『代償として』




「待ちたまえ、明石タギル君」

明石タギルは、またデジクオーツにサゴモンをハントしに行こうと早々に屋上を去ろうとしていた

それにサゴモンに抱えられていた生徒も気になる

それなのに、後ろから最上リョウマが声をかけてきた為、それはかなわなかった

「なんだよっ!もう話は終わりだろっ!?俺は早くハントに行きたいんだっ!!」

タギルがこの場を離れたい理由はそれだけではなかった

一刻も早くリョウマのもとを去りたい、それもタギルの本音であった

まだリョウマと出会って間もないが、タギルは直感的に彼とは肌が合わないと感じていた

直情的なタギルにとって、リョウマみたいな周りくどい話し方をする気障なタイプは顔を突き合わせているだけでもイライラするのだ

そんなタギルの思いを知ってか知らずか

リョウマは人を食ったような笑みをうかべた

タギルを横目に両手を上にあげ馬鹿にするような仕草をする

「…やれやれ。君は少々おつむが足りないと見える」

「なっ…なんだとォ!」

自分が馬鹿にされていることがわかり沸点の低いタギルはすぐに逆上した

それを面白可笑しそうな眼で一瞥したリョウマは、楽しげに更に言葉を続けた

「能天気も良い所だね、私が君を無償で助けるとでも思ったのかい?」

タギルに近づき彼の耳元で唄うように囁くリョウマ

リョウマの端正な顔が近くに来ても、タギルは嫌悪感しか抱かなかった

リョウマから必死に後ずさろうにも後ろは、壁

タギルに逃げ道はなかった

「な、なんだよ!!こっち来んなよ!お前はこんな近づかないとしゃべれないワケ!?

「ハハッ…君の反応が面白くてつい、ね。鼻腔が広がって変な顔になってるよ」

タギルの顔を見てくつくつ笑うリョウマを見てタギルは腑が煮えくりかえりそうになった

(なんだコイツ…!マジで嫌な奴!!)

「ッ…そもそも俺は助けて欲しいなんて一言も言ってねえっつーの!」

第一サゴモンと戦っているガムドラモンが気掛かりでリョウマがいたことなんて気づかなかったのだが

タギルにとってはとんだ言いがかりである

「そうかい?なら君がサゴモンに傷めつけられるのを黙って観察している方が良かったかな?」

それもまた一興だね
愉快そうな笑顔で末恐ろしいことを言うリョウマにタギルは顔を青ざめることしか出来なかった

「…お前ホント悪趣味だな」

「誉め言葉として受け取っておくよ」

タギルが悪態をつこうが柳のようにひらひらと返すだけのリョウマ

こういう相手には喧嘩も売りようがないのか


タギルは苦虫を噛み潰したような顔でリョウマを睨みつけたのだった




「話しを戻すけど、君はギブアンドテイクって言葉を知ってるかい?」

「?…ぎ…ぎぶ…?」

首を傾げてリョウマの言った言葉を必死に反復しようとするタギルに、リョウマは柄にもなく吹き出しそうになる

(本当におつむが弱そうな奴だな…)

常に考えて、無駄のない行動を心がけているリョウマにとって考えなしに無鉄砲に行動するタギルは非常に特異で興味深い存在だった

自分とは全く真逆の存在

だからこそ、彼の一挙一同が気になって仕方ない

「…周りくどい言い方は通用しないようだね。君にも解るように話してあげよう。」

自分の起こしたアクションに対しての彼のレスポンスが知りたい

「…私は君を助けた見返りが欲しいのさ」

「見返り…?」

「そう、君は私に何をくれる?」

妖艶な笑みを浮かべタギルの顎を指でなぞるリョウマ

「…ヒッ!」

リョウマのひんやりした手の感触にタギルはぞっとした

「さ、さっきも言ったけど!俺はお前に助けてくれなんて言った覚えはねえっ!だから返すも何も!!」

あちらが勝手にしたことだ、自分が見返りを返す気などさらさら無い

それよりもいいからさっさと放して欲しい

それがタギルの主張だった

だが、タギルがそう言うのはリョウマの想定の範囲内だった

何を言われてもリョウマのしたい行為は一つだった

「へえ…それなら私が決めてあげるよ」

「はぁっ!?だから何も…っんぅ…!」

タギルの両肩を掴み、まだ話しをしている彼の唇を噛みつくように塞いだ

「む〜!…んんん〜っ!!!」

瞠目してぱっちり開いたままの瞳

タギルの色気の無い喘ぎ声を楽しみながら、リョウマは角度を変えつつ彼の唇の柔らかさを堪能する

「ふっ…う〜んんん〜!!」

タギルの瞳に涙が浮かぶ

唇をただつけただけの子供のするキスなのにタギルは鼻で息することも忘れていたのだ
普段は煩いくらいに騒がしい元気なタギルの涙

それに興奮したリョウマは更にタギルを虐めてみたくなったが、恐らくこれがファーストキスであろう彼が可哀想になってきた為、唇を離してやる

名残惜しげにタギルの唇を舐めることも忘れずに

「ひっ…ハア…ハア…な、なに…なんだよ今の…!?」

「わからないかい?キスだよ。…もしかして初めてだったのかい?」

この赤いのはリンゴです、と言うような口調でサラッと言ってのけたリョウマにタギルは呆然とするしかない

(き、キス…?俺とコイツがキス…キスぅ!?)

しかし、次第に状況を反芻していくと段々と込み上げる恥ずかしさ

ボンッ!

そんな音が聞こえる位、タギルは一瞬で茹で蛸のような真っ赤な顔になった

パクパクと金魚のように口を開き、震える手でリョウマを指差した

「〜ッおおおお前ー!!!さいっ…さいっ…」

「もう少し落ち着いて話をしたまえ、何を言っているのかわからないよ」

それを見かねたリョウマが半笑いで水を差す

タギルが満足に話せない状態をわかっていてやってる手前、彼は愉快犯だ「…おっおっおっお前なんかサイテーだあぁ〜!!!このヘンタイキザヤロオオオ〜!!!」

やっと声が復活したタギルは大声で叫んだ

その声は学校はおろか、学校周辺まで聞こえる程の声量だったかもしれない

だがそんなことは今のタギルには関係なかった

一刻も早くリョウマのもとを去る、それが最も優先だった

リョウマを突き飛ばし、屋上から出る扉まで一直線

タギルはほうほうの体で屋上から立ち去っていった

その後ろ姿をリョウマは面白そうに眺めていた

「フッ…からかいがいがあるね。…ハントの合間の良い余興になりそうだ」

私をもっと楽しませてくれよ、明石タギル

先程タギルと合わせた唇を舐めてリョウマはくつくつと笑った
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