その後の毛利軍
さぁ帰ろうか、ってなったとき。
「椿。此度の戦、よく働いた。褒めてつかわそう」
普段の元就様からは想像できない優しい笑みを浮かべ、労いの言葉をくださりました。これです、このレアな言動が見たい、聞きたいがためだけに私は蔑まされようとも元就様についていこうと思うのです。
「そのようなお言葉、私には勿体のうございます」
「左様か。なら喜べ。そのような言葉を本気で言うと思うてか」
美しいともとれた微笑みが悪魔の笑みに早変わりしました。悦に浸っていた私は一気に目を覚まします。
「はい?」
「貴様、我ばかりに戦わせてほとんど逃げておったではないか」
それは元就様が敵味方関係なく技を使われるので巻き込まれないようにと必死に避けていたのであって、けして敵に背を向けていたわけでは。ていうか、元就様一人で楽しそうに敵&味方を倒していましたよね!!!
「違います!!それは!!」
「貴様には褒美をやろう。準備をしろ」
弁解すらさせてくれません。準備って何でしょう?聞くまでもないのかもしれません。だって、いつの間にか馬に跨った元就様は、至極楽しそうにしておられるのですから。馬はなんで興奮しているのですか?それぐらい訊いてはだめですか?
「船まで走って帰れ。途中で止まったら轢くぞ」
采配で馬の尻を叩かれました。それが合図だったのです。
「無理です元就様ぁぁぁ!!」
「つべこべいわず走れ」
馬に轢かれるのは嫌なので全速力で逃げます。船のある場所、砂浜まではかなり距離があります。背後から聞こえる蹄の音が恐怖を誘います。戦でもこんなに恐怖を感じたことはございませぬ。他の武将さんや兵士さんは精一杯の哀れみと同情の眼差しを送ってくれます。そんな目で見るぐらいなら助けてくれと叫びたいですが、巻き込まれたくとのはよくわかるので我慢します。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
「うむ。楽しい」
此度の私は戦より元就様のいじめせいで天に召されるところでした。毛利軍なんてやめてやろうと決意した所存です。
途中で力尽きた私を轢くこともなく、文句を言いながらも自分の馬に乗せてくれた元就様に、辞表をだすのを思い留まった私は世界一の大馬鹿だと思います。