるのがわかる、しかし幸いにもこの暗闇のおかげで翔に伝わることは免れるだろう

「あっ…!」

「どうした?」

突然短く叫んだ翔に訝しげに問いかける

翔は少しきまりが悪そうにぽつぽつと応えた

「まくら…忘れちゃって」

おれは翔のベッドに視線を向ける

翔の言うとおり枕は、向かいのベッドの方に鎮座していた

「ごめんちょっと取りにいくね」

そう言っておれのベッドから抜け出そうとする翔

翔の温もりがおれの元を離れていこうとする

だめだ、行かせたくない

おれは翔の腕をひいて止めた

「虎太くん…?」

「行くな…」

きょとんとした顔の翔に熱っぽい視線を向ける

心細かったのはどっちだったろうか

翔を離したくなくて

翔にずっと此処にいてほしくて

そのまま腕をひいて、翔を自分の胸に閉じ込めた

おれの胸元にすっぽり埋まってしまうこいつは本当に同い年なんだろうか

「虎太くん!?ど、どうしたの…!」

「此処にいろ…」

一度感じてしまった翔の温もりをこのままずと感じていたい

もう離したくない、離さない

翔が、好きだ

溢れ出る感情を抑えられなくて、翔をさっきよりもぎゅっと抱きしめる

翔もおずおずと小さな腕を俺の背中に回してくれた

「おやすみなさい…虎太くん」

「ああ、おやすみ、翔」

夜明けが近づいていく
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