ぶかぶか
日が登り始めた早朝のこと
バンはとある部屋のベッドで微睡んでいた
朝の日差しが部屋に差し込み、容赦なくバンの閉じた瞼にも降りかかってくる
バンは日差しから逃れようと寝返りをうった
(眩しいっ…もう朝なの…?)
バンは心中で悪態をつきながら、出来るだけ光を遮るようにうつぶせになり、そのまま枕に顔をうずめた
バンはどちらかと言うと寝汚い方だ
家では目覚まし時計はベッドの近くではなく、少し離れた勉強机の方にセットしてある
その理由は、目覚まし時計を止めた後、睡魔に負けてまた二度寝してしまう可能性があるからだ
もう少し惰眠を貪っていたい
生憎目覚まし時計はまだ鳴ってはいない
(もう一度寝よう…何だかすごく身体が重いし)
そう考え、もう一度眠りにつこうとするバン
しかし、身体の倦怠感と共に下半身に違和感を覚え、これではとても寝付けない
特に腰部と下腹部の鈍痛が酷く、意識すればする程寝ぼけたバンを覚醒に近づけていった
(もう…何でこんなに痛いんだ!!)
昨日自分は何か変な物でも食べただろうか
そんな見当違いのことを考えているうちに、徐々に昨日の記憶が呼び起こされる
(そういえば…昨日はレックスと…)
その時、バンは全てを思い出した
「うわああああ!!!」
バンは慌ててベッドから飛びあがった
「いたっ!」
しかし、いきなり身体を起こしたせいで、下半身に負担がかかり腰部の痛みが更に増す
軋む腰を庇い撫でさする
おまけに人には恥ずかしくて言えないような箇所がヒリヒリと痛むのだ
(ッ…この痛みはやっぱり昨日のせいなのかな…)
バンは痛みに顔を歪めるも、その頬は朱が散ったように赤くなっていた
☆
昨晩
バンはレックスこと檜山蓮と一緒にいた
ただ一緒にいた訳ではない
バンは彼に抱かれ一夜を共に過ごしたのだ
檜山とバンは内緒の恋人同士だった
二人は同性であり、しかも一回り以上の年齢差もある
世間的に堂々としていられる関係ではないことは二人とも承知の上だった
それでも二人は共ありたいと願っていた
バンを呼び出し、バンにLBXの特訓をつけた後、檜山が自宅にバンを招くことも、バンがCCMで母に友達の家に泊まるとだけ連絡を入れて彼について行くことも必然だったのだ
普段ならその後、檜山宅にお邪魔したバンが友人の家宜しく、普通にお泊まりしていくのが常だった
しかし、今日は何時もとは違った
バンが彼の自宅の玄関に入った途端、檜山が後ろから急に抱きしめてきたのだから
「レックス…どうしたの?」
いきなり力強い腕で抱擁された驚きを隠せず、バンは少し震えた声で問いかける
檜山は強張るバンの身体を感じてくつくつ笑いながら、彼の耳元で低く囁いた
「すまんな、バン。俺も我慢の限界のようだ」
「えっ…?」
「本当はお前がもう少し大きくなるまで待ってやるつもりだったんだがな…思ったより俺は耐え性の無い男らしい」
いや、相手がお前だからか?
そう一人ごちる檜山の話がバンには全く見えなかった
バンは檜山の顔を伺おうと首だけで振り返った
「ねえ、レックス…一体何のはな…んぅっ!」
その瞬間、檜山の顔が早急に近づき、バンの唇に噛みつくようなキスをした
「んっ…むぅ…ふっ」
バンの唇を舌でこじ開け、口内を好き放題に蹂躙していく
クチュッ…ピチャ…ピチャ
互いの舌と唾液が絡み合う官能的な音が玄関に響き渡る
それは、まるで獲物を捕らえた獣のように荒々しく性急なものだった
「んっ…んん〜っ!」
普段の落ち着きを払った檜山らしくない求め方
檜山の異変に不安を感じたのか、長く深いキスが息苦しかったのか
表情を歪めたバンは檜山の厚い胸板をその小さな拳で一生懸命叩いて、キスを止めさせようとする
檜山は沸き上がる加虐心を堪えつつ、その必死な仕草に免じて唇を離してやった
どちらともない唾液の糸が互いの舌を伝い顎を汚していく
「ッはぁっ…!はぁ…はぁ…レックス!?」
バンは息が荒いままに自分の口内を好き勝手に舐った檜山を睨みつける
だが、潤んだ瞳に上目遣いで睨みつけられても逆効果であることをバンは知らない
檜山はそんなバンを身体ごと振り向かせ、小さい彼に覆い被さるように抱きしめ呟いた
「…そろそろお前を抱きたい。意味はわかるな?」
「!?」
檜山の言葉にバンは目を見開いた
バンも中学生だ
その言葉の意味が全くわからない程子供ではない
なんとなくだが、檜山と自分がお付き合いをしているというなら、いずれそういう事になるというのもバンの拙い想像力なりに考えてはいたのだ
「………」
「俺が怖いか…?」
言葉を失ったバンに檜山が真剣な表情で問いかける
それは何処か怖がられることを拒絶しているようにバンには伺えた
バンは首を横に振り彼に応える
「ううん、レックスは怖くないよ。だって俺もレックスとならその…そういうことしたいって思ってた」
「バン…」
「で、でも俺こういうこと始めてだから…その」
「行為自体がわからないから怖いってのか?」
バンは、こくんと頷いた
顔は羞恥で赤く染まっている
「大丈夫だ、俺に全て任せてくれればそれで良い」
大人の余裕を見せつける檜山にバンはぎこちなく頷いた
「う、うん!…あっ!あのさレックス」
「?…何だ」
「俺こう見えて体力ないからっ!そ、その…余り激しくしないでね?」
「…………」
バンの天然が今日も炸裂した
檜山は無言でやり過すしかなかった
彼はただLBX好きのインドアタイプだからスタミナがないと言うことを言っただけだと思うが、言われた方はタイミングも相まって卑猥な意味にしかとれない
普段のバンも他の者にこんな発言をしてるのではないだろうか
檜山は眩暈を覚えた
「ッ…全く無自覚に煽りやがって…逆に手加減出来ないぞ、せいぜい俺を選んじまったことを後悔するんだな」
「後悔なんかしないよ…レックス好き、大好き」
☆
そして二人はシーツの海に飛び込み、愛しあった
経験の差はあれど、求める気持ちは同じだった
繋がる時に痛みを伴ったが、次第にそれは、甘く痺れるような感覚に変わっていった
檜山の男根がバンの中を擦るたび、バンの口からあられもない声があがり、先走りの精液がシーツを濡らす
自分の痴態を見られる羞恥、普段の自分では有り得ない女のような喘ぎ声をあげてしまう自分がはしたないと思った
だがそれよりも、大好きな人に掠れた声で名前を呼ばれ、その逞しい褐色の腕で抱かれる幸せの方が大きくて
バンは昨晩涙を流し喜びを感じながら達した
☆
意識を飛ばして数時間
バンは既に寝ぼけておらず、鮮明に昨晩のことを思い出していた
(俺…レックスとヤっちゃったんだ…)
目を閉じれば、昨夜の情景が呼び起こされ、檜山の自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくるような気がして…
(だ、ダメっ…恥ずかしいのに思い出しちゃうよ)
バンは茹でタコのように一気に顔が赤くして、首をブンブンと振った
(それにしてもレックス何処に行ったんだろ…)
起き上がった時、昨晩共に過ごしたはずの彼が寝室から姿を消している
(探しにいきたいけど…裸のままだし)
バンは産まれたままの姿でベッド上に座っていたのだ
昨日の情事の為檜山に一糸纏わぬ姿に剥かれてしまったのだ
寝ている時は、掛け物で保温されていた為気づかなかったが、やはり起き上がって掛け物が落ちた為薄ら寒かったのだ
(服どこいったんだろ…)
バンはキョロキョロとベッドの辺りを見回して服を探した
しかし昨日着ていたお気に入りの服一式は上着一つも見つけることが出来なかった
昨晩はいつの間にか裸になっていた為、自分が何処で脱いだのか脱がされたのか良く覚えていない
(どうしよう…レックスの部屋を裸で歩きまわる訳にはいかないよね)
今部屋にはバン一人の為支障はないが、いつ家主が戻るかもわからない
人の家で裸で歩き回るのは失礼だし、何といってと恥ずかしい
むしろ家主の彼は喜…いや、嫌な顔はしないとは思うが、バンにはその自覚がないので何か変わりの服はないか探す
すると、シーツの隙間に黒い服が挟まっていた
「あ、あった!」
バンはその服を手にとり広げてみた
「?…これ、レックスの服?」
バンが手にしたもの、それは所々白いラインの入った黒いパーカー…檜山の私物であった
檜山が普段潜入や捜査の時に着ているもので、モンスターのようなデザインを象ったフード
そして背中の目玉のモチーフと『LEX』の文字がプリントされているのが特徴的だ
(勝手に借りたらやっぱりマズいかなあ…)
だが、此処でこれを着ないと素っ裸のままである
シーツを巻いて行くという手もあるが、このシーツ…汚れているのだ
部屋に汚れを撒き散らす可能性もある
何を撒き散らすかはご想像にお任せしよう
(後から、借りてますって言っても大丈夫だよね)
バンは檜山のパーカーを拝借することにした
羽織ってみれば、彼と自分との体格差をまざまざと見せつけられた
(着る前からわかってたけど…俺とレックスじゃサイズが違いすぎるよ!)
肩は幅が余りすぎてずり落ちそうになっており、袖はまくらなければ指も出ない状態だ
腰までのパーカーのはずが、バンが着てしまうと尻まで隠す程の長さになってしまい、ワンピースのようだった
(でも…この服着てるとレックスが傍にいる感じがするから良いかも)
バンは袖口に鼻をうずめる
(レックスの匂い…)
檜山が昨晩まで着ていたこともあり、彼の匂いが染み付いており、まるで彼に抱きしめられてるような錯覚を覚える
昨夜の情事の余韻が覚めやらぬ今、彼の匂いに包まれるだけで、自然と熱を持ち始める身体
バンは自然と剥き出しの自身に手を伸ばしていた
「あっ…あっ、はぅ…ん」
無意識に自身を扱く早さが増すことに戸惑いを覚えながらも、バンは自慰を止められない
「んっ!とまら、ないよぉ…!レックスぅ…はやくっきてぇ…っ!」
バンは震える自分の身体をぎゅっと抱きしめた
そしてまた、自身を虐め続けるのであった
☆
(まさかこんなに上手くいくとは…)
まだまだ神って奴は自分を見放してなかったんだな
そう心中で嘯いた檜山は上機嫌で寝室に向かっていた
手にはマグカップは2つ持ち、一つは自分用のブラックコーヒー
そしてもう一つはバンの為に淹れてやった甘いミルクココアだった
(全くあいつは…良い歳したオッサンがまた元気になっちまったぜ)
勃ちあがりかけた息子を庇いつつゆっくり足を進めていく
いくらポーカーフェイスが出来た所で男の生理現象や欲求はごまかせやしないのだ
(…作戦は成功だな)
檜山はニヤリと笑い自身の計画の成功に満足した
実は、バンに服を着せず寝せていたのも、バンが起きた時檜山がいなかったことも、ベッドの上に自分の服しか置いていかなかったことも全て檜山の仕組んだことであった
檜山は予め、寝室に隠しカメラを設置しており、早めに起きて別室でずっとバンをモニタリングしていた
昨夜のことをうけてバンがどのような行動に出るのか興味があったのだ
こういった実験的な行為が元研究者の血を騒がせる
そして、覗かれていると知らずに痴態を見せる恋人に酷く興奮するのだ
傍に置いてある自分の服を着たのは想定の範囲内だった
だが、まさか純情そうなあの子が自分の服を肴に自慰まで行ったのは完全に予想外だ
(やはりお前といると飽きないな、もっと可愛がってやりたくなる)
檜山は寝室の扉の前まで来た
この扉の向こうには、檜山の服を着たバンが己の性器を弄っている最中だろう
(全部見ていたと言ったらコイツはどんな顔するんだろうな…)
それもまた面白い
部屋の中の淫らな恋人のことを想いつつ、檜山は寝室の扉を素知らぬ顔で開けるのだった