※ジンバン♀




『とあるぼっちゃまの恋物語』










僕は今、物陰に隠れ、海道邸に入りこんだ不法侵入者とお祖父様の駆け引きを眺めていた

お祖父様に逆らう命知らずの人間達に興味はわかない

無謀だ、あのお祖父様に勝てるわけがないというのに

あの人間達がどうなろうが僕には関係無い

だが、僕にはどうしてもこの状況を見届けたい理由があった


そこには僕の想い人、山野バンがいるのだから

バン君はボーイッシュな外見をしているが、女の子だ

最初はお祖父様のご指示通り彼女の動向を監視するという名目で彼女を義務的に注視していた

しかしその後、僕の考えを変えるような出来事が起きた

アングラビシダスの決勝戦

ジ・エンペラーのCPUが原因とは言え、この時彼女は僕に勝った

その時から僕は彼女を意識し始めた

だが、今日のバトルを通じて僕の心は完全に彼女の虜になってしまった

僕に引けをとらないLBXの腕

そして父を助けたいという強い意思のこもった視線

その強さに僕は惹かれ心を奪われたんだ



そして今、お祖父様の顔を立ててこうして愛しのバン君を見守っているという訳だ

間違ってもストーカーをしてる訳ではない、決して

僕はバン君が心配なだけだ

お祖父様は一度こうと決めれば、手段を選ばない人だ

侵入者であるバン君に何をするかわからない(他の人間はどうなっても構わないが)

僕が見張っておかなくては

…嗚呼それにしてもバン君…やはり君は愛らしい…

栗色のふわふわした柔らかそうな髪

黒目がちの丸く大きな瞳

色白の綺麗な肌

彼女を好きと意識し始めてしまえば、その全てが魅力的で愛おしいと思えてしまう

しかし、バン君鑑賞を楽しむ僕にあらぬ邪魔が入る

…チッ、そこの黒服邪魔だな…バン君が良く見えないじゃないか!彼女らが逃げないように囲むように立つ黒服のせいで、バン君の姿が見えなくなってしまったのだ

体格の大きな黒服がバン君の前に立ってしまえば、小柄なバン君なんて簡単に隠れてしまう

此処で喚いても埒があかない

仕方ないので話の方に耳を傾ける

どうやらバン君のお父様でいらっしゃる山野博士がお祖父様を出し抜いているようだ

話を要約すると、プラチナカプセルの中にあるエターナルサイクラーの設計図は、データを解読する為のコードが必要らしい

お祖父様があの女性研究員を脅してスパイにしてたり、物騒なことをおっしゃってたのは少し引っかかったが、お祖父様には恩義があるので此処では言及しない

今はどう未来の義父となるであろう山野博士(と書いてお義父様と読む)にどうご挨拶しようかという方が僕にとっては重要だった

「なるほど…そういうことか…で?その解読コードは何処にある…?」

「………」

お祖父様が問いかけても、山野博士は何も答えない

当然だろう、山野博士は天才的科学者だ

自分のかけたプロテクトの情報を敵にみすみす渡すなんて馬鹿な真似はしないお祖父様もそう考えたのだろう

相手がただで情報を吐き出さないのならば、別の手段に移るまでだ

「答えて貰おう…娘がどうなっても構わないのかね!」

大切な者を人質にとる…その手段自体は容赦のないお祖父様ならやるであろう想像に難しくない方法だった

だが、その相手が悪かった

「うわぁ…っ!」

お祖父様の命令で黒服に羽交い締めにしたのは…僕の愛しのバン君だったのだから

悲鳴と共に必死に体を動かそうとするバン君だけど、力の強い黒服に左腕と胴体を抑えつけられ身動きがとれない

バン君のか細い腕や華奢な身体に、大きくて節ばった浅黒い男の手が触れる

その時僕の中で何かが切れた

(おのれ…!よくも僕のバン君を…!)

僕は怒りの衝動を抑えることが出来なかった

もう黙って傍観していられる訳がない

怒りに打ち震える手を叱咤し、僕はCCMを静かに起動させた

「その汚い手で僕のバン君にさわるなああああ!」

そう叫んだ僕は手元のCCMを巧みに操る

そして僕の愛機エンペラーM2をバン君を抑えつけた黒服へとけしかける「!!…ジ、ジン様!何をなさるのです」

すんでの所でよけられてしまったか…チッ…頭を狙ったのに

バン君を離し、突然の僕の攻撃に抗議する黒服を、僕は思いきり睨みつけた

エンペラーM2を操作して回収した僕はずんずんとバン君のいる方に歩いて行き、バン君を抱き締めた

僕には無い柔らかみのある身体がバン君が女性であることを改めて実感させた

「君はバン君が嫌がっているのがわからないのか!?こんなに震えて…

「ジン…俺大丈夫だけど…」

バン君が戸惑った顔をして僕を見上げている

くッ…困り顔の君もまた素敵だよ!

だがバン君を愛でるのは後だ

「お祖父様!僕のバン君をおとりに使うなんてあんまりです…!バン君の深雪のような綺麗な体が汚れてしまいます!」

「な、何を言っておるのだお前は…!」

流石のお祖父様も僕の急な言動に驚きを隠せないようだ

その他の人間も僕をおかしなものを見るような視線で見てくるのだが、僕は全く気にしなかった

僕には今の発言にこぼれ落ちそうな程目を見開いて驚いているバン君しか見えないのだから

「お祖父様!これ以上彼女に危害を加えるならお祖父様であっても許せません!僕は彼女のことを愛してるんです!」

「えええっ…!?」

僕の突然の告白に腕の中のバン君が鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして叫んだ

「おい…マジかよ」

「…海道ジンってこんなキャラだったかしら…?」

周りの外野もざわめく

だが僕にはそんなものは何の障害にはならなかった

今は、反抗など一切しなかったお祖父様に初めて牙を剥いているこの状況の方が恐ろしいと思う

侵入者異常に、命知らずなのは僕だ

でもバン君を守る為ならどんなことでも出来る…僕はそう思ったんだ

「ほぅ…ジンよ…この儂に刃向かうというのか?」

お祖父様の咎めるような低い声だが、僕は怯まなかった

「…はい、これ以上彼女に危害を加えるおつもりならば、お祖父様とも決別する覚悟です」

「ジン…!」

バン君を抱き締める手が震える

それに気づいたのかバン君が僕の名前を呼んでくれる

僕は大丈夫だ、君が側にいれば強くなれる

「見損なったぞ…ジン!いつの間に山野博士の娘に唆されたのだ…」

幻滅したと溜め息を吐いて僕から眼を反らすお祖父様

唯一の家族であるお祖父様が、僕のバン君への想いを認めてくださらないのは少し寂しい

だが僕は今の発言を撤回する気はなかった

その時

「…海道、私の愛娘の方から誑かしたような言い方をするな…」

今まで黙って僕達の話を聞いていた山野博士が、地を這うような声で話し出した

そういえば山野博士…お義父様にご挨拶をすることを忘れていたな

僕は名残惜しいがバン君を離し、山野博士の方まで歩いて行った

山野博士の前に立ち、深々とお辞儀をする

「お義父様、お初にお目にかかります。海道義光の孫のジンと申します」

「…君に父と呼ばれる筋合いはないが」

お義父様は無表情で僕を一瞥した

それにも関わらず、黒い負のオーラがお義父様から滲み出ているように見えるのは僕の錯覚だろうか

だが、僕は怯まない

この方に認めて頂かなければ、バン君と本当の意味で結ばれない気がするから

「いずれはそう呼ばせて頂くことになりますので」

「…何を考えてるのか知りたくもないが、娘は何処にもやらんぞ。せっかく出会えた最愛の娘を何処の馬の骨とも知らぬ男に任せられない」

「父さん…何言ってるの…?」

「バン、アルテミスで優勝しろ。アルテミスの優勝商品がプラチナカプセルの鍵となる」

「ちょっ…父さん!?」

「海道ジン君…それまでにバンを危険から守ることが出来れば先程の兼は考えてやらんことはない、ではさらばだ」

山野博士は眼鏡を外し、何か弄りはじめた

「山野博士!何をする気だ…くッ!」

不穏な空気を感じたお祖父様が山野博士に問いかけた時にはもう遅かった

チュドーン!!

突然の爆発音

なんと山野博士は、家中に爆弾を仕掛けていたようだ

流石僕の未来のお義父様…ずば抜けた科学的才能と行動力だ

関心してる場合じゃない…家が崩れてしまう

バン君の無事を確かめねば

「バン君!」

「…ジン!」

名前を呼ぶと屈んで白いものを手に持っていたバン君が振り返った

バン君は奪われたアキレスを取りに行っていたみたいだ

我が身よりも自分のLBXを優先してしまうのはバン君らしいが…

爆発の為瓦礫となった天井が崩れ落ちる危険が無くなったわけではない

その時、バン君の上の天井が崩れ落ちた

「バン君っ!!!」

僕はポケットからCCMを取り出し、すぐさまにエンペラーM2を起動させる

バン君の頭上に瓦礫の塊が降りかかる

くッ、間に合え!!

ガシャーン!!

「うわぁ!!……え?」エンペラーM2のランチャー攻撃が迅速に瓦礫を破壊した

エンペラーM2の攻撃は強力である為、跡形もなく木っ端微塵に瓦礫を砕くことが出来た

つまりバン君は…無事だ

「バン君!!…ああバン君…良かった!」

僕はバン君に駆け寄り、屈んで力一杯その華奢な身体を抱き締めた

バン君は何がおこったかまだ頭の中で整理できず数秒間呆けていたが、次第に身体が震え出した

そして泣きそうな声で僕の名前を呼んできた

「…ジン…俺、おれ…」

「うん、もう大丈夫だ…歩けるか?」

バン君の身体を支え立ち上がる

細い腰…ちゃんと食べてるのだろうか

「うん…ありがとう…ジンがいなかったらおれ、どうなってたか…」

バン君がおずおずと僕の肩に捕まって例を言った

「僕ももし君がどうにかなっていたらと思うと気が気じゃなかった…君を助けられて本当に良かった」

「ジン…」

そう言って僕が安堵した表情をみせれば、バン君も柔らかな表情を僕に向けて笑いかけてくれた

やはりバン君は笑顔が一番可愛いらしくて素敵だった


混乱に乗じてCCMを回収し、僕はバン君達と共に邸から抜け出した

煙りをあげる元いた屋敷を見上げて、ついお祖父様のことを心配してしまう

僕は不孝者だ

家族として育ててくれた人を捨て愛する人を選んでしまったのだから

グレースヒルズまで避難した僕達

バン君は未だ僕の肩を借りて立っていた

「ジン…本当にいいの?海道義光に反抗したりして…危険じゃない?」

「心配ない…それよりも君が無事で良かった」

最大級の笑顔で僕はバン君を見つめた

バン君はそれに照れたのか、丸みのある愛らしい頬を赤く染めて俯いた

「えっと、ジン…さっきの海道義光や父さんに言ったことって本当…?」

もじもじしながらちらちらと僕の顔を上目遣いで伺うバン君

勿論可愛いくない訳がない

僕は自然とにやけそうになる口元は抑えて、出来るだけ落ち着きを払うように努めた

「僕が嘘をつくような人間に見えるかい?…順番が逆になってしまってすまないが、僕の気持ちは本物だ」

僕はバン君の方に向き直り彼女の両肩を優しく掴んだ

そして真剣な顔でバン君の目を見詰めて、ゆっくり口を開いた

「好きだ、バン君…これからも僕と一緒にいてくれ」

此処で断られたら僕はどんな顔して生きていけば良いか

だが、そんな僕の心配も杞憂に終わった

「…うん」

「バン君!」

顔を真っ赤にして只こくりと頷くバン君を僕はぎゅっと抱き締めた

おずおずと背中に腕を回してくれるバン君のぬくもりを感じ、僕はしあわせを噛み締めるのだった


「今回の潜入って何だったのかしら…」

「…一つ言えることは新たなバカップルが一組誕生したってことじゃないか?」

バン君を抱き締めてる間外野からまた声が聞こえてきた

バカップルか…バン君とならそれも悪くない

今の僕にはバン君と心を通わせることが出来たことが全てなのだから








10000hitフリリク四番目はルル様リクエストのジンバン♀、ラブラブバカップル話(海道邸潜入、山野博士との再開シーンネタ)でした

ジン君がなんか気持ち悪いのとバン君のおにゃのこ設定があまり生かしきれてませんが…ルル様、こんなもので宜しければお納め下さいm(_ _)m

それでは素敵リクエスト有り難うございました!

それと、遅くなって申し訳ございませんでしたm(_ _)m

「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -