世は乱世、まさにその通り。私、染井之椿はいつでも命がけで生きております





「元就様お持ちしました」

「入れ」

片腕で大量の書筒を支えながらどうにか障子を開けます。元就様は私をチラ見しただけで助けてやろうという気は全くないようです。いや、期待したのが悪いのか………自力で頑張ろう。

「何処に置けばよろしいでしょうか?」

「そこに置け」

「御意」

指定された場所へ移動します。その間、元就様が傍らにあった書筒の一つを取り、滑らすように畳へと落としました。ころころと転がった書筒は私の足下へ。その存在にまったく気づかず、次の一歩を踏み出しました。ズルッ、と畳とは違う感触に滑って転びました。手元にあった書筒は四方八方に飛び散ります。強かにお尻を打った模様。おぉ、痛い…。

「何をしておる」

「こ、転びました」

「そんなのはわかっておる」

だったら聞かないでください(けして声にだしては言えないのです)

「書筒を回収せぬか」

そんなすぐに動きだせるほど頑丈じゃないんです、とは言えず。輪刀がでてきそうな雰囲気だったので急いで起き上がるとぶちまけた書筒を回収していきます。って、障子に穴が空いてる!!!しかも一つだけではなく何カ所も。多分、書筒が外に飛び出したのでしょう。私はどれほどの勢いで転んだのでしょうか…はっ!! 大変だ!!!就様の自室の障子に穴が空いてしまった!!!これは大問題です!!!へたすると首がちょん切られてしまう!!!

「元就様!!申し訳ございません!!障子に穴が!!」

「どうするつもりだ?」

「ど、どうすればお許しいただけますか」

「貴様の部屋の障子と我の部屋の障子を交換せよ」

「私があれを使うのですか!?」

「そう申しておる」

そんなご無体な!!いくらもうすぐ春だとはいえ、明け方はまだまだ寒いこの時期をもはや役目を果たしてない障子で過ごすのですか!?隙間風入りまくりじゃないですか!!

「それだけはどうかご勘弁を!!そうだ!!今すぐ貼り替えま「貴様は我に穴の空いた障子を使えと申すのか?」

「交換して参ります」

「わかればよい。ついでにお茶も持ってこい。書筒の回収、忘れるでないぞ」

そんないっぺんに言わないでください。障子を持ちつつお茶と書筒も持ってくるなんて離れ業、私には出来ません。それでも元就様はやれと命令なさるのでしょうね。出来ればお茶は待女に頼んでください。私は一応武将ですから………どうせ障子を貼り替える暇など与えてくれないのだから、もう数枚お布団を借りてこなきゃ。凍えてしまう。

たぶんこの時の私の後ろ姿は哀れだったと思います。これが日常茶飯事なのですから笑えません。





「お持ちしました」

「うむ」

お茶を渡して脱力。物凄く疲れました。今までの一連の動きを説明するとこうです。

自室から持ってきた綺麗な障子を穴あき障子と交換→交換したやつを私の部屋にはめてから書筒を回収→待女さんに頼んで淹れてもらったお茶を取りに行って戻ってきた。

途中、あまりの忙しさに待女さんにお茶を運んでくださいと頼んだのですが、怖いから嫌、と拒否されました。淹れてくれただけでも感謝しないといけませんよね。例え職務怠慢だったとしても。これだけ頑張ってるのに安月給なんてあんまりだ。

降りかかる不幸に心の中で(ここ重要)嘆いていたらお茶を飲んだ元就様が眉間に皺を作っていました。これでも危機察知能力は高いのです。嫌な予感がする…!!!

「温いわ」

「ムギャァァァァ!!!」

女の子らしくない悲鳴を上げてしまいました。いいんです、女の子らしさなんて元就様にお仕えし始めた頃、池に沈めました………嘘です。幼い頃からお転婆だったので母上のお腹の中に置いてきたと思われます。悲鳴を上げてしまったのも仕様がないかと。だって元就様がお茶を投げつけてきたのですから。持ち前の反射神経でなんとか避けました。この反射神経も元就様のおかげで培った物で、助かったと思うのですが素直に喜べません。

「ななな、何をするのです!?!?!」

「ちっ」

質問に答えてもらうどころか舌打ちされました。

「こんな温い茶など我の口には合わない」

だからといって投げつける必要はないかと。ていうか、それ私が淹れたわけではありません!!

「それより椿、あれはどうするつもりだ」

「は?」

ニヤニヤする元就様。こういう笑い方をするときは心底愉しんでいるのです(何を?って聞かないで)嗚呼、私の脳が警鐘を鳴らしております。振り向いたら終わりだ、と。それでもやらねばならぬのはどちらにしても酷い目に遭うからです。振り向きたくねーよ、と嫌がるもう一人の自分を押さえつけ、首を後方に回します…やっぱ見なきゃよかった。そこにあったのはお茶が原因で汚れてしまった障子でした。

「さて。どうしてくれようか」

デジャヴ!!!この後の展開が手に取るようにわかるのはどうしてですか!?おそらく、一度体験したことがあるからだと思います!!(自問自答)

「貼り替え「今すぐ取り替えてこい」

結果がわかっているとしても足掻きたいものなんです、人間って。私の部屋の障子は穴あき+お茶の匂いがすることになりますね。あ、でもお茶の匂いはリラックス効果があるとかないとか。ちょうどいいや自室ぐらいはゆっくりしたいもんね………ちっとも慰めにならなかった。きっと部屋の前を通った人は変に思うでしょうね。それとも、また元就様にいじめられたのかと哀れんでくれるでしょうか。

「ボケッとしてないで早くせぬか」

蹴られそうになったので緑色になった障子を持って退散しました。ついでだからいつでもだせるようにと書いておいた辞表を持ってこようと思います。





辞表をだす準備はしております
(準備だけはしてあるのです。)





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