『宇崎社長といっしょ side,Y』(悠バン)
LBXが初めて生み出されたと言われる会社
それがタイニーオービット社(TO社)である
その中でも社長、宇崎悠介は実に多忙な人物である
TO社社長室
悠介は自分専用のデスクに向かい、淡々と山のような仕事をこなしていた
それだけであれば、熱心に自社の為に働く、まさに責任者の鑑である
しかし、傍から見て今の彼は異質だ
何故なら悠介は器用にも、一人の少年を膝の上に乗せたまま仕事を続けているからである
その少年の名前は山野バン
彼の父はこの社内の開発部で働いており、数々のLBXを生み出している
指図『博士』と呼ばれている程の研究者だ
LBXとそれを開発している父が大好きなバンは父に会いに良くTO社を訪れる
社内にこの少年がうろついているのはTO社の常識である
そして恐ろしいことに、TO社の社長と少年がデキてしまったこともまた、社内の常識になりつつあった
「あの、悠介さん…そろそろ降ろして?」
「……ああ」
バンは悠介の顔を伺いながら彼に呼びかける
だが、仕事に没頭している悠介はおざなりな返事を返すだけだ
変わらずPC画面に集中してキーボードにタイピングし続けている
全くたいした集中力である
(もう…これで10回目なんだけど)
バンは悠介にばれないようにこっそり溜め息をついた
前述したようにバンは今、悠介の膝の上に乗せられている
その状況が何と小一時間以上経過しようとしているのだ
好きな人と一緒にいられるのは嬉しいが、窮屈なことには変わりない
そろそろ降りたい
バンは何度となくそう思ったし、何度も悠介に頼んだ
だが、悠介が首を縦に振ることはなかった
バンの両側には悠介の腕が檻のように塞がっており、逃げられないのだ
だからと言って、下手に暴れて悠介の仕事のミスを誘発したくない
バンは悠介の膝上で途方にくれるしかなかったのだった
何故こういうことになってしまったのか
それは約一時間前に遡る
TO社、代表取締役である悠介は社の代表責任者たる執務をこなしていた
ウィンと開く自動扉とともに、一人の少年が入ってきた
「悠介さん、こんにちは!」
その姿を目にした途端、悠介の固かった表情は和らいだ
「ああ。こんにちはバン」
「お邪魔します」
バンはペコリとお辞儀をして社長室に入ってきた
その手には、珈琲カップの乗った盆
「すまないな、君が持ってきてくれたのか…霧野君はどうしたんだ」
お茶汲みを一応客である少年にやらせてしまった事を悪く思った悠介は軽く頭を下げた
それをみたバンは笑顔で首を横に振った
「紗枝さんにお願いしたんだ。俺が持っていってもいいかなって」
「そうか…有り難う」
「ううん、俺がやりたかったことだし、気にしないで」
そう言って向日葵が咲き誇るような笑みを見せるバン
悠介は彼が愛しくて仕方ないと思った
「バン…盆を此方のデスクに置いてくれるか」
「うん、わかったよ」
目の前の自身のデスクを示す悠介にバンは頷いて、悠介に近づいた
「ここでいい?」
広々としたデスクの隅、仕事の邪魔にならない場所に珈琲の乗った盆を置く
バンが盆を置いたことを確認した悠介
「ああ、上出来だ…っ」
腕を伸ばせば届く距離にいたバンの細腰を掴む
「!?」
驚いてたじろぐバンを悠介
は思いっきり持ち上げた」
「うわっ…!!」
そしてそのままバンを自分の膝上に着地させた
「悠介さん!?いきなり何っ」
「君にもっと触れたくてね、つい手が動いてしまった」
「もう…先に言ってよね!俺びっくりしたんだから!」
ぷりぷり怒るバンに悠介は悪かった、と平謝りしながらも、バンの愛らしさを目の当たりにして笑顔を崩すことはなかった
「それで…山野バン君は本日如何様で我が社に?また山野博士に会いに来たのかな?」
わざとらしくからかうような口振りで膝に乗ったバンに語りかける悠介
バンは唇をつんと立て、悠介を睨みつけた
「…言わないとわかってくれないの?」
「フッ…すまんが、わからないな」
君から言ってくれると嬉しいのだが
そう言ってわざとらしく含み笑いをする悠介にバンは彼の意図することを理解し、羞恥で頬を赤くした
「っ…悠介さんのいじわるっ…そんなの…悠介さんに会いに来たに決まってるじゃん…」
悠介の胸元に顔をうずめ、恥じらいながらぎゅっと彼のスーツを掴むバン
(これは…しばらく手放せそうにないな)
悠介はバンの細腰に自分の腕をより深く絡ませるのであった
「今日中に終わらせないといけない案件があってね、悪いがしばらく仕事に集中させてもらうよ」
「えっ…?じゃあ俺邪魔じゃ…っ」
バンは慌てて悠介の膝から降りようと身じろぐが、悠介の左腕がバンの身体を固定している為、それはかなわなかった
「悠介さんっ!?」
困惑した表情で悠介の方を振り向いたバンに、悠介は余裕の笑みを浮かべて答えた
「君がいた方が私は捗るんだが…駄目かな」
「だ、駄目じゃないけど…」
大好きな人にその様に言われてしまえば、きっぱり断れるバンではなかった
「なら、大人しくここで待っていてくれるね。暫く構ってやれないが、仕事が一段落したら外に出よう」
「うん…わかったよ」
「よし、良い子だ」
バンの髪にキスを一つ落とし、悠介は自分の仕事に戻ってしまったのだった
そして冒頭に至る
以前状況が変わらず、やきもきしてるバンを後目に、悠介はモニターに釘付けだ
バンがどんなに話しかけても生返事だけで、此方を見ようともしないのだ
このままでは拉致があかない
バンは服のポケットからCCMを取り出した
CCMを開きメール画面にして、手早くメッセージを打ち込む
『例えばの話なんだけど、恋人が別のことに集中してて、構って欲しい時どうする?』
上記の内容のメッセージをバンはすぐさま指定の宛先を探す
その宛先とは、一番付き合いの長い友人にして、バンのお姉さん的存在である人物『川村アミ』である
(アミなら、この状況を変えるアイデアを出してくれるかも…!)
バンは藁にすがる思いで送信ボタンを押した
程なくしてアミからメールの返信が届く
(来た…!)
バンは喜び勇んで、CCMを開いた
そして、書かれていたメールの内容を確認した瞬間思わずバンの目から鱗が落ちた
『そうね…その集中を自分の方に向けさせるようにするとかよね
素直に甘えればいいんじゃないかしら?
バン大丈夫?…何か変な物でも食べたの?』
(それだ!)
『有り難うアミ!』
変な心配をしているアミに上記の内容のみ返信した後、バンはアミのアドバイスを実行にうつそうと試みた
バンは悠介の肩をつかみ、彼と向かい合わせになるようになった
そのまま膝立ちになり悠介に覆い被さるように身を乗りだす
当然視界がバン一色になってしまった悠介は自分の目線より高い所にあるバンの顔を怪訝そうに見上げた
「どうしたんだ、バン…積極的な君が見られるのは嬉しいが、このままでは仕事が続けられないのだが」
「だって何回も『降ろして』って言ってるのに悠介さん聞いてくれないんだもん!」
喚くバンに、悠介は少し俯いて表情に影を落とした
「…君はそんなに離れたい程私の事が嫌いか?」
「バンに嫌われたら生きていけない」とでも言うような悠介の顔
「そ、そんなことは言ってないよ!!」
急に落ち込んだ悠介にバンは慌ててフォローを入れた
だが、その直後バンは焦った自分を後悔した
「なら良いじゃないか、私は君が此処に居てくれて嬉しいよ」
あっさり明るい表情に戻った悠介
バンは乗せられたのだ、悠介に
(これじゃ怒るに怒れないじゃないか…!)
冷静さに事かいたバンに残された行動は『やけくそになる』しかなかった
「悠介さん!これ以上降ろさないなら俺本当に仕事の邪魔しちゃうよ?いいの!?」
「ほう…一体どんな邪魔をしてくれるんだ?」
にやにやとバンを面白そうに見上げる悠介に、バンの何かが音をたてて切れた
「ッ…こうするのっ!」
チュ…ッ!
バンはおもむろに悠介の唇を奪った
最初は唇をくっつけるだけの簡単なものだったが、舌で悠介の唇を舐めあげたり、唇を舌を使い割って、入り込み深く繋がろうとした
「んっ…ふぅ…むうぅ」
クチュ…ピチャ…
触れるような軽いものならまだしも、バンからこれ程の深いキスを仕掛けたことは初めてだった
悠介にいつもされているそれを思い出しながら、バンは何度も彼の唇を求めた
降りられないもどかしさもあったが、悠介の近くにいるのに無視され続けたこともバンには堪えたらしい
自ら慣れないキスを仕掛ける程バンは無意識に悠介を求めていたようだ
「んっ…あ、はぁ…はぁ…」
息苦しさに耐えきれなかったか、バンの方から唇を離す
唾液に濡れた舌を晒し、口角から唾液を垂らして喘ぐバン
何故かキスを仕掛けたバンの方が息が上がっていた
「ハァ…ねっ?俺、邪魔でしょ…?いい加減降ろしてっ…!」
頬を紅潮させて息を荒げたバンは、悠介に噛みつくようにまくしたてた
唇を唾液でてらつかせ、キスの余韻で瞳を潤ませている
悲しいかな、バンは気づかない
バンの一挙手一投足が悠介を助長させていることに
「ああ…仕事の邪魔だな」
「…?」
「お陰で君のことしか考えられなくなってしまったよ」
そう言って悠介はバンの手首を掴んだ
そしてそのままバンの手を己の股関部分に持っていった
「ヒッ…!」
バンの手に、確実に堅くなり熱を孕んだソレが首をもたげ始めているのが伝わってくる
その感触にバンは小さな悲鳴をあげた
「この責任…とってくれるね?」
普段は正義漢であるはずの悠介の不穏な笑みがバンに向けられる
「え…?えっと…ゆ、悠介さん?ちょっと待っ…うわああああ!」
悠介に横抱きで担ぎ上げられたバンは、機嫌のよさそうな彼とともに、社長室に備えつけられた部屋の中にそのまま消えていった
コンコン…ガチャ
「社長…ハァ…これは暫く戻って来ないわね」
紗枝が社長室に入って来た
実は社長の仕事の進行状況、なかなか戻って来ないバンの様子を見に暫く前から扉の前で待機していたのだった
(社長とバン君…最初は驚いたけど…慣れって怖いわね)
同性ではないか?
社長とあの少年では歳が離れすぎていて犯罪ではないか?
初めはこの二人は色々な意味で大丈夫かと心配していた紗枝だったが、幸せそうな二人の様子に、今ではこっそり応援していたりする
そして、紗枝はバンと恋仲になった後の上司をより尊敬するようになった
その理由とは
「…あの状況で仕事は抜かりなくやっているのは流石といった所ね…」
バンとイチャついていても滞りなく終わっている仕事の出来である
PCに正確にまとめあげられた文章を確認して、紗枝は感嘆の声をあげるのだった