フラフラになりながらも元就様についていくと、再び広場のような場所に辿り着きました。どうやらここが終着地のようです。また巨大カラクリでも出てくるのではないかと戦々恐々としておりましたが、何も出てきません。代わりに広場のど真ん中には人が立っていました。
「元就様あれは…」
「黙れ」
元就様の雰囲気が一変、冷たくありながらも苛烈さも感じます。本気モードに入られたようなので、邪魔にならぬように後方へ下がります。
「よォ毛利。好き放題やってくれたじゃねぇか」
碇のような大きい武器を担いで出迎えたのは長曾我部軍総大将、長曾我部元親その人です。左目に紫根の眼帯を装着。背は高く、体つきもがっしりしております。これは鬼と呼ばれるに相応しい風貌と貫禄であります。
「道を塞ぐ阿呆共がいたのでな。排除したのみよ」
「そうかい。野郎どもが散々世話になったようだから、たーっぷり礼をしてやらなきゃなぁ?」
笑っていますが、かなり怒っているようでこめかみに青筋立てています。対して元就様はふん、と鼻を鳴らすのみです。お互いに殺気を飛ばしあっているのでこちらの息がつまります。
「貴様の御託など聞きたくもないわ。ここで朽ち果てよ!!」
先手必勝、とばかりに元就様が攻撃を仕掛けました。輪刀を回すと光の輪が出現。それを前方に放つと大きく広がり、長曾我部殿を囲みます。これは「縛」という技です。輪の幅が狭まり、中心にいる人物を圧殺するのです。圧殺………えげつねぇ。
「こんなもんで俺の首が取れると思うなぁ!!!」
「おぉ!!跳んだ!!」
「椿」
「はい?」
長曾我部殿は跳躍すると光の輪から抜け出しました。元就様もさることながら、上手く「縛」の技を回避した長曾我部殿に感心していると、背後に元就様が立っておりました。いつの間に!!
「ど、どうされました」
「ついでだから貴様も行け」
「ついでってどういうことですか!?」
片手で持ち上げられるとそのままポイッと投げ飛ばされました。ドンッ!!と、背中を強打。おお、痛い。最近はこんなのばっかりだ。って、やけに周りが明るい。
ふと、周りを見ると四方八方で光っているものがどんどん迫ってきます。あ、わかりました。どうやら私は「縛」の技の中にいるようで…す!?
「元就様!!これはどういうことですか!?」
「最近の貴様は職務怠慢がすぎる。よってこれは仕置きだ。甘んじて受けろ」
長曾我部殿みたいに跳躍するのは不可能、逃げ場はありません。元就様はニヤニヤしながら傍観しております。完璧楽しんでいる…!!!そんなに部下をいじめて楽しいか!!!うわぁん!!!
「後生ですのでお許しください!!」
「案ずるな。ちょっと焼け焦げる程度よ」
ちょっとじゃ済まされないでしょう!!そもそも、長曾我部殿に向けて放った技ですから殺傷レベルはマックスですよね!?圧死とか、そんな死に方は嫌!!!
そうこうしている内に光の輪はどんどん近づいてきます。今日が命日か、と下を向いた瞬間、活路を見出しました。成功するかわかりませんが迷っている暇はありません。急いで腹這いになり、出来るだけ体勢を低くします。こうすれば輪は頭上を通過して触れずに済む…はず!!
「(恐ぇぇぇぇ!!!)」
輪がどんどん縮まっていくのが恐ろしくてきつく目を瞑りました………そろそろ圧殺されてもおかしくないのですが、何時まで経っても痛みはやってきません。恐る恐る目を開けてみると「縛」は消えていました。た、助かった!!!
「椿よ。空気よめ」
「ぼぶっ!?」
喜んだのも束の間、元就様が私の後頭部を踏みつけるので地面と接吻をするはめになりました。踵でグリグリしてきます。痛い痛い痛い!! 口の中に砂が入る!!鼻がつぶれる!!息ができない!!禿る!!
苦しいやら痛いやらで相手が主であるのも忘れて暴れまわったら(というより元就様が満足したようで)解放してくれました。半泣きになりながら顔を上げると長曾我部殿がうわ…と、ドン引きしています。なんかもう、いっそ死にたい。
「長曾我部、貴様にはこれをくれてやる!!!!」
「ぶっ!!!」
なんでこんな辱めを受けているのだろう、と考えていたら元就様は長曾我部殿に何かを投げつけました。長曾我部殿の顔面にぶち当たります。ピターっと張り付いている長方形の薄い紙は文のようです。
「なにしやがるんだてめぇ!!」
「いいから読め!!」
「ああ!?何だって言うんだ、たくっ」
素直な長曾我部殿は言われた通りにします。読み進めるにつれ、戸惑った表情が憤怒へと変化していきます。鬼の形相とはこのことか。長曾我部殿はがばっ!!と顔を上げました。
「どういうことだこれ!!同盟を承諾する文じゃねぇか!!」
私の目が点になります。ど、同盟?なにそれ、初耳ですが。元就様を見ると明後日方向を向いています。そんな元就様に代わり長曾我部殿が説明してくれました。
世を騒がせている第六天魔王こと織田信長が西への進出を企んでいるそうで、単独で対抗するのは無謀と判断した長曾我部殿は、元就様に同盟を組むことを打診したそうです。しかし、待てど暮らせど返事は来ず、それどころか戦を仕掛けてきたので交渉は決裂したと思ったとか。あぁ、なんとなくわかってきました。元就様も考えは同じ、利害は一致していました。とはいえ、元就様の性格上、長年の仇敵である長曾我部殿と素直に手を組むのが嫌でこんな形をとったのではないかと。子供か。
「貴様がこの我と同盟を組むに値するか試してやったのよ。それに我が直々に文を届けてやったのだ。泣いて喜べ」
「何度も戦をしてるんだから俺の実力なんて知ってるだろう!!文を届けるためだけに戦おこすな!!この阿呆!!」
「口を慎め長曾我部!!誰に向かって物を申している!!」
「でめぇだよ!!オクラ野郎!!」
「オクラっ…!?貴様、チクビの分際で生意気ぞ!!」
「チクビ言うな!!」
元就様と長曾我部殿のレベルの低い口喧嘩など聞こえず、私は膝をついて項垂れます。脱力感が半端ないです。今までの苦労は何だったのでしょう…。
「椿!!」
「宍戸様」
宍戸様(やっぱアフロ)を先頭に、復活した毛利軍の皆さんが駆けつけてきました。状況を把握出来ずに困惑しているので何があった説明します。反応は人それぞれ。中には卒倒する者もいてちょっとした騒ぎです。
「ということはなんだ。そもそも同盟を結ぶ気ではあったのか!!」
「素直に応じたくなかったようです」
「そんな馬鹿な!!!」
「信じたくありませんが事実です………ふはっ」
「椿!?」
「いやなんかもう、馬鹿らしくなってきて!!ははは!!」
「た、確かに………ふふふ、ふふふふふ!!!」
「「あはははははは!!!」」
枷が外れたようで笑いがこみあげてきました。いきなり笑い出した私につられて宍戸様も笑い始め、感化されるように毛利軍全体に広がっていきます。やけになった毛利軍の笑い声が戦場に響き渡ります。突然の奇行にぎょっ、としたお二方は言い争いをやめました。頭大丈夫か、といった表情をしておられますが、構ってられません。やってらんねぇー!!!
「「「「「ふはははははははは!!!」」」」」
笑うしかない毛利軍でした。
「縛」は日輪に代わってお仕置き・・ぎゃあああああッ