『海道君の恋人』ジンバンパラレル
「バン君…これはどういうことだい…?」
「それはこっちが聞きたいよ〜!」
『海道君の恋人』
時刻はPM10時
今日はバン君が僕の部屋に遊びに来ている
こんな夜中に彼がいるのは、今日はそれだけじゃないからだ
本日彼は、僕の家に泊まることになっている
僕のベッドの上
パーカーにスウェットというラフな服装で、Lマガを横になって読むバン君をちらちら眺めつつ、愛機ジ・エンペラーのメンテナンスを続ける僕
正直メンテナンスに集中出来ていない
僕の全意識は無防備に僕のベッドを占拠するバン君に向かっているのだ
僕達は一応恋人同士になった
だが恋人になってからそれ程の時がたっていない為恋人らしいことは特にしていない
精々手を繋いだり抱き合ったりしたぐらいだ
だが僕はそれだけでは満足出来なくなっていた
もっとバン君に触れたいバン君を愛したい
でも僕が無理強いをしてバン君を恐がらせてしまわないか…それが気がかりでなかなか行動に踏み出せずにいた
だからこそ今日の泊まり会を機に彼とゆっくりじっくり親睦を深めんと僕は心中いきり立っていたのだ
好機を伺う為バン君を見る
僕は唖然とした
バン君はLマガを枕に…寝ていた
数分前までは起きていたはずなのに
Lマガを下敷きにうつぶせで寝息を立てているバン君に思わず溜め息が零れる
もう夜も更けていたし仕方ないな
僕が機を待ちすぎたんだ…決して踏み出す勇気がなかったわけではない、決して
僕はメンテナンスを中断しバン君のもとへ向かう
寝苦しそうなのでバン君の身体を横向きにずらしてあげた
すぴすぴと寝息をたてるバン君の可愛らしさに思わず笑みが零れる
心地良さそうな彼の寝顔を見ていると此方も眠気を誘われた
僕はバン君の隣に横になり、彼をそっと抱き締めながら自然と目を閉じた
チュン…チュン…チチチ
「ジン!ねえジン起きて!起きてよ!!」
「うん…?」
僕は耳元で聞こえるバン君の声で目覚めた
僕はバン君の隣で眠ってしまったらしい
辺りはすっかり明るくなり雀の鳴き声までする
「ん、どうしたんだい…バン君」
慌てた声を出す隣にいるはずのバン君を僕は見よう
とした
だがバン君は見当たらない
…おかしいな先程耳元でバン君の叫び声が聞こえたのに
「ジン!こっちだよ!手の方」
慌てて自分の手の方を向く
そこにはLBX大の大きさになったバン君がいた
☆sideバン
「ん、んぅ…」
ん…朝…?
目をあけると見慣れない天井が俺の視界に広がった
えっ、此処何処?俺の部屋じゃないよ?
なんと天井には…シャンデリア!?
あ、そっか!
昨日はジンの家にお泊まりしたんだよね
俺ベッドでLマガ読んでて、そのまま寝ちゃったんだ
…ジンには悪いことしたな
「う、うぅ〜ん…」
俺は身体を起こして大きく伸びをした
まだ眠たい目をこすって、瞼を開けた時ある異変に気づく
…あれ?ベッドってこんなに大きかったっけ
いくらジンの家のベッドが俺の家の二倍以上あるとはいえ、先端部分が全く見えない広さなのはちょっとおかしくない?
目の…錯覚だよね
俺まだ寝ぼけてるんだよ…早く起きなきゃ
そう考えて振り返った時俺は凍りついた
そこにはジンがいた
いやそれは良いんだけど…此処はジンの家なんだし
そうじゃない
俺の目の前には巨大になったジンが静かに寝息をたてて横たわっていた
俺の何十倍以上もの大きさになったジン
お…俺まだ夢見てるのかな…?
そう考えて自分の頬を思いっきりつねってみた、痛い
どうしよう…夢じゃないよこれ…!
混乱した俺は立ち上がりベッドから降りようとした
「うわっ…!」
その時何かにつまづいて転んだ
えっ…服?
それは俺が昨日まで着ていた服だった
ジン同様これも大きくなっていて俺は毛布のようにそれにくるまれていた
じゃあ俺いま裸…!?
服に包まれた状態だったので寒くなかったから全然気づかなかったけど俺自身は何も着ていなかった
やっぱり…変だ
裸になった自分
昨日着ていた服に包まれている自分
そして、俺はある考えにたどり着いた
…もしかして俺が小さくなっちゃったの?
それを前提に周りを見渡すとベッドやジンの大きさも、服に裸で包まれていることも納得できる
それにしても裸はイヤだよね…
自分が縮んだ為、服を着れていないことを思いだす
…流石にこのままでは恥ずかしいし…あ!
俺は上着のポケットにハンカチを入れていたことを思い出した
布の海をかきわけポケットを探す
やっとそれらしい穴を見つけ潜りこめば今の俺にとってシーツ大の布を発見した
ハンカチだ、俺はそれで身体を包み込んで仮の衣装にした
よし!とにかくまずはジンを起こさなきゃ!
ひとまず俺は隣で寝ているジンを起こすことにした
「君は…バン君だよね?」
「そうだよ!俺だよ!わかってよジン!」
わーわーと僕の掌の前で必死に騒ぎたてる掌サイズのバン君
信じられないな…昨日まで僕と似たような背丈だったバン君がまるで…
LBXと同じ大きさになっているとは
海道君の恋人2
「いつからこうなったんだい?…それにその格好は…」
「朝起きたらこうなってたんだ。でも服は大きなままで…もうこの身体じゃ着れないんだ」
今のバン君の服装はLBXのプリントされたハンカチで身をくるんだだけの姿だった
小さくなる前のバン君の服はベッドに転がっていた為、今は綺麗に畳んで隅に置いてある
つまりハンカチがなかったらバン君は全裸というわけだ
もし今の格好で活発に動いたら…際どいかもしれない
「そうか…代わりの服は後で用意しないとね」
そうしなければ僕の理性が辛い
否、今のバン君をどうこうしようとは考えていないが
「…それより、今後どうするかだ」
「…どうするか?」
「君はその状態で家に帰れるのかい」
「母さん絶対吃驚するだろうな…」
自宅にいるお母様が自分を心配するのが心苦しいのだろう
バン君は不安そうな顔をしていた
確かに急に自分の息子がLBXサイズになったらお母様はどう思うだろうか
僕は幼少の頃に両親を亡くしている為上手いことは言えないけど、きっとすごく心配するに違いない
あのお母様は決して弱くはないと思うが、流石にこれは晴天の霹靂だろう
それよりもバン君の今後を考えなくては
そう僕が思案にふけると、少々間の抜けた音が僕の耳に入ってくる
くきゅるるる〜
それは可愛いらしい腹の虫の音
僕ではない、それならその腹の虫の主は一人しかいなかった
「バン君…お腹が…すいていたのかい?」
「えへへ…ごめん」
バン君は頭をかきながら、ばつが悪そうにペロリと舌を出した
愛らしい仕草が小さくなったことで更に可愛いらしさを増している気がする
僕は心中で悶えながらも、ベッドから立ち上がった
「待ってて、今何か食べ物を持ってくるよ」
そう言って僕は洋棚に向かい、右手にある棚からクッキーを取り出した
じいやが紅茶のお茶請けにと備え付けて
いるものの一つだ
まだ瓶に沢山入っているそれを数枚取り出し、皿にのせて近くのアンティークテーブルに置いた
そしてバン君のいるベッドの方に戻る
「バン君、ベッドの上で食事はなんだから場所をかえよう。さあ、僕の手にのって」
「うん、有り難うジン」
バン君はてくてくと僕の掌の上にのって来た
バン君がのったことを確認して、僕は先程のテーブルの方に歩いていった
そして、ゆっくりバン君を机の上に下ろした
「今はこれ位しか出せないけど、もうじきじいやが朝食を持ってきてくれるだろう…それまでこれで我慢してくれ」
「充分すぎるよ!何から何まで有り難う!」
喜びながら礼を言ったバン君はクッキーの皿迄ちょこちょこ歩いて飛び乗った
バン君はそのまま両腕でクッキーを掴もうとしたけど、今のバン君にとってクッキーは余りに大きすぎるかもしれない
「あれ?んしょ…んしょ」
一生懸命持ち上げようとしてもバン君にとってはかなりの重量だ
見かねた僕は助け舟を出すことにした
「貸して」
「あ、ごめん」
クッキーをバン君の持ちやすい大きさに割ってやる
「はい、どうぞ」
割ったクッキーをバン君に差し出す
「ありがとう!
元気良くお礼を言ってくれたバン君は両手でそれを受け取った
「ジン、美味いよこのクッキー!」
だが、それでも欠片が大きかったか
両手でクッキーの欠片を持ち小さな口で少しずつ欠片をかじっていくバン君はさながら小動物のようだった
食べかすを口いっぱいにつけて懸命に食べている様子がとても可愛いらしい
僕はそんなバン君に無意識に見とれていた
「?ジンどうしたの?ジンもそんなに食べたいなら食べればいいのに…」
固まってしまった僕を、バン君は首を傾げて眺めるばかりだった