先月から始まった選挙運動の遊説に繰り出した雇い主に同行し、関東一円をまわるという過酷な出張から名前が戻ったのは、出発してから三日後の夜八時ごろ。

それまでも、スケジュール調整、各候補者への花の手配、宿泊先、食事処と時間など事前準備に追われていた名前は、休日返上で働き通しだった。

気がつけば、最後にシュウに会ってから、半月近く、顔も見ていなければ声も聞けていない。この前、一日中、文字通り抱きしめられ続けて、体のあちこちに刻まれた痕も、とっくに消えてしまった。

自分の仕事にはやりがいを感じている名前だが、それでも今日ばかりはたまった疲労と、シュウに会えない寂しさが胸を占める。

会いたい。けれども、こんなくたびれた姿では会いたくない。

悶々としながらエレベーターを降り、自宅のドアのカギを開けた。

真っ暗な玄関の明かりをつけるのももどかしく、黒のローファーを脱ごうとして何かに躓いた。

「きゃあ・・っ」

疲れ切った足では踏ん張ることもままならず前のめりに倒れ込む。

「・・・・っあ・・・いっ・・・たくない・・・?」

名前の身体を受け止めたのは、固く冷たい床ではなかった。いぶかしげに眉をひそめて、体を起こそうとした途端、がっちりと拘束され、唇を塞がれた。

「ん・・・っ!ん〜〜〜・・・っ!」

突然の事態に、名前はまだ靴を履いたままの足をばたつかせ、体をよじった。

「自分から覆いかぶさってきたくせに、何抵抗してんの」

唇を解放されたと同時に、呆れたような声がして、やっと正体を掴んだ名前は驚きに目を見開いて叫んだ。

「シ・・シュウさま・・・っ!?どうしてここに・・・っ」

「どうして?いつまでたってもあんたが来ないからだろ・・・・俺をこんなに待たせるなんて、許されないことだって、わかってる・・・?」

暗闇の中で、シュウの怒りを押し殺したような囁きを聞いていると、自然に体に震えが走る。

「も、申し訳ありません、でも、私・・・」

「無駄な言い訳なんか、聞きたくない。あんたにできることは、今すぐ俺に、全てを差し出すことだけ・・・・・そうだろ・・・?」

ヴァンパイアはよほど夜目がきくのだろうシュウは全く明かりのない状態にも関わらず確実に響の身体を捕えて、唇を首筋へ寄せる。

「はぁ・・・この匂い・・・久しぶりすぎて吸いつくしたくなる・・・ん・・・っ」

ずぶずぶと、最初から深く牙を沈ませて性急に名前の血を飲み込む音が響く。

「あ・・・んぅ・・っあ・・ぁ・・・っ」

いつもなら、シュウは必ず牙を差し込む前に肌に吸いついて、痕を残すのに。まさに、食べられていると思ってしまうようなシュウの吸血の激しさに、疲れた体から、意識が抜けそうになる。

「はぁ・・っ、待って・・・待ってくださ・・・っ私にも、顔を、見せて、くださ・・・い、シュウ、さま・・」

このまま意識を失ってしまうことだけは避けたい。名前だって、幾度となくシュウの姿を求め、夢にまで見ていたのだから。

名前の言葉を聞いて、シュウはようやく顔を上げる。

「見せてもいいけど、後悔するなよ・・・」

シュウの身体にもたれかかっている名前ごと、身を起して、シュウは名前を抱えあげると真っ暗な中を危なげなく進んでベッドに倒れこんだ。

カチ、とベッドサイドのスタンドをつけると控えめな灯りがベッド回りを照らした。

「名前、こっち見て」

明るさに目を慣らすために、ゆっくりと目を開いて見上げる。

「シュ・・・・!!」

合わせた瞳の鋭さに、名前は息を呑む

こんなシュウは見たことがない。

気だるげで、目じりが少し垂れた眠そうな印象の蒼い目はいつも、どこか焦点が合っていないようで、それはそれで色気をふんだんに含んでいたが、今夜のシュウは、まるっきり、別もののようだ。

「シュウ・・・さま、こわい、です・・・」

「・・・後悔するなって、言ったはずだけどもう、遅い・・・あんたは俺を、本気にさせたんだ」

視線に縫いとめられたように、身動きの取れない名前の身体を押さえこんで、シュウは熱い吐息で、名前の頬を撫でた。

「・・・・っ、あ・・・」

過敏になった全身の神経が、シュウのわずかな動きを感じてざわめく。

「ん・・・ふぁ・・あ・・っあ、シュウさ・・っ」

シュウの瞳に射抜かれてからは、嵐のようだった。体の底から快感を引きだされ、容赦なく攻められて、息つく暇さえない。

名前は、はしたなく開ききった唇から甘く濡れた声を延々上げさせられて、終わりが来ないのではないかと思うほど長い、悦楽の連鎖をさまよった。

「あんっ・・あ、シュ・・さま、も・・・だめ・・・だめ・・っこれ、以上は・・・もぅ・・っ」

互いの体液に濡れて艶めいた体を、スタンドの灯りが、いやらしくシュウの前に浮かび上がらせる。名前のとろけきった表情ひとつにさえ煽られて、シュウは咥内に溢れる唾液をこくりと飲んだ。

いくら貪っても満たされることがないその欲に、一番驚いているのはシュウ本人だ。

「ぁ・・・俺はもう、あんたを手放せない・・・だから、あんたも、俺から三日と離れられないように・・・っ俺なしでは生きていけないように・・・溺れさせてやるよ」

今夜だけで何度目になるかわからない、シュウの熱を最奥に感じながら、名前は頷いた。もう、とっくに離れられなくなっている。名前の心だけじゃなく、細胞の一つ一つがシュウを求めて悲鳴を上げている。

それを抑えながら仕事に費やした半月は今、この瞬間のためのスパイスのような気さえしてくる。

シュウを求めて疼く、痛みや切なさが大きければ大きいほど、互いの体の境界線は薄くなり、よりひとつに溶けあえる感覚が増す。

夜が更けて、東の空がしらじらと明けるまで、シュウのキスが止まることは、なかった。









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「夜啼く鳥は夢を見た」の鶫様からいただきました。いただきました!!(二回言った)シュウさんの本気!!半端ないです!!こんなにもシュウさんに求められたら全部捧げちゃいそうですね。大変悶えさせていただきました!!リクエストの品をさらにリクエストするという暴挙にでたかいがありました(笑)

鶫様、ありがとうございました!!




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