夢みたい
憧れのあの人があたしの目の前にいる
あたしに笑いかけてくれるその笑顔が眩しくて
嘘みたい
でも綺麗な鳶色の瞳は確かにあたしを映しているんだ
『焦がれる』
山野バン達の秘密基地とやらについてきたあたし
まだ状況はよくわかんないけど、あたしの格闘センスが認められたことは嬉しいし、一緒にいるヒロという子も面白いやつなので楽しめそうだなって思う
特にあの山野バンとお近づきになれたことはすごく嬉しい
去年のアルテミスの試合を見てファンになってからあたしは山野バンが大好きになった
でも所詮彼はテレビの中の人雑誌の中の人で…あたしは彼を間接的に応援することしか出来なかった
こんなにも彼のことが好きなのに、あたしは一方的に彼を見つめることしかできないなんて
焦れったいなと思った
彼に会いたい、会ってLBXのこととか話したい
何よりあの綺麗な鳶色の瞳にあたしを映して欲しい
山野バンに、会いたい
こんな夢みたいなこと妄想するなんて…ばかだなあたしって
そう思ってた
でも今は…それが現実になってるんだよね
あたしの目の前には本物の山野バンが存在してるんだ
山野バンの味方だという怪しいサングラスの男と話す彼を盗み見る
触ったらふわふわしてそうな茶色い髪
透き通るような白い肌
しなやかで細い身体のライン
そして凛々しくて意思の強そうな瞳があたしを惹きつける
ああ、この人はなんて強くて綺麗なんだろう
あたしは彼を恍惚と呆けるように眺めていた
だから気付けなかった
「ねえ、ねえ!……大丈夫?」
「…っ!!」
山野バンがあたしの目の前に立っていたことに
そんな…格闘技によって気配をよむ力を培ってきたこのあたしが目の前に人が立っていることにすら気付かないだなんて…こんなことおじいちゃんに知られたら怒られちゃう
あたしったら、よっぽど山野バンに見とれてたんだな
気配に気付けなかった悔しさよりも、心配そうな彼の表情がやっぱり素敵だなんて
あたしの頭は本当に山野バンでいっぱいだったんだなって笑っちゃう
「ご、ごめんなさい!あたし…!」
慌てて頭を下げて謝る
頭を下げたのは真っ赤なあたしの顔を見られたくなかったってのもある
焦って取り乱してる所を憧れの人に見られるのはちょっと恥ずかしい
「さっきからずっとぼーっとしてたみたいだけど…大丈夫?」
少し屈んであたしの顔を覗きこんでくる山野バンにどきっとする
彼の大きな瞳が上目遣いで向けられる
その事実にあたしは目眩がした
「う、うん!大丈夫だよ!!あたしってば元気だけが取り柄だし…!!」」
これ以上あたしのことで彼に不安そうな顔をさせたくない
いつもどおり振る舞おうとするけど…声が少し裏返っちゃったかな?
「そう…?顔も赤いし…もしかして熱があるんじゃ」
山野バンの掌があたしの額に触れてきた
その柔らかい指の感触にあたしの体温はより上がった気がした
「んー…ちょっと熱いかなあ?」
興奮して上がった熱を病的なものと勘違いしてる山野バンは更にあたしに近づいてくる
うそ…!まさか額で熱を計ろうとしてるの!?
そう思うや否や、愛らしい彼の顔がもう目と鼻の先で
あたしは反射的にギュッと目をつぶった
その時
「バン、アミとカズについて新しい情報が入ったようだ」
白いスーツの宇崎って男が山野バンを呼んだ
男の見計らったかのようなタイミングの悪さに苛立ったけど、それは山野バンが一番気にかけている情報だから仕方ない
「本当ですか!?今いきます!…あ、ラン具合悪いなら無理しちゃ駄目だからね!」
そう言って男の方に駆け寄っていく彼をあたしは名残惜しげに見送った
彼が去った後でも尚、あたしの心臓はドクドクと煩わしげに鳴いている
(山野バン…)
あたしは彼を知ってから…これからも彼の背中を追いかけ続けるんだ
願わくば彼があたしを美しい鳶色の瞳に映す時間が多くなりますように
ずっとずっと
あたしは、あなたに
焦がれる