泣かないで?





人気のないシーカー本部に続く廊下

山野バンは父、山野淳一郎への連絡を繰り返し試みていた

プルルルル…プルルルル

虚しく響き渡る、発信音

何度電話をかけようがバンの耳が拾うのは優しい父の声ではなく、それしかなかった

バンは思い詰めた表情で溜め息をついた

「やっぱり出ない…」

愛しい父の声を聞くことは、やはりかなわないのか

父の声が聞きたい、父のあたたかい声で直接『大丈夫だよ』という言葉を聞きたい

父の安否を自身で確認しない限りバンの不安は消えなかった

−−父さん…

「ったく、また山野博士に電話してんのか」

「コブラ…」

現れたのはバンの父山野淳一郎の助手と名乗る男、コブラ

早々にディテクターとの交戦を予測した淳一郎に申しつかってバンやヒロに近づいたという彼

バンの周りで現在の淳一郎の様子を知るものは勿論彼だけだった

「…言ったろ?山野博士はディテクターと交戦する準備をしてるから連絡はできねーってよ」

「…そうだけど」

「それとも、まだ俺の言ってる事が信用できねえか?宇崎の旦那みてぇにさ」

拗ねたようにおどけてみせるコブラにバンは慌てて首を振って訂正する

「違うよ!コブラはエルシオンを持ってきてくれた!でも…」

「?」

「父さんが…心配なんだ」

切なそうな顔でバンはそう呟いた

その様子にコブラは疑問に思った

何故バンはこんなに思いつめた顔をしているのか

肉親である山野博士が心配なのはわかるが、ここまで切羽詰まった顔をするのだろうか

些か引っかかったコブラだが、いつも通りの飄々とした態度を崩さなかった

「ハハッ、なんだなんだ?お前も案外甘えたちゃんなんだなあ…パパが恋しくなったのか?」

茶化すようにバンの頭を軽く撫でながら歯を見せて笑うコブラ
しかしバンの様子が俯いたまま固まっていることを察してその笑みは凍りついた

「…おい、……茶化して悪かったな…」

余裕のない声で詫びを入れるコブラにバンは反応しない

それに慌てたコブラは屈んでバンの顔を覗きこんだ

コブラは、驚いた

バンの大きな瞳からは涙が今にも零れ落ちそうだったからだ

「本当に悪かった!!親父さんを恋しがるお前さんがなんだ…その、可愛いくてな…つい、からかいすぎちまった」

慌てて平謝りをするコブラの言葉はバンに届いているのだろうか

感極まったという様子のバンの涙が頬を伝い落ちた

「、…ッ〜…」

声を押し殺して静かにただ涙を流すバン

その雫の伝い落ちる美しさにコブラは一瞬、惚けたようにみとれた

しかし、すぐに我にかえったコブラはバンを手繰り寄せるように抱きしめた

「ああぁ〜!!もう!泣くな泣くな!!!」

乱暴にバンの頭をわしゃわしゃとかきまぜる

「コブ…ラ?」

コブラの急な行動にバンはコブラの顔を真っ赤になった眼で見つめる

「泣いちまう程親父さんが心配なのはわかったから…大丈夫だって、山野博士はそんなにヤワじゃねえ…バンだって博士のガキなんだからわかるだろ?」

なっ?

コブラはバンにゆっくりと言って聞かせるように話し、今度は先よりも優しく頭を撫ぜた

バンはコブラの温かさを感じされるがままになっていた

嫌ではなかったのだ

コブラに父のような広い包容力を感じたのだ

(父さん…)



父を思う息子の涙

美しい家族愛に他者の割って入る隙間などはない

しかし、今だけはこの世界の運命という重荷を背負った子供を支える存在であれば

コブラはそう願った
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